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36 戦闘、ラインランド 中編



 ラインランドの【砂地獄】が発動された。


 ヴィリスたちの方へ、大量の砂が降り注ぐ。辺りの建物から、馬車から何までが砂と化した空間。

 砂漠とでも形容したほうがよいような場所で、ヴィリスたちに容赦なく降り注ぐ。


「ここは、氷魔法を使うしかないか」


 今いるのは、光魔法師と炎魔法師。砂に対抗できそうなのは、氷魔法だけ名のである。


「みなさん、ちょっと我慢してくださいね」


「ヴィリス、ここ、どう乗り切るつもりなの?」


「全員、氷漬けにしますから」


 降りゆく砂に向け、魔法が使えなくなった左腕ではなく、覚醒した右腕を使う。彼は、手を天に向けて広げ、強く拳を握った。


「【氷覆(アイスカバー)】」


 手首を返す。魔力が急激に具現化し、すでに冷え込みつつある手を、自分の手にあてる。すると、ヴィリスの体には異変が起こった。


 手を当てた場所から、徐々に体の表面が凍り出し、あっという間に体を覆う。いつの間にか氷は彼の体をつたって肥大化し、フライスやリーナまで巻き込んでいった。


 加速して落ちていく砂は、氷の表面を容赦なく削っていく。それに対抗するように、ヴィリスは外側の氷を魔力で補強する。ラインランドがはじめに放った分がすべて落ちた段階で、すでに足下は砂場と化していた。


 積もった砂は、実に家の高さまでに及ぶ。うまく砂を弾き返し、氷漬けになったヴィリスたちは埋もれることをどうにか防いだ。

 彼はいったん氷を破壊し、氷の中から出ていく。


 氷覆《アイスカバー》を出た瞬間、さらさらとした砂がヴィリスたちの足を容赦なくとらえる。沈みかけたヴィリスは、咄嗟に氷魔法を展開して足場を作る。


 フライスやリーナも、それぞれの魔法でどうにか足場を作り出し、砂に足をすくわれることから脱した。


「やるじゃあないか、氷魔法一本で砂を完全に防ぎきるとは」


「こちらだって負けるわけにはいかないですからね」


「ヴィリス、ちょっと寒いんだけど」


 フライスが文句を垂れる。自身の体に回復魔法をかけたり、中でリーナの炎魔法により暖をとってものの、体に堪えるところがあった。


「生きるから死ぬか、ですから。今は我慢を」


「辛そうだな、ヴィリス。ここは私の思うがままだ。砂は有り余るほどある。私の世界では、私のルールが絶対。そこでヴィリス、君が勝てることなど不可能」


「厳しい勝負ですね」


 ラインランドが定めたルールに、縛られた世界。相手の思うままに、全てのものごとが運ばれるような、世界。ここでの戦いが苦戦をし入られてもおかしくないことくらい、ヴィリスは重々承知していた。


「よくわかっているじゃあないか。ここは、私の楽園、理想郷、そしてすべて。代々この不思議な空間を統治するようにいわれてきた宿命(さだめ)。このラインランド、たとえ相手が誰だろうと負けることはないだろう!!」


 ただ、ラインランドに妙な自信がある。そこにヴィリスはひっかかっていた。ここまでに実力を強調していることが、不自然だった。


「本当に強ければ、言葉なしに。威張ることなしに強さを証明できるんじゃあないですか。それも自分にとって都合のよい環境で、大きな利点を持った上での戦闘。

 そんな接待のような戦い。それに何の面白みがありますか」


 攻めた言葉は、ラインランドを刺激する。瞳孔がぱっと開かれ、獣のような顔となる。呼吸が荒くなり、苛立ちは加速する。


「ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな…… 面白み? それがどうした? 英雄の息子であるあんたを潰せれば、どんな手段を用いようとも関係はない。勝利、そう勝利こそが己を肯定させる」


「残念ですね、ラインランドさん」


「これ以上このラインランドを刺激する言葉があるか?」


「【七選魔法師】としての何たるかを忘れ、目の前の勝利のみに溺れる姿。力を授けてくれた父への尊厳が感じられやしません。そんなんじゃ、自分を見失いますよ」


 できるだけの言葉を、ヴィリスはかけたつもりだった。これだけいっても何も変わらなければ、裁きを下してもいいと思っていた。たとえ追放をくだし、戦闘狂となってしまっても、元々は同胞だった人物だ。


 ルートニのような的確な理由がなければ、殺すのは躊躇われる。そんな思考は、かすかながら残っていた。


「だめだね、もう。ヴィリス、そして【炎舞】と【閃光】。ふたりは所詮足手纏いだろうが、ここで消え去りな!!」


「そうですか、【大地】。この【炎舞】、冷静にこの状況を判断しましたが、残炎ながら、あなたはもう敵です」


「ラインランド、ごめんなさいね。私たちだってこんな仲間同士でのぶつかり合いは、極力避けたかった。でも、もうあんたは仲間じゃあない。その腐った性根」


「「「【七選魔法師】として、叩き直す!!」」」


「こりゃあ優しいこった。まあいい、ラインランドの統べる大地に逆らう者は、地に這いつくばって死にゆくのが宿命《さだめ》ってもんよ!!」


 両手の指を不規則に曲げたり伸ばしたりとうねらせ、ヴィリスたちを挑発する。


「さあ、こいよ。英雄の息子に寝返った奴らの実力ってもんを、存分に発揮してみやがれ!! オラッッ!!」


 片膝を地面につき、何か重いものでも持ち上げるかのように、腕を曲げ、痙攣させる。


「何を持ち上げているんですか、ラインランド」


「ヴィリス、いい質問だ。あたりの土すべてを、持ち上げんとしているのさ。このラインランドの【大地】は、その名の通り、大地を操る力。ふつうに地盤を操ることも可能だ。ましてや、【時の狭間】と呼ばれる、他に人もおらず、何も阻むもの空間。有利、有利有利有利有利!! さあ、ここから勝てるかな?」


 足元の砂が、一気に持ち上がっていく。土がぐっと迫っていく。そして、遠くの方からの砂を中心に、ラインランドの手の上の方へ、砂が集まっていく。魔力を手の上に集めるように、膨大な量の砂ーーー砂と化した建物や物体などを持ち上げているのだ。


「さあ、この砂をすべて、止められるという、の……か?」


 ラインランドは昂りすぎていた。たとえ自分に有利な空間であったとしても、自分の実力よりも背伸びした土魔法を使おうとしていた。重量は魔力を緩衝材として何千倍・何万倍とと軽量化されているが、それでも重さはバカならない。


 さすがの彼も、これが精一杯の攻撃というところであった。もう、一発で決めたかったのだ。


「正気ですか、ラインランド」


「ああ。信じられない量の砂が、今からお前らに降り注ぐ。どこへ逃げようと、何から何まで砂となった、この【時の狭間】では、もうこのラインランド以外、誰もが袋の鼠となる。さあ、この絶望的な状態、もう勝てないだろう? 魔法を使おうが、このラインランドを倒そうが砂の襲撃は抑えられない。砂に押し潰されて、お前らは死ぬ!!!!」


 ラインランドは、勝利を確信していた。これほどまでに完璧で、抜け目のない戦略を組み立て、追い込んだ。もう、負けることなどないはずだ、と。


 それなのに、ヴィリスはなぜか笑っていた。


「ヴィリス、何がおかしい? もうお前たちは死を覚悟したも同然。《《閉鎖してしまえば勝利も同然の空間》》で、今さら何をいう?」


「僕たちは、王国騎士団長兼、王であるアルクリオさんの依頼で、古代遺跡と呼ばれる場所ーーーあなたのいう【時の狭間】へと向かうことを決めました。では、その前になぜアルクリオさんから依頼を受けたか、知っていますか?」


「そんなもの…… 私の情報には」


 ラインランドがルートニの調査へとむかったのは、ヴィリスたちがちょうどアルクリオからの依頼を受けていたときのこと。それからヴィリスたちのことについて何も調べることなく、ずっと【時の狭間】へと潜っていたのである。


 アルクリオとの一件の前に、何があったのか。


「もしや……!!」


「敵でありながら、凄まじい剣筋の持ち主。彼を倒したことをアルクリオさんに認められたことがはじまりでした。そう、【漆黒】の剣士、ミランダ」


 ラインランドの持ち上げている砂の中で、何かが疼くような感覚を手ごしに感じつつあった。


「それがどうした、戦いののち、別れたただの剣士じゃあないか」


「彼はいってくれました。『何かあったら貴様らのために動いてもいい』、と。だから信じています。きっと彼がきてくれるのだろうと」


「ほう、いまさら戦友に縋ろうなどとは、『もう遅い』というののいいところだ。少しは現実というものをみたらどうだ!!」


「僕は、信じていますから」


 すると、ラインランドの持ち上げた砂が、妙な振動をみせた。中から切り出していくようであった。


「なにっ」


 砂の塊から、剣先がちらりと覗く。ヴィリスは、遠くからでもわかった。あれが、初心者用の剣であること。それも、ミランダ戦で使ったものであると。


 剣が砂の外側を撫でるに切ってしまうと、崩れる前に砂の塊が消えていった。


「うっ!!」


 急に重荷がなくなった反動で、砂の床へと強く叩きつけられてしまう。とはいえど、柔らかい砂であるからすぐに体勢を立て直していった。


「馬鹿な、なぜだ!!」


 悔しさのあまり、拳を握って砂を叩きつける。


「貴様ら、このミランダがきたからにはもう雑魚は平伏す他ないな」


「ミランダ、来てくれたんですね。あなたが」


「当たり前だ。戦友に危機が迫ったら、助けるのがこっちの矜持ってもんだ。次の戦いで、貴様らに雪辱を果たしたいからな。こんなところで死なれては困る」


「なぜ、なぜこの【時の狭間】に、そんな貧相な剣一本で侵入できた……?」


「どうやら、【氷炎《ひえん》】とかいう剣がなくなっても、まだ魔法を斬る能力は残っていたらしい。これも魔法が見せている幻影に過ぎないんだろうよ。この結界のようなものも、魔法だからこそ、剣が通用した」


「だとしても、ミランダ。どうしてここが」


「細かいことは後だ。とにかく、あの屈強そうな男を潰せばいいのか」


「その通りです」


「じゃあ、一時的に今からは共闘しようじゃあないか。いいか、ヴィリス」


「もちろんです」


『一時的に共闘』という言葉に反応し、リーナも


「私も本当は裏切り行為ですが、もうこんな外道に用はありませんから」


 と力強くいいきる。


「まだ、終わりじゃないもんね」


「ふざけやがって。全員ここで、死ねえ!!」


「本当の戦いは、これからです!!」


 そういって、戦闘は本格的に再開されたのだった。

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