3.『決断』
前回までのあらすじ。
俺、実は最強脳筋でした――
「なんて、そんな簡単に信じられるわけないよなぁ……」
「だけど、事実だ。この紙を疑わしく思っているなら、僕の数値も見るといい」
俺の独り言に律義な返答をするサムは、テーブルにもう一枚紙を置いた。
そこに書かれていたのは、もちろん『鑑定』スキルで可視化された数値だ。
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名前:サム・オースティン
年齢:23
性別:男
職種:アタッカー
筋力適正:SS+
体力適正:SS+
魔法適正:A
弓適正:S
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なるほど、流石はSランクパーティのリーダーと言ったところか、Sの数で言えば俺よりも多い。当然かもしれないが。
ちなみに、適性だのステータスを数値化されたところでいまいちピンと来てなかったりもするのだが、SSS+というのはどのくらい凄いのだろう。
「まぁ、100万人にひとりとか、1000年にひとりとか、そんな陳腐な評価よりは遥かに価値のあるものだろうね」
「ちょ、俺まだ受け入れられてないっていうか、自分にこんな才能があったなんて信じられないというか……」
「そうだろうね。驚いているのは君だけじゃない。ほら」
そう言ってサムが指差すのは、誰あろうジャックだ。
『俺に実は才能がありました』なんて、下手したら俺自身より信じられないし、信じたくもないのではないだろうか。
「ありえない……アレンに前衛の才能が……? この俺を差し置いて……いや、それどころかSランクパーティのリーダーより、上……?」
ブツブツと何やら呟き続けているが、要するに現実を受け止められないという点では俺と同じだろう。
「アレン……」
対してエリカは、恨み節を口に出すこともなく考え込んでいる。
彼女なりに色々と思うところがあるのだろう。知らないけど。
「そしてもちろん僕も驚いている。偶然入った酒場で、こんな原石に出会えるなんて」
にこやかで嫌味のない笑顔を向けるサムも、どうやら内心はかなり衝撃を受けたらしい。
そりゃあ、こんな取り柄ひとつもなさそうな地味男を勧誘することになったのだから無理もない。
「君は自罰的になる癖があるようだ。改めて問うよ。僕らのパーティ――『フルグライト』に入ってくれないか? 僕らのパーティは対等な仲間。思ったことは全て意見してくれていい」
どうかな、と首をかしげるサム。
もちろん、自分の都合だけ考えればここで断る理由なんてないが、不安がないわけでもない。
いくら『筋力適性SSS+』とはいえ、あくまで『適性』だ。
つまり、『人生を懸けて鍛錬を続ければ、SSS+級の力を付けるポテンシャルはありますよ』ということであって、最初からとんでもなく強い証明ではない。
俺としては自分の才能を教えてくれただけで幸運この上ないし、それがわかっていて鍛錬をサボるわけもない。
だが、
「Sランクパーティともなれば、王国からの直接依頼もあるはずですよね。俺なんか全然即戦力にならないし、俺が力を付けるまで依頼を止めておくわけにもいかないでしょうし……やっぱり悔しいけどエリカの言う通り足手まといに――」
「心配しなくていい。君の思っている以上に『SSS+』の適性は稀有で、とんでもないものだよ。それに、君は戦闘経験も申し分ないようだ。1週間ほど鍛錬しただけで、ワイバーン程度ならひとりで討伐できるようになるだろう」
「ワイバ――そんな、まさか」
「嘘じゃない。というか、僕たちの心配は無用だよ。君が来てくれるというのなら、歓迎しよう。もちろん無理にとは言わないが」
願ってもない。
こんなチャンス、今この時を逃せば二度とないだろう。
こんな俺が、いいのだろうか――という考えは、もうおしまいにしよう。
自惚れはしない。慢心もしない。
ただ、俺がSSS+だというのなら、俺自身で確かめてみたい。
いつだったか――冒険者になると決めた理由を、悲願を、目標を、全うするために。
「よろしくお願いします、サムさん。拾ってくれて、ありがとうございます」
「あぁ、敬語じゃなくていいよ、アレン。末永くよろしくね」
こうして俺は、無職になるピンチを逃れ、あろうことかSランクパーティ『フルグライト』の一員となったのであった。




