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4.『新たな仲間』


「ダイヤモンドの原石を粗雑に扱い、挙句手放すなんて、とんでもない損をしたね。彼一人でSランクに行けるほどのポテンシャルがあるというのに」


 完全に放心してしまっているジャックに追い打ちのような言葉をかけるサムに連れられ、俺は酒場を後にした。


「早速だけど、僕のパーティメンバーに会ってほしい。君は既に『フルグライト』のメンバーだから変に固くならなくていいよ」


 とは言われたものの、やはり緊張はしてきた。

 別に人見知りというわけでもないが、Sランクパーティの面々を前にして委縮しないか心配である。


「さ、すぐそこの宿だから。いい奴らだよ」





「で、でかい……」


 宿、というかもはや屋敷だ。

 なんでもSランクパーティというのは、ここ『ウルギッド王国』が直々に雇入れているらしく、ギルド所属の冒険者で言えば実質的にAランクが最高位だったそうだ。

 まぁ、ランクを定義するのがギルドから国に代わっただけで、我々冒険者にとってそこは些細な話かもしれないが。


 余談だが、Sランクパーティは王国内で3パーティのみ。

 そのうちで最も実績を上げているのがこの『フルグライト』とのこと。

 というか、国の依頼をしっかりとこなしているのがこのパーティだけらしい。


 王国に雇われているのだから直接依頼くらいはこなせばいいのに、とも思うが、強い奴ほどひと癖もふた癖もある、ということだろうか。


 ともかく、そんなわけで王国直属のSランクパーティは、国からの待遇もSランク。

 人が100人は住めそうなこの屋敷を、宿として贅沢に使っているのもSランクパーティの特権といったところか。


「それにしてもでかすぎる……」


「まぁ、そのうち慣れるよ」


 ドアの高さがおかしい。

 ドアなんて人が通ることができればいいのに、10人が肩車で入室することでも想定しているのだろうか。


「こんなドア開けるのも一苦労だな……」


「それは大丈夫だよ。ほら、ドアに手をかざせば自動で開く仕組みになってる」


「どんな原理……!?」


 なんでも、登録してある人の魔力パターンを認証し、屋敷内を循環している魔力でドアの開閉を行ってくれるらしい。

 酒場の外れかけた薄汚いドアか、宿のありふれたドアくらいしか開ける機会のなかった俺からすると、原理はよくわからない。


 とまぁ、王国最先端の技術力に驚きながらも、ついにパーティメンバーが滞在しているという部屋の前に辿り着いたのだった。


「さぁ、この向こうにアレンの新しい仲間たちがいる。これから嫌というほどお互いの顔を見ることになるだろうから、自己紹介はちゃっちゃと済ませちゃおう」


 少しいたずらに微笑みながら、サムは部屋のドアを開ける。

 ちなみに俺はというと、


「やっぱり緊張してきた……Sランク級の実力者が集ってるところって、圧とかに押しつぶされないかな……」


 なんて気圧されていたわけだが、無情にも自動で開くドアは俺の心の準備を待ってはくれない。

 あっという間にドアは全開し、人が30人は寝られるであろう大部屋の中央、恐ろしく座り心地の良さそうなソファーに腰掛ける2人の男女が見えた。


「クリス。ルーシー。遅くなって悪かったね。原石を見つけてきたよ」


「おう、サム。お前が帰ってこねぇから先に飯食っちまおうぜって丁度ルーシーと話してたところだ」


「ちょ、嘘だよ? そんな話してないからね? ご飯はみんなで食べないと美味しくないもんね!」


 サムがクリスと呼んだ男は、がっはっはと豪快に白い歯を見せた。

 大柄の男だ。細身にも見えるサムとは真逆に、まさに筋骨隆々といった体型。

 年齢はサムより少しだけ上だろうか。

 

 それに対してルーシーと呼ばれた女性は、小柄で細身。

 肩までの長さで揃えた髪は、まるで青空のように透き通った蒼だ。

 その身から筋肉質な印象は受けないが、白妙のローブからちらつく腕はよく引き締まっている。

 

「彼はアレン。今日から僕らの仲間になった」


「あの、俺の紹介ちょっと雑じゃ……」


「僕らの自己紹介も含めてそれは後でやるけど、とりあえずこれを見て欲しい」


 大分簡潔に俺の素性を明かした上で、先ほど酒場でジャックたちに見せた紙と同じものを彼らにも見せる。


「筋力適性SSS+――!? おいおいサム、こりゃとんでもねぇ原石……いや、宝石だぜ」


「あちゃー、流石に驚いちゃったなー。SSS+の適性かぁ」


「あの、SSS+ってそんなに珍しいんですか?」


 純粋な疑問――興味だった。

 俺のこの適性は、具体的にはどれほど珍しいものなのだろう。


 少なくとも、王国に3つしかないというSランクパーティの名に恥じぬほどのものであれば、俺の気持ちも落ち着くのだが。


 そんな軽はずみな問いかけは、予想もしていない方向に曲がっていった。


「あのね、私たちの知る限り、SSS+の適性を持つ冒険者は存在しない。今日君に会うまでは、その認識だったよ」

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