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2.『SSS+』


 ――『世界洞』。

 それは、世界最大の謎であり、神秘である。


『世界洞』というのは、1000年前に世界の中心に突如現れた大穴――とされている。

 されている、というのは、実際のところ不明な点が多いからだ。


 遡ること1000年、世界を揺るがす何かが起きた。

 何とも曖昧な表現だが、つまるところ1000年前を境に、それ以前の世界を記した文献が全て消失しているのだ。


 これについては諸説あるようで、一説としては、遥か昔この世界では高度な文明が発達していたらしい。

 だが、1000年前に世界を巻き込む大戦争が起こりその大半が失われたとのこと。


 他の説としては、世界が魔物に滅ぼされただとか、当時世界をまるごと仕切っていた王の陰謀だとか、まぁ俗説だ。


「つまりよ、この世界は1000年前に生まれた――いや、生まれ変わったってことだ。まぁ、長命のエルフ族なんかは今でも当時のことを知ってるババアでもいるかもしれねぇけど……奴らはどこに住んでるのかすらわかりゃしねぇ」


「へぇ、『世界洞』ってそんなに不思議な場所だったんだ」


「まぁ、どこまで本当のことかなんてわからないけどな。なんでもこの『世界洞』の話は、王国が本当に隠蔽したいヤバい話の隠れ蓑だとか」


 サムとの遭逢から目を背けるためか、ジャックとエリカはそんな与太話に現を抜かしている。

 とはいえ、『世界洞』について俺も気にならないわけでもない。

 

 俺らが生まれるよりずっと前から、当たり前のようにある存在。

 だが、その正体を誰も知らない。

 まるで冒険者のためにあるような、ワクワクする話だ。


 余談だが、『世界洞』は魔物が生まれた地でもあるらしい。

 まぁこれも例に漏れず一説なわけで、結局のところ『世界洞』は謎だらけだということだ。

 

「俺らもそのうち『世界洞』に挑戦して、見たこともないような宝を見つけてやろうぜ!」


「――あぁ、それは辞めた方がいい。君たちでは死人が出てしまう」


 ジャックとエリスの意識を現実に引き戻したのは他でもない。

 この話題を持ってきたSランクの男――サムだ。

 

「ア、アンタにそんなこと言われる筋合いはないだろ。アンタらのことはすげぇと思ってるよ! だけどよ……400mは無理でも、俺らだって100mくらい……っ」


「勘違いしないで欲しいんだが、別に君たちが憎くて言っているわけではないよ。むしろ逆だ。お節介かも知れないが、君たちに死んでほしくないから言ってるんだ」


「ぐっ……わ、わかったよ。『世界洞』には行かねぇ。俺だって死にたいわけじゃない。アンタのお墨付きとなっちゃ、大真面目に死にに行くも同然だ」


 サムはそれを聞き届けると少しだけ表情を柔らかくして、それでいい、と息を抜いた。


 さて、そろそろジャックたちも頭からすっぽり抜けている気がするが、問題は俺だ。俺だというか、もはやこの現状だ。

 いささか頭が追い付いていないが、流石にそろそろ口を開かねばなるまい。


「あなたのことは知りませんでしたが、凄い人だというのはわかりました。でも、なんで俺なんです? 同情だったら……」


「あぁ、違うんだ。いきなり声をかけて驚かせたのはすまない。でも、君に驚くべき才能があることも、うちに入ってほしいのも、全部本当のことだ」


「そうだ、何でコイツなんだ!? 言っちゃなんだがコイツは役立たずだ! 才能なんてない! それは3年間世話をしてやった俺が一番知っている!」


「そ、そうよ! 私たちが一緒じゃなきゃ何もできない。アレンはそういう頼りない男よ! あんたのところに入れてあげたって、どう考えても足手まといにしか――」


「――聞くが、彼に前衛を任せたことは?」


「ぜ、前衛……? そんなのコイツに務まるはずがねぇ! ヒーラーでさえ満足にこなせねぇのに……」


「君たち、彼にヒーラーなんてやらせてたのかい? どう見ても彼は前衛向き。しかも、この僕を以てしても未だ彼ほどの才能は見たこともない」


「そんなの信じられるわけ……っ」


 ふいに、サムがポケットから手のひらほどの大きさの紙を取り出す。

 真っ白の、何も書いていない、ただの紙だ。

 それを右手に持つと、


「僕の固有スキルに『鑑定』というものがあってね。ステータスや適性などを数値化してくれる――まぁ、便利なスキルなんだけど……ところで確認なんだけど、アレンくん。君はこのパーティを抜けたってことでいいんだよね?」


 どうなのだろう。

 もしかしたら、ジャックとしては本気で解雇する気はなく、俺が謝るのを待っていたのだろうか。

 少なくとも、俺が涙ながらの土下座謝罪を披露し、哀れな姿でパーティ残留を乞う未来は想定していたかもしれない。

 それを見て俺を嘲笑う姿が安易に想像できる。


 だが、


「そうですね、さっきクビ宣告されちゃったので。パーティリーダーのジャックに必死に謝ろうかと考えていたところだったんですけど」


「はは。じゃあこれを見た上で、彼に涙ながらに謝って再加入を求めるか、偶然出会った男のスカウトに従うかをじっくり決めるといいよ」


 そういってサムは右手に握った白紙――否、白紙だったものをテーブルの上に置く。

 俺とジャックたちの視線を釘付けにしたその紙は、


-------------------


名前:アレン

年齢:20

性別:男

職種:ヒーラー

筋力適正:SSS+

体力適正:A

魔法適正:C

弓適正:S


-------------------


 ジャックの采配に全くセンスがなかったことと、自分でも疑わしいほどの数値を目にすると人はその場で固まることを教えてくれた。


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