38 戦闘、ラインランド 後編
38 戦闘、ラインランド
「土霊兵を召喚した私に、勝てるものはいるのだろうか。いいや、いないね」
ヴィリスたちの足元の土がラインランドの頭上に集結し、土人形を形成していく。肥大した人型のような体が浮かび上がっていった。大きさにしてヴィリスたちの身長の四倍はあるだろう。見上げないと視認できないような大きさであった。
「霊よ、宿れ」
「霊?」
「そうさ、この土霊兵には精霊を宿らせることができる。それは、自分の知っている魂であれば、誰でもいいんだ。生きていようと死んでいようと関係なく。ただ、自分と実力が近いものに限るが」
嫌な予感がした。死んだものであっても、土霊兵になら魂を宿らせられるということ。
ーーーやあ、ヴィリス君。よくこの僕を、コロシテ、ク・レ・タ・ネエエ!!
「ルートニか」
輪郭のないような、ぼんやりとしてくもった声色だった。それでも、怒りや憎しみが収まることを知らない。魂はヴィリスたちにみえないものの、負の感情が【時の狭間】を支配し、一気にどんよりとした陰鬱な空気となる。
「死人の魂・精霊は極端な感情によって強化されていく。今、君たちの相手はこのラインランドだけでなく、故人、ルートニもいるのだ」
「それでも、僕らは戦います」
ヴィリスは、うしろをむいてみる。フライスが、こくりとうなずく。ミランダも、リーナも。誰も、この勝負を逃げ出すような姿勢をとっていなかった。むしろ挑戦的で、自信に満ち溢れているようですらあった。
「さあ、ルートニよ。土霊兵に宿り、あの敵を殲滅せよ」
ラインランドは、頭上に掲げた手の方へ、魔力を注入していく。そこを起点に、
土霊兵へと魔力を送っていった。彼の息が、より不安定になる。魔力を込めるたび、彼の額には汗がどんどん垂れていった。
ーーーウオオオオゥゥオオオオ!!
獣のごとく、土の体を逸らし雄叫びをあげる土霊兵。
のっしりと迫ってくる。振われた拳は視認可能な程度の速さで距離をつめる。まずは魔法を破壊するため、ミランダが先陣をきっていく。
「ゼアッッッ!!」
左腕で、剣を振るう。受け止めた拳は、刃が触れた箇所から崩れ落ち、地面の砂にかえっていく。
振られた拳の重量は、普通の剣で支えるには厳しいものがある。剣は、たとえ土が切り崩されていこうと、悲鳴を上げていた。
「【氷柱】!!」
「【光の矢】」
「【球・ピ炎】」
それぞれの魔法師が、ラインランド向けて魔法を放つ。土霊兵の生成と状態維持に尽力しているラインランドにとって、外からの攻撃は防御不可能に思えたのだが。
ーーー風斬
「まさか」
土霊兵の片手をいったん、剣を支える役割から外す。そして、土人形の体から、切れ味の良い風魔法が繰り出された。
炎魔法は風に消され、光魔法は風斬で遮られ、土霊兵のもとへ届く気配もない。
とはいえ、風魔法とその他の魔法で拮抗しているために、下手に魔法を止めることもできない。魔力をただただ浪費するだけとなっていた。
そんな中でも、ヴィリスは後先考えずに氷魔法を変わるがわるに打ち込み、"勝つ"ための活路を見出そうとしていた。
まず、大きなつららと小さなつららを織り交ぜ、攻撃にリズムをつくっていく。
「ミランダさん、いったん剣を離して下がって」
「貴様のいうことなら!!」
「【氷圧】!!」
土霊兵とラインランドの周りを、魔力の薄い膜で覆い隠し。
その膜の中に、一気に魔力を込める。
風斬で魔力の壁が壊されそうになるを防ぎつつ、魔法発動までの手順を踏んでいく。
そして。
込められた魔力が、一気にラインランド、ひいては土霊兵や中に込められたルートニまでもを苦しめる。
「グアアアアアアアア!!!!!!」
氷の膜の中で、圧縮。圧縮。押しつぶされそうなほどに力がかかる。そして、氷の魔力に体は侵されていく。
ヴィリス特有の魔力の多さが功を奏し、反撃のチャンスすら与えられぬまま、ラインランドは凍りついた。
それと同時に、土霊兵は消えていった。
「終わった、のか」