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58 遅咲きの氷魔法師

 


 戦いは終わった。残る三人の【七選魔法師】と、ミランダ、アイロスを残して。


 結局、ブライがいないからには、本当のことなど知るよしなどない。真相は迷宮入りだ。その方がいいのかもしれないな、とヴィリスは思った。


 これまでのことを、振り返る。父にたどり着くために、ヴィリスは三人もの【七選魔法師】を殺してしまった。腹立たしいものたちを排除できた喜びはあるが、それは正しい死だったのか、少し考えてしまう。


 こんな状態であるから、【英雄パーティー】はもう壊滅状態だろう。この先、どうしていくというのだろか。


「みんな、お疲れ様です」


 ミランダの治療をフライスが終え、ひと段落ついたところで、ヴィリスはいった。


「これで、終わったんだよね」


「ヴィリス、貴様はよくやったと思う。自分の手で、父との因縁を終わらせたんだ。やはり私より強いな」


「強くなんかないよ。自分は、父を殺すことでしか終止符を打てなかった。生かしておく、というのもできないわけじゃなかったのに」


「私は、これしかなかったんだと思いますよ」


「リーナさん」


「あの男は狂っていたんです。もう、手のつけようがないくらいに。ヴィリスさんのやり方が、正しかったんだと思います。これが最適解です」


「そうですか」


 エルフの森は、もう散々なことになっていた。手につけようがないくらいに、荒れている。木々が折れ、家は崩れてしまって。その上ブライの遺体もある。エルフの方に被害はなさそうだった。


「これで満足か、最強になった魔法師。まだ高みを目指すか」


「いいや、ミランダ。僕は父と同じ道は絶対に辿ってはいけないんです。この力は、皆さんと一緒に使いたいんです。フライス、ミランダ、リーナさん」


「アイロスお姉さんのこと、もしかして忘れてなぁい?」


「忘れてませんよ、あなたみたいな癖の強い方を忘れるはずもありませんから」


「ねえ、私のどこが癖が強いっていうのぉ? 口だけじゃなくて、体で教え……」


「そういうところだと思います」


 そんなぁ、とアイロスがこたえると、ヴィリスたちは笑っていた。


「これから、きっと大変な日々が続くと思います。それでも、この仲間なら、楽しく過ごせそうだなとも思っています」


「私も同感かな、ヴィリス。一緒に追放されるっていう選択をとってから、ヴィリスを心の底から悪く思ったことはないから。うまくやれる人だな、って思ってた」


「貴様は俺のようにもっと横柄でもいいんだぞ? 謙虚すぎて気持ち悪いくらいなんだが」


「僕は僕のままなので。ミランダみたくは振る舞えないんです。あと、ミランダみたいになったら終わりだな、って思っています」


 なんだ、というと、ミランダはヴィリスの首を腕で締め、じゃれてきた。


「子供っぽいことはやめてくださいよ」


「いいじゃないか、ときには馬鹿みたいなことやらないと、肩の力が抜けないだろう?」


「今回はミランダさんの言葉が正しいのでしょうね」


「リーナさん、よりによってミランダの味方を……」


 ヴィリスはため息をつく。


「こんな平和な世界が、ずっと続くといいですね」


「私もそう思う。こんな優しい世界になると、みんなが心地よく暮らせると思う」


「そうすれば、きっとヴィリスは多くの女性に慕われると思いますよ」


「なぜその方向に……」


 ヴィリスはふと、氷魔法師の国のことを思い出した。なぜか人が群がっていたいたことが目に浮かぶ。


「貴様もまさにハーレムといったところだな。この幸せ者め」


「ミランダ、僕ってあなたとこんなに親しくしていた覚えはないんですけど……」


「いいだろう、だって大きな戦いを乗り越えた仲間なんだし」


 元の【英雄パーティー】は、居心地が悪かった。自分の力の弱さを悪く思われていた。今は、多分幸せなのだろう。父を殺してしまったのを考えると少しは胸が痛くなるが、これは決別なのだ。


 幸せを幸せだと思っていいはずだ。


「僕が偉くなったら、弱者に手を差し伸べられるような人物であり続けたいです。驕ることのないような人間に」


「きっと、なれるよ」


「貴様ならできるはずだ」


「お姉さんもぉ、そう思うかも」


「私の読みが正しければ、できないことではないだろう」


「みなさん、ありがとうございます」


 邪悪を打ち倒した。身内での無為な争いも終わった。


「ここから、新たな時代がはじまるんですよね」


「そうだろうな」


「たとえ歳をとってからの遅咲きでも、絶対に自分は高い位について、平和な世界をつくり上げたいです」


 自分の右手を見る。この手に込められた力も、使い方を間違えれば父と同じ。間違えそうになっても、自分には戦う仲間がいる。


 だから、前へ進んでいこう。


「これからも、よろしくお願いします」


「ああ、せっかくだから手でも重ねるか」


 全員の手が、重ねられる。


「これから、頑張るぞ」


 掛け声とともに手はかかげられた。


「それでは、みなさんいきましょう」


「そうだね、ヴィリス」


「もういっちゃうのぉ、君、はやいよ〜」


「貴様、いうのが遅いな。こちらは準備できてるんだよ」


「いきますか」


「僕たちの人生はこれから、ですからね」


 ヴィリスたちは、次の目標へと歩きはじめた。

あとがき


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

駆け足になってしまったところもありましたが、一旦ヴィリスたちの物語は幕を閉じます。


ブライという人物と区切りがついたことで、ここからヴィリスたちの前には新たな道が切り拓かれてゆくことでしょう。


約3ヶ月間、応援ありがとうございました。次回作もどうぞよろしくお願いします。


まちかぜレオン

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