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54 英雄の自信

 

「この剣で、お前の腐った魔法をブった斬るッ!! ゼアアァァッッ!!」


「そういえば…… 君の剣は、魔法を斬るんだったかな? 魔法をはじめからなかったことにするんだったかな?」


「この剣があれば、この俺は何も怖くない。英雄だろうと、何だろうとな」



 地面を強く蹴って、ミランダは加速する。対するブライは、余裕そうに突っ立っていた。ミランダの力など、何も恐れていないかのように。


「若いな、ミランダ。そして、強さの果てをまだ見ぬ目になった。自分より強いと思う敵を前にして、ミランダ自身は恐れと興奮の狭間にある。私は、何も面白くない。なぜなら」


 手の中で展開していた、18の魔法が全て解き放たれる。そして、魔法が接近してすぐに、剣の前で消滅した。


「魔法を何一つ恐れていないのは知っている。魔法を消されることを知らなかった魔法師は、この後現実を受け入れられずに死ぬ。だが、私はそうではない。剣の力を、私は君以上によく知っている!!」


「それがどうした!!」


 勢いのままに、剣を薙ぎ払おうとする、ミランダ。その先に、魔法は存在しない。魔法が効かない自分は、十分脅威になりうるはず。これで自分は、ブライへの怒りを剣を通してぶつけられるのだ。そう彼は思っていた。


 剣も、魔法も使わない。剣が迫ってきてもなお、動かない。動く素振りすらみせない。


 勝った、のか?


「甘いな」


 少し気が抜けていた間に、ブライはいつの間にかミランダの後ろをとっていた。右手の指の間に、4本の針を挟んでいる。ブライが事前に自分の体に傷をつけていたようで、先端から赤い液体が垂れていた。


「我が血の力で、永遠に苦しむといい」


 針を、一気に首元に突き刺す。抜かれるのも、一瞬であった。斬るべき対象が前方にいなくなってしまったため、そのままミランダは地面に突っ込んでしまう。


 体をわずかな間びくびくとさせたのち、ミランダは完全に静止してしまった。


「安心しろ、あの厄介者は殺したわけではない。無力化させておいただけだ。彼に対して魔法は使えないわけだが、魔法でなければよいというだけだ。さあ、残る3人はすべて魔法師のみ。我が究極の魔法の、下位互換であろう息子たち。私は、まだ期待している。思う存分、力を見せるといい」


 ヴィリスたちの足が、動かない。勝てる道筋なんて、あるだろうか。ブライが全ての大元であって、【七選魔法師】は、力の一部を分け与えられたに過ぎない。そこからどこまで成長できたかが、この勝負の鍵を握る。


 とはいえ、英雄の力は計り知れない。複数もの異なる魔法を同時展開しうる実力を、どう凌駕する?


 自分の奥義を使ったとしても、それが通用しなかったら?

 全員が一瞬のうちであっけなく負けてしまったら?


 そう考えると、感情のままに動くのは危険だと、彼らは判断した。


「動かない、か。たとえそれが一流の魔法師だとしても、この私を前にすれば恐れののいてしまうか? 絶望したか? 私だって、本音をいえば、君たちは勝てないと思っているよ。"最"強の名をほしいままにした私を超える魔法師なんて、出るはずないと」


 ブライは、また魔法を同時展開する。


「それでも私は、番狂わせを起こす駒が揃ってくると信じていた。期待なんてしていなかったが、どこか期待していたんだよ」


「番狂わせ、ですか。そんな幻想じみたことを、父さんは考えていたんですか」


「ああそうだ、死に損ないの私が求めるところだよ。魔法を極めた私は、これ以上強いものに出会えないであろうという虚しさから、早い段階で自死という選択肢が脳内ではぼんやり浮かんでいたんだ。死んだ、という話に嘘はないよ」


「それでは、私たちが見ているものこそ幻想だと?


「いいや。無意味に死ぬのは惜しいと思っていた私は、何人もの子を残した。死ぬ前日、その中で魔法の素質があると判断したものへ、私の魔力の一部を授けた。我が子の中で、互いにずっと高みを目指してほしいと。そこまでやって、死のうとしたのだが、私はなぜか死ねなかった。なぜだろうと悩んだ末の答えは、ひとつ。まだ私の知らぬ最強たる存在がいるんじゃないか、とな」


 ブライという男は、狂ったように勝負事を愛していた。勝つか負けるかという場所に自分を置くのが、彼を奮い立たせ続けた。


 まだ自分が勝てない存在がいるのであれば、彼はなんとしてでもそれを追い求めたかったのだ。


「火事場の馬鹿力という言葉、知っているか? 切迫した状況に置かれれば、人は信じられれないような力を発揮する、というところだ。ここからさらに、絶望をお見せしようか」


 手の中には同時展開した、球状の18の魔法がある。そんな中で、ブライは両手を思いきり合わせた。


 パッと開かれた手の中には、それら全てが合わさった、一つの球体が存在していた。


「【氷炎(ひえん)】というものを君たちは知っているはずだ。強すぎる魔法は、互いに打ち消し合う事なく、同時に存在する。そんな力を君たちにぶつければ、助かるはずもない。確実に死ぬだろうよ。魔法を打ち消せるものがいない今、君たちに残された選択はふたつ。諦めて死ぬか、抗って死ぬかだ。生きるのを諦めたなら、の話だがね」




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