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1 英雄の息子は追放される

 夕陽が地上を、背を、赤く染めてきた。パーティー支部の建物にも、光が降り注ぐ。


「我が英雄の命日ですね、【深淵】のジェーン」

「時の流れは早いもんだな、【旋風】のルートニ。ブライ様は素晴らしいお方だった……それなのに、息子の【氷華】のヴィリスはなぜ『無能』なんだ。まるで進歩がない」

「氷魔法をまったく使いこなせてない──────時期も時期。追放にしますか」

「ちょうど考えていたところだ。決行日は今日だ。英雄の息子だろうと、もう忖度しなくていいだろよ」



【氷華】のヴィリスの父、ブライは素晴らしい英雄だった。


 最強の魔法師と崇められる、名高い人物だった。その力を持ってして国の平和は守られていた。

 だが。去年、ブライは何者かに暗殺されてしまう。数百もの魔法を使いこなしていたブライが、だ。

 幸運にも、ブライは死ぬ前日、ヴィリスを含む七人の魔術師に力の一部を授けていた。


 炎・風・土・氷・闇・光。残り一つは未だ不明。

 そして、それぞれ【炎舞】【旋風】【大地】【氷華】【深淵】【閃光】【神話】という異名を授かった。

 ヴィリスは氷魔法を習得し、【氷華】の異名を授かった。


 七種の力を手に入れた人物たちは 【英雄パーティー】 というパーティーを組み、特別扱いされた。ほとんどの者が自身の能力を理解し、めきめきと実力を伸ばしてきた中。


 ヴィリスは違った。


 氷魔法の詠唱をしようとも、発動の兆しは見られなかった。

 一年経とうと、ほとんど結果は変わらなかった。いちおう、ヴィリスは魔法を使えないわけではない。

 ただ、氷魔法の発動に丸一日もかかり、あまつさえ威力は最弱モンスターと渡り合える程度。

  ヴィリスの父が、英雄なので、たとえ使い物にならなくとも、パーティーから追放するわけにもいかなかった。


 英雄ブライが亡くなってちょうど一年の今日。

 決別するなら、今しかない。闇魔法使い、【深淵】のルートにはそう決意した。



 【英雄パーティー】のメンバーは、ジェーンの指示のもとに外に呼び出された。

  パーティー支部は、広大な森を切り拓いてつくられた。空気はじゅうぶん澄んでいる。


「ヴィリス。少し大事な話がある」

「リーダー、大事な話というのは」

「お前を英雄パーティーから追放する」


  ヴィリスは言葉を失う。


「ひどいじゃない。そもそもそんな話、聞いてないわよ」


 【閃光】のフライスは訴える。


「唐突すぎます。なんのつもりでしょうか」


 【炎舞】のリーナは、あくまでも冷静にいった。


「……当然の反応だな反応だろう。それなら、ヴィリスのこれまでのおこないを思い出してみろ。【旋風】、試しにひとつ言ってみろ」

「重要な魔族討伐戦への不参加。隣国の戦争の危機に陥った日、氷魔法発動練習のため欠席。ヴィリスが懸賞金のかかった盗賊を見つけたものの、魔法が使えなかったために取り逃す」

「思い出したか? ヴィリスの愚行を。英雄の息子とは思えぬほど、不名誉な功績ばかり残していたことを。これからも、お前らはあいつを見過ごしていくつもりか?」

「ぼ、ぼくだって。みなさんに迷惑をかけないよう注意してきました。足手まといにならないように」

「なるほどな。だが、よく考えてみろ。どうしてこんなに弱い奴がパーティーに堂々と居座れるのかな? なぜそんな現実を無視してきたんだ?」

「みなさんとは、そもそも能力のレベルが違うんです。それでもどうにか追いつこうと、必死に頑張ってきました。努力するのはよくないことですか」

「なるほど、それでこの結果か。笑止千万だな。親の七光りとはまさにこのことだ。あいつが英雄の息子という色眼鏡をかけてヴィリスを見るな。能力を見れば一目瞭然だろうが」


 多くのメンバーは考えが揺らぎ、強く言い返せない。


「リーダー。ここはひとつ、多数決で決めるのがが妥当だと思われますが」

「いいことを言った、リーナ。では、きこう。英雄の息子でありながら無能を晒し、【英雄パーティー】の名に泥を塗ってきた、恥多きヴィリスの追放に賛成のする者」


 ヴィリスを除いた五人全員────【神話】は行方不明のためこの場にはいない────が、手を挙げていた。


「ざまぁ見やがれ。三下の無能! 英雄の名を汚すクズは、全会一致でグッバイだ。長年の鬱憤が晴らされてたいそう心地がいいな。 さっさと立ち去れ。てめえはもう用済みなんだよ」


 ジェーンはヴィリスの背中を強く蹴りつけはじめた。

【作者からのお願い】


「面白そう!」「続きが気になる!」といった方は、

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執筆の励みになりますので、何卒よろしくお願いします……!

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