一回戦
それから、ベン・シャポルとローレット・レレンの二人と、モンドについて話した。ラトスのモンド大会には、二人とも、三回ほど参加しているそうだ。優勝した経験はないが、最高で準決勝までいったそうだ。ベン・シャポルは魔法生物学を、エルフのローレット・レレンは魔法科学を教えているそうだ。
そうこうしているうちに、開会式や主催者挨拶が終わり、本戦が始まった。
運営スタッフに案内されるまま、木の台を並べて作った舞台の上に移動し、解答席に座った。長テーブルの上に設置された解答ボタンが正常に作動するかどうか確認を求められたため、丸形のボタンを押した。ランプがつき、ポン、と甲高い音が鳴った。ボタンは押し込み式で、予選のものより感度が浅めだった。ボタンを押す音があちこちで鳴る。
観客席を見ると、三分の一ほどまばらに埋まっていた。エレナを探すと、前から三列目辺りで手を振っていた。
「それでは、エディ商会主催、第二十七回、ラトス、モンド大会、本戦を始めたいと思います」
小さな拍手が起こる。
司会は、セレ・ハリスさんといって、口ひげを生やしたラメ入りのスーツと帽子を着た派手な格好をした男だ。本戦のルールについて説明してくれた。
本戦は、三十人の出場者が一回戦、二回戦、三回戦、決勝と闘い優勝を決める。上位三名には賞金や旅行券が贈られるらしいが、この世界の人間ではない俺には関係のない話だ。
初戦の一回戦は、早押し勝ち抜き戦、一問正解すれば二回戦に出場できる。お手つき一回で退場になる。十五人決定するまで行われる。
問題をじっくり聞いて答えていけば良いのだが、本戦に出場している参加者はそれなりの知識があるはずだ。待ちすぎても負けるかもしれない。問題の終わりを、ぎりぎりで見極めなくてはならない。
「それでは、一回戦、早押しモンド、始めます」
司会のセレ・ハリスさんが言った。
解答ボタンに軽く手を置く。
「第一問」
モンドの読み手は、エム・カルラさん、はきはきとした張りのある声をしている。エディ商会の広報の女性だそうだ。
「火吹きドラゴンの」
キーリング器官だと思うが、ちょっと恐いな。
「体内にある」
ポン! と、甲高い音が鳴った。
「二十九番の方どうぞ」
「キーリング器官!」
左の端の方にいたベン・シャポルが答えた。
「正解です。火吹きドラゴンの体内にある、ふいご状になっている火吹きドラゴンの喉にある器官は何? キーリング器官です。二十九番の方一回戦突破です。おめでとうございます」
拍手が起こった。
ベン・シャポルはガッツポーズをとり、こちらに向かってにやりと笑った。
押すのは早かったと思う。あの段階では解答は二択あった。火吹きドラゴンには有名な器官は二つある。一つは体内の魔力を可燃性のガスに変え吹き出すキーリング器官、もう一つは、火打ち歯と呼ばれる舌に生えた鱗状の舌歯である。火吹きドラゴンはキーリング器官からガスを吹き出し、舌歯をこすり合わせ、火花を散らし火を吹く生物である。ベン・シャポルが解答ボタンを押した段階では、キーリング器官と火打ち歯の二択あった。
火吹きドラゴンの体内にある、ふいご状になっている器官を、キーリング器官と言いますが、口の中にある火花を発生させるための器官は何? と、来る可能性があった。初っぱなから引っかけ問題が出る可能性は少ないが、一回戦のルールでは、お手つき一回で退場である。まだ、勝負する段階ではないだろう。
「早速一人、一回戦突破した方があらわれました。一人突破したため、残りは二十九人、二回戦に進めるのは、十四人です。では、続きを」
司会のセレ・ハリスさんが言った。
「では、次の問題です。第二問、樹暦三世紀ごろ」
歴史問題か。
「アバの女王ケンティルが」
コルトス戦争、駅馬車の整備、ことわざなら、金の槍で竹をいぶす、なんてのもあるな。
「使っていた」
何だ。
「額のしわを隠すための美容整形を何という?」
ポン!
「十七番の方どうぞ」
「ヘリタリン整形」
「正解です。樹暦三世紀ごろ、アバの女王ケンティルが使っていた額のしわを隠すための美容整形は何? ヘリタリン整形です」
拍手が起こる。十七番の女性は観客席に向かってうれしそうに手を振った。
整形技術ってのは、そんな昔からあったのか。
「十七番の方、予選突破おめでとうございます。残りは二十八人、二回戦に突破できるのは、十三人となります」
司会のセレ・ハリスさんが言った。
「次の問題です。第三問」
よし、落ち着いていこう。
「枯れた腕の中」
作者名か。賞を受けた作品名か。
「草月の湖、るわんるわん、などの」
作者名だ。行くか。どうする。いや、まだだ、続きで問いが変わるかもしれない。
「作品で」
ポン!
「二十一番の方どうぞ」
ああ、押してしまった。俺の解答ランプがついている。最後まで聞くつもりが、反射的に押してしまった。あっているとは思うけど、間違えたら一発退場だ。観客席を見る。エレナが祈るように、こちらを見ている。
「レリック・ハマニエル」
答えた。どうだ。
「正解です。枯れた腕の中、草月の湖、るわんるわん、などの作品で知られる著者は誰? レリック・ハマニエルです」
「よし!」
一回戦突破だ。
観客席を見ると、エレナが大きく拍手をしていた。黒猫のテンヒルさんも竹かごの中から身を乗りだし、空中をかきかきしている。手を振ると、エレナは、おじいちゃーん! と大きな声で返してくれた。




