57 究極の氷魔法、【氷の鎮魂歌】
どんな魔法が、あのブライを超越できるのか。攻撃魔法では、相手を倒すことなどできなかった。あの力の根源を絶たなければ、勝ち目など存在しない。
「いったどうすれば」
父・ブライはなぜ強いのだろうか。全ての魔法を支配しているからだろうか? 怖いのは魔法だけでない。自身の血がベッタリとついた、あの針だって怖い。剣術でも勝てないかもしれない。
力比べで勝つことなど、ありえないのだ。
ヴィリスたちの上位互換が、ブライなのだから。
その間にも、ヴィリスの元へ魔力が流されていく。膨大な力が、よりヴィリスを強化させていく。相当な魔力であるに違いない。それは間違いない。
「どうする、どうすればいい」
自分は氷魔法師だ。それ以外の魔法は使えない。託されているのは、自分である。使える氷魔法は、まだ限界を見ていない。
【氷柱】。鋭い氷を、敵に向かって放出する。
【氷の剣】。即席の氷の剣で、敵を斬る。
【氷圧】。魔力の膜で封じ込め、そこに膨大な氷魔法を注ぎ込む。そうして、限界まで溜まった魔力を爆発させる。
【氷雪風】。あたり一面を銀世界にさせ、視界を眩ます。
これらを超える力は、なんだ。
ブライを越えるには、ブライ自身が使う技を超えないといけない。それか、使わせないようにしなければならない。
「使わせないようにする…… そうか!!」
魔力を今は消滅させている。あとは、ブライの動きさえ止めればいい。ただ、時間停止能力を使うことはできない。擬似的な、時間停止。
そう、氷魔法の力だ。
この手段を使えば、ブライは死んでしまうだろうと確信した。もう、それでよかった。ブライという根源を絶たないといけないと確信したからだ。
「父さん、僕はあなたに最強の【氷柱】を放ちます」
「そうか、もうネタばらしか。その程度、何本来ようと私が止められないはずもない。私の動きは、光をも越えるといえるだろうからな」
「ヴィリス、本当にそれでいいの?」
「いいんです、アイロスさん。僕だって無策じゃありませんから」
また、祈る。今度は、この身内争いに終止符を打つため。そして、腐ってしまった父のために。これから死ぬ人間だ。花くらい添えてやりたい。
これで、終わりにする。
「父さん。この力、受け止めてください。この、【氷華】のヴィリスの力を!!」
ヴィリスについていたのは、【氷華】。花のように見える、雪。美しい氷には、美しい死を。
「【氷柱】!!」
これまでにないくらいの量の氷柱が、ブライ目掛けて飛んでいく。
「この程度の氷の数など、容易いものを。私は最強の魔法師だぞ? ただの通常魔法など、ぬるいものだな。さながら敗北宣言のようだな。このてい…… っ!!」
ブライの体は硬直した。
なぜ、なぜ動けない。それが、彼にはわからなかった。
この程度の力で討ち滅ぼされるほど、自分は弱くないに決まっている。そう思っていた。
「あなたは僕に、大器晩成という言葉をよく送ってくれました。本当にすごいものは、最後に大成するのだと。この魔法も同じですよ」
「何だ、どういうことだ?? いえ、ヴィリス!!」
かろうじてまだ口は動かせたが、徐々に力が入らなくなっている。
「【氷華】のヴィリス。僕は遅咲きの氷魔法師です。技も、最後になって、咲き誇るんです」
「何が遅咲きだ、そんな幻想など、あるはずが」
このあと、ブライが動くことも、はなすなかった。
「残念ながら、もうこれで終わりです。【氷の鎮魂歌】」
【氷の鎮魂歌】。
それは、ただの氷魔法を最強へと導く力。その魔法に触れたら最後。身体中の動きが細胞レベルで完全に静止してしまう、力。
供給される膨大な魔力が、そんな魔法を繰り出させた。
「父さん、あなたは最強ではなかったようですね」
【氷柱】が触れるたび、【氷の鎮魂歌】の効果が強まる。そして、突き刺さる。
抵抗する手段を失ったブライは、サンドバック同然だった。原型を止めることなく、氷が突き刺さる。
「あなたの敗因は、僕たちの力を甘く見ていたからです。この、遅く咲き誇る力に」
首が、落ちる。ついに体は、氷柱で完全に覆われてしまった。
「綺麗な花が、咲きましたね」