2 追放を乗り越えて
ジェーンはヴィリスの背中を強く蹴りつけはじめた。
ヴィリスがやめてくれと叫んでも、 ヴィリスの意識が朦朧としてきたとしても、ジェーンを躊躇なく蹴っていた。
「いい加減にしてよ」
「あ? フライス、なんか文句でもあんのか」
【閃光】のフライスだけは、ジェーンの行動を見過ごせなかった。
「さすがにやりすぎじゃないの」
「リーダーの俺に逆らうとは、いい度胸だな。これ以上口出ししたら容赦しないぜ」
「ジェーンはさ、何も知らないからそんなこといえるんだよ」
「知ったような口聞きやがって。ヴィリスの何を知っている」
「ジェーンはさ、英雄の息子なのに強くなれない苦しみ、考えたことある? 自分ならどう思うかなんて、子供でもわかることよ」
「なぜつっかかる、フライス。部下のくせに調子乗るんじゃあねえ!!」
「私は正論をいっただけ。そんなのも理解できないほど、あなたって無能で馬鹿なのね」
「ああいいさ、フライス。あんたも【英雄パーティー】から消えろ。ヴィリスを庇って追放されるなんて、馬鹿にも程があるぜ」
煽り文句を重ねられ、ジェーンも黙っていられない。
「私はヴィリスを信じてる。彼は英雄の息子なんだよ。まだ本来の実力を発揮できていない可能性もある」
「フライスさんの意見は一理ありますが、一年経っても成長がありません。魔法の才能がないと判断するのが妥当かと」
リーナは言った。
「……私はヴィリスの可能性を信じて待ち続けます。彼だって私たちの仲間だから」
「ほう。仲間ね。残念な奴だ。これが最後のチャンスだ、フライス、お前はパーティーに残るか、辞めるか。どっちだ」
わずかな沈黙。
「ここから出ていきます。ジェーンさん、この先ヴィリスのことで後悔しても。そのときにはもう遅いですよ」
「愚かなものだ。その言葉、そのまま返してやるさ。荷物をまとめてとっとと出てけ」
ジェーンはそう吐き捨てた。
それから、ヴィリスとフライス以外のメンバーは支部へ戻った。ヴィリスはジェーンに蹴られすぎたせいで、傷だらけだった。一刻の猶予もない。
「ヴィリス、すぐ助けるからね」
光魔法の使い手のフライスは、回復魔法を心得ている。 ただ、能力自体は初級レベル。
己の中に秘める魔力を送り込んで、傷を癒す。 魔法を放つために、そして生きるために魔力を大量に送り込むことは、危険極まりない行為である。
「苦しいけど、今はそんなこと言ってる場合じゃないわ…….」
深かった傷は薄くなり、ヴィリスの意識が戻ってくる。
「ヴィリス、起きたんだね」
フライスは安堵した。
「そういえば、僕らはどうなったんだ」
「【英雄パーティー】の追放が決まったところ。感情的な物言いをしちゃって、私も追放決定」
「僕のせいでフライスさんを巻き込むことになるなんて。どう謝れば……」
「迷惑なんて思ってない。私の選択だから。思い出してよ。魔法の練習のとき、何度もいっしょにいたじゃない」
それを遮るように、フライスは言った。フライスは、いつでもヴィリスの味方だった。パーティー内でただひとり、ヴィリスのことを信じていた。
「だとしても、僕のせいで」
「いいんだよ。これから見返してやればいいだけよ」
「見返す?」
「ヴィリスはずっと氷魔法の練習をしてきた。でも、実力は変わってない。もしかしたら、まだ足りない可能性も否定できない……ねえ、『大器晩成』って知ってる? ヴィリスのお父様が好まれていた」
「『大器晩成』? あまり聞きませんが」
「大きな器は、早く完成しない。大人物になる人間は、普通より遅く大成する」
ヴィリスの父であるブライは、若い頃は魔法の力に恵まれず、さほど高い位置につけていなかった。 晩年にようやく花開き、英雄の名を手にしたのだ。
「まだ諦めるのは早いと思うの。だから、ヴィリス」
治療のためにかがんでいたフライスが立ち上がる。沈みかけていた夕日が、強くフライスの背を照らす。
「ここから、やり直そう」
「────はい!!」
かくして、ヴィリスは再起を決意した。
4話以降から本格的に無双していきます