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6 倒れた聖樹を凍結して立て直せ!

「私としても、頼んでいて申し訳ないんだけども。どうしても怒りを抑えられないんだよ。感謝したいはずなのに」


「すみません……」


村長のもとまで帰ってきた。どうも大事な聖樹を氷魔法で折られた怒りが未だ収まりをみせないらしい。


その謝罪の念を込めて、ヴィリスとフライスは炎龍を倒したはずだったのだが。


「炎龍の討伐はありがたいんだ。娘の治療してくれたフライスにも感謝している。ただ、ヴィリス君。聖樹だけは……」


「本当に大事なものを、すみませんでした」


何度も謝っているものの、どうしてもそれだけは許せないようだった。炎龍の凍った亡骸は現在、聖樹の上に乗り上げてしまっている。


さらに無惨になった聖樹の様子は、すでに村長にみられてしまっている。


「本来であれば、契約も終わったことだし、今すぐにでも出ていって欲しかったんだがね。炎龍の亡骸の処理をできるギルドが、いま休みの期間で来てくれないのだよ」


「自分たちが汚したんだったら、自分たちで整えて去るのが礼儀、ということですか」


「そういうことになる。聖樹の上にある禍々しいものは、さっさと撤去してほしい。できるだけ早急に」


たとえ折れてしまっても、聖樹であることに変わりはない。その上に物が乗っかるだけでも、村長にとっては一大事のようだった。


「僕とフライスで、できるだけのことをします」




村長の家を後にし、聖樹の方までふたりは向かった。相変わらず、ひどい様だった。

体を滅多刺しにされた炎龍の血が草原まで侵食してきており、近寄るにも近寄れない。きつい匂いまで立ち込めている。


「まだ怒ってるとか、どれだけ聖樹に執着心のある人なの。これまではずっといい人だと思ってたのに」


「どんないい人だって、弱点だとか欠点だとかいうのはあるじゃないですか。全面的にみれば、いい人だということに変わりはないですよね」


「そうやって私を慰めようとしてもさ。もともとの原因はヴィリスでしょ!! 氷魔法ができるようになったのは嬉しいけどさ〜」


そうやって、フライスはヴィリスの頬を強くつまみ、引っ張る。

おぼつかない声で、やめてくださいよ、といってもしばらくやめる気配はなかった。


「とにかく。炎龍を撤去するのは第一条件だとして。怒りの根本は聖樹の立て直しでしょ。その同時を、ふたりで解決する方法は……」


ヴィリスは、思考を加速させる。どんな荒唐無稽なことでもいいと柔軟に考えた結果。


「聖樹に炎龍を取り込ませて、聖樹を立て直す、とかどうですか」


「炎龍ごと樹にしてしまえ! ってこと? そんな無理のあること……」


「だって、フライスさんがいってくれたじゃないですか。『信じてたよ』って。今回も、僕のことを信じてください!」


フライスに褒められ、自分に自信がついていたヴィリスには、なんでもできる気がしていた。無限の可能性を秘める、膨大な魔力量があれば、全長が身長の数十倍はありそうな高さの聖樹である。


「せっかく一年半かけて貯めた魔力、全部使い切るかもしれないのに? 私の回復魔法で同じことをやったら、確実に魔力が尽きて息絶えそうだけど」


「精神論で、できる! できる! と叫んでいたのはどこの誰ですか」


「そこまでいうなら、私も手伝うよ、ヴィリス」


「無言でやるのも味気ないので、魔法を展開するとき、詠唱してもいいですかね」


「いいよ。私もよくやるし」


じゃあ、いきますよ。そういって、これまでと同じように、左腕を伸ばして拳を開く。


「【凍結(フリーズ)】!!」


聖樹に乗り上げた炎龍に向かって、一直線に氷が伸びていく。途切れることなく伸び続けたそれは、炎龍に刺さってからも、凄まじい勢いで炎龍は凍っていく。


集中を途切らすことなく、ヴィリスは自身の白髪を揺らした。


「なんて速さ……」


数分のうちに、巨大なはずの炎龍を氷が完全にとり囲む。


「感覚を掴めてきたので、聖樹は一気にいきますよ!!」


十分強かった氷魔法の勢いが加速し、倒れている聖樹全体を急速に凍結させる。


顔色ひとつ変えず、黙々と作業を続ける。

すると、炎龍の十数倍の大きさはあるだろう聖樹を、半分の時間で氷で囲いきった。


フライスは、それに驚くことしかできなかった。これまでの二種類の魔法を上回る強大な力に圧倒するしかなかったである。


「【融合(フュージョン)】!!」


氷に覆われたそれらが、もとの聖樹に似た形を作ろうと懸命になる。

横に倒れてしまった聖樹が、縦方向に立っていく。轟、と凄まじい音。


炎龍と聖樹が、溶け込むように聖樹の形を作っていく。


それからまた数分。


あっという間に、新たな聖樹が完成した。


「立派に眠れよ、炎龍。僕は」


「ヴィリス!?」


信じられないほどの魔力を使ったはず。自分の魔法出力の能力を遥かに上回った行為だ。


パタリと倒れてしまったヴィリスは、いつの間にか瞳が閉じられてしまった。


「回復魔法、回復魔法…… 無茶しすぎだよ、ヴィリス」

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