控え室
「おう、じいさん、あんたも突破したのか」
運営スタッフに案内され、テントの控え室に戻ると、先に予選を突破していたベン・シャポルが声をかけてきた。
「ああ、なんとかなったよ」
二番目に予選を突破した十七番の女性もいたので、軽く会釈して、よいしょと、椅子に座った。
「じいさんのおかげで助かったよ。どうだ早かっただろ、キーリング器官」
ベン・シャポルは笑った。ベン・シャポルは魔法生物学の教師をやっている。
「いや、あの場合は、もうちょっと待った方が良かったよ。別の答えの可能性があったからね」
「どういうことだい」
俺は理由を説明した。
「なるほど、火打ち歯か。そっちのパターンもあったんだな。気がつかなかったぜ」
「お手つき一発退場だったからね。待った方が良かったと思うよ。わしもあまり人のことは、いえんがね」
問題を最後まで聞いてから答えようと思っていたが、つい途中で押してしまった。
「深いねぇ。どこで押せば良いのかわからなくなっちまうよ」
「ある程度はわかるよ。たとえば、何々を、なんと言いますか? という問題であれば、素直に答えれば良い。だけど、何々を、ぺけぺけと言いますが、これそれは何でしょう。とくれば、別の答えになる。何々を、の後の言葉が重要になってくる」
「なるほどねぇ。そういうパターンもあるのか」
ベン・シャポルは感心したような顔をした。
「あの、そんなにモンドって、いろいろあるんですか」
控え室にいた二十代ぐらいの女性がおずおずと話しかけてきた。
「そうなんだよ嬢ちゃん、深いんだよ」
ベン・シャポルは深くうなずきながら言った。
「私、マリー・ペテルといいます。友達と参加したんですけど、私だけ勝ち残っちゃたんです。モンド大会に出るのなんて初めてだから、ちょっと、どうして良いかわかんなくて」
ハンカチを手に膝の上でもじもじとしていた。
「基本的には、問題をよく聞いて、わかった、と思った瞬間押せば良い。ただ、そのわかったが、正しいわかったなのか、問題を読み間違えてわかってしまったのか、そこが難しい」
思い込んで押してしまうことはよくあることだ。
「確かにな、まぁ、俺の場合、生物の話だったからな。すぐにピンときて手を出しちまった訳よ」
「わかる。得意分野は気負ってしまうものだ。これは、答えなくちゃいけないと思って、つい前のめりに早めに押してしまう」
「自分が詳しいジャンルだって思うと、興奮しちゃいますもんね」
「そう、だから、落ち着かなくちゃいけないんだけど、なかなか、そうもいかないよ」
「へぇ、おもしろいですね」
「そうなんだよ。おもしろいんだよ。俺も、このじいさんに会うまでは、問題を普通に聞いてたんだ。問題の途中で、問題の続きを考えるなんてことは、してなかったんだよ」
「おじいさんって何者なんですか」
マリー・ペテルは首をかしげた。
「なに、隠居した、ただのじいさんさ」
「はっ、またそれかい。きっと、モンドの仙人か何かだぜ。おっ、ローレットも予選通過したようだな」
エルフのローレット・レレンが控え室のテントに入ってきた。
「いやあ、疲れましたよ」
近くの椅子に座った。
「ご苦労さん、手こずったようだな」
「ええ、お手つきで、敗退する者が出ましてね。情けないが、それを見てしまうと、押すのが恐くなってしまった」
「そりゃあ、一発退場だからな、俺も危ないところだったみたいだぜ」
「どういうことですか。あなたは一番最初に予選を突破したはずですが」
ローレット・レレンは眉を上げた。
「それがな、じいさんによるとだな」
ベン・シャポルは俺が説明した話をローレット・レレンにも、した。
「なるほど、問題が二部構成になっていて、途中で、モンドの問いが変わってしまう可能性があった。その点を、君は考慮していなかったというわけですね」
「ま、そういうこった。だが、まぁ、おかげで、一番に通過したぜ。結果オーライって奴だな」
「状況によっては有効な手段ということじゃよ」
俺は言った。
「確かに、一問、間違えたら敗退という状況では、しかも一問目となると、良くないかもしれませんね。しかし間違えてもリスクの少ないような状況なら、一か八か答えてみるというのも、良いのかもしれませんね」
考えこむような仕草を見せた。
「勝負事じゃからな、一か八かは、好きじゃないが、先に答えられても負けじゃからのう。どこかで割り切りゃなきゃならん」
どこで問題を確定させるか。早押しクイズにおいて最も難しい部分だ。問題の途中で答えれば必ず推測が入る。推測は時に間違う。間違えば罰則がある。だが、押さないことには勝ちはない。だからどこかで押す。ビビりながら迷いながら、知識を頼りに、ここだと思ったところで押す。そういう競技なのだ。
「ま、あんまり気に過ぎるのも良くないってことだな。しかし、いいのか、じいさん、そんなにいろいろ教えてさ。俺ら敵だぜ」
他の予選通過者も、こちらの話に耳を傾けているように見えた。
「別に隠すような話じゃないさ」
クイズ研究会では、よくこういう話をしていた。
向こうの世界は、今頃どうなっているんだろうか。まさか、帰ったら、五十年ぐらい経ってたなんてことはないだろうな。
モンド談義に花を咲かせているうちに、一回戦が終わり、二回戦に進む十五名のメンバーが決まった。




