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異世界クイズ  作者: 畑山
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クイズ大会にて

 会場が熱く盛り上がっていた。と、言いたいところだが、そこまでではない。地元商店がいくつかスポンサーになって行われているクイズ大会である。会場は市営の体育館、長テーブルとパイプいす、解答ボタンは若干小さく、少しぐらついている。会場内の人はまばらだし、携帯画面をのぞき込んでいる人たちも多い。優勝賞品も、味噌やら米やら、地元の生活品が多い。それでも、百人以上の参加者の中から決勝まで、これたのは、うれしかった。得意分野である歴史、スポーツ関係を落とさず拾えてきたことが大きい。運にも恵まれた。決勝までこれなかった大学のクイズ研究会の同期や先輩は観客席に回って、熱心に応援してくれている。その期待にも応えたかった。

 読み手兼司会者である篠塚さんが台本に目をやった。

 決勝戦が始まる。心臓が早鐘のように打っている。

「それでは、問題です」 

 ボタンの上に手を置く。強く押しすぎると壊れてしまうため、優しく押すようにとあらかじめ言われている。問題が読まれる。

「二重行政の弊害などと言われ、国が、ち」 

 押す。ピンと音が鳴り、四番の解答ランプがともった。

 俺じゃない。遅れた。

「四番、山上さん」

「出先機関」

「正解です。二重行政の弊害などと言われ、国が、地方行政に置く機関は何? 出先機関です」

 拍手がまばらに起こる。

「えー、それでは次の問題です。明治時代、陸軍軍医」

 押す。俺のテーブルのランプがつく。

「五番、坂木さん」

「森鴎外」

 読み手兼司会者である篠塚さんが少しためた。違うのか。

「残念、不正解です。七番坂木さんお手つきで二問お休みとなります」

 俺は運営が用意してくれたテープで赤い×が入ったマスクをつけた。お手つきをした俺は、この問題の解答権を失い、次の二問の解答権も失う。

 引っかけか。さっき押し負けたから強気にいきすぎたか、だが、引っかけを気にしすぎたら押し負ける。「ドンマイ、坂木!」同じクイズ研のメンバーが声をかけてくれた。手を上げそれに応えた。

「問題を読みます。明治時代、陸軍軍医を務めながら小説を書いた、森鴎外ですが」

 ああー、と観客から声が漏れた。

「留学先はどこ」

 ボタンを押す音が複数鳴る。二番のランプがついた。

「はい、二番、古手川さん」

「ドイツ」

「正解、明治時代、陸軍軍医を務めながら小説を書いた、森鴎外ですが、留学先はどこ? 答えはドイツです」

 まとまった拍手が起こる。おそらく別の大学のクイズ研究会の人なのだろう。お手つきをした俺は、後二問我慢しなければならない。


 八問進んだ。お手つきから復帰しても俺は一問もとれていなかった。決勝戦中盤で、六人いる参加者の中で、俺だけが一問もとれていない。問題が進むにつれお手つきが怖くなってくる。だが、ボタンを押さない限り勝ちはない。額の汗を袖でぬぐう。

「坂木、落ち着いていこー!」

 クイズ研究会の先輩の声援が聞こえる。わかっている。だけど、落ち着けって言われたって落ち着けるものではない。とにかく押さないと。強気だ強気。集中集中。

 篠塚さんが次の問題を読み上げようと息を吸い込んだ。俺は問題を聞き逃さないよう耳を澄ませた。

「次のー」

 止まった。問題を読んでいる篠塚さんの声がスイッチが切れたかのように止まった。問題が、いつまで待っても読み上げられなかった。なにかあったのかと、頭を上げようとしても体が動かなかった。

 なんだこれは、声を出そうとしても声が出なかった。音も消えている。完全な無音、まるで時間が止まってしまったような、静けさ。

 球が止まって見えた。プロ野球選手、川上哲治氏が全盛期にいった言葉だそうだが、クイズに集中しすぎて会場が止まって見える、なんてことがおこるのだろうか。

 今度は手元のボタンが二重に見えてきた。目の錯覚のようなものではなく、一つの物体が二つに分かれていった。ずれが徐々に激しくなっていく。

 何が起こっている。

 助けを呼ぼうと声を出そうとしたが声は出ない。瞬きもできない。

 ずれる。

 視界が下にずれる。

 体が下に落ちる。

 落ちる。

 落ちる。




 目が覚めると女の子が俺の手を握っていた。

 体がだるい。目がかすむ。そして右手を握る十代後半ぐらいの女の子、これは夢なのか。ここはどこだ。ベットの上に寝転んでいるようだ。どこか見覚えのある部屋だ。

「おじいちゃん!」

 女の子は俺に向かってそう言った。




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