1.『追放と勧誘』
「アレン。ふざけたことばかり抜かすなよ。お前みたいな役立たずのゴミを拾ってやったのは誰だと思ってるんだ?」
「い、いや――俺はただ、役職を変えてほしいだけで――」
「ヒーラーとして最低限の仕事もできないくせに、サポーターに転換すればなんとかなるとでも思ってるのか? お前のその甘い考え方が気に食わないんだよ」
酒場。
それは冒険者の集い場であり、冒険の拠点であり、あるいは出会いと別れの場でもある。
今日俺は、長らくパーティメンバーとしてよろしくやっていたジャックと決別した。
理由なんてのはなんてことない。あれやこれやと理由付けされたところで、要は俺は邪魔者だったわけだ。
「お前らもそう思うだろ? コイツ、今まで一度でもヒーラーとして役に立ったことがあったか? 前衛が俺じゃなけりゃ何度も全滅してたところだぜ。それが一丁前に俺に意見するとは、全く偉くなったじゃないか。なぁ?」
「そ、そうよ。それにもし私がサポーターを辞めてヒーラーになったとして、それでアレンは成長できるの?」
パーティリーダーのジャックに続き、現サポーターのエリカまで俺を糾弾し始める。
3年間で育まれた仲間意識や友情など、きっと彼らには微塵もないのだろう。
「あー、成長なんてしなくていいぞ、もう。どの道、お前には難しい話だろう」
「――え、ジャック?」
ジャックの鼻から漏れる息は、空気と同時に憑き物まで流れていくように見えた。
そして、彼の言葉の意味を一瞬理解できなかったエリカに向かって、こう続けた。
「だからさ、コイツはもういらないってことだよ。清々するだろ? ――そういうことだ、アレン。お前はクビ。ほら、荷物纏めてさっさと消えろ」
▼
と、いうのが事の顛末だったわけだが。
俺としては、どうも納得がいかないわけで。
というのも、そもそも元はと言えば、ただ『役職を変えてください』という、本当にただそれだけの話だったはずだ。
それがまさかパーティ脱退の話にまで発展するなんて、丁度ジャックの機嫌が悪かったタイミングで切り出してしまった、間の悪さが原因としか思えない。
「いくらジャックでも、あそこまでキレるとは……」
俺としてもこのパーティに思うところがないでもないが、第一ここを抜けたところで行く当てがない。新たなパーティを探すにしてもコネもない。
ならば、ひとまずここは謝って残留させてもらうのが吉ではないだろうか。
以前から――それこそジャックと出会った3年前から、ジャックやエリカの俺への当たりは強い。
冒険者の街『アーウェン』を無一文でふらついていた俺を拾ってくれた恩はある。
ただ、パーティ加入時のそのいきさつから、俺のことを奴隷か良くて雑用くらいにしか思ってないのだろう。
俺も居心地が良くてこのパーティにいるわけではない。
ただ、食べるためだ。
そう、食べるため――そして、生きるためだ。
ここにいれば少なくとも食いっぱぐれはない。
ジャック率いるパーティ『闇夜の踊り子』は、ギルドからAランクパーティの太鼓判を押されている。
Aランクともなれば、ギルドからの直接依頼はもちろん、どこに行っても高待遇。パーティ内でのいざこざに目を瞑れば、俺はかなり恵まれた環境にいるだろう。
今このポジションを手放しソロでリスタートするとなれば、きっとCランクからのスタートになる。
運よく他のパーティに拾ってもらえたとしても精々Bランク止まり。
食べることで精いっぱい、下手すれば一日何も食べられない日もあるかもしれない。
ここまで考えれば自明の理。
どう考えても、頭を下げてパーティに残してもらうべきなのだ。
「……ジャック。俺の態度が気に障ったのなら申し訳な――」
「――おっと、謝る必要はない。君、かなりの才能を秘めているようだね。うちにこないかい? きっと花咲かせてあげられるよ」
突然割って入った第三者の声は、まるで小川のせせらぎのように、すんなりと耳に馴染む声だった。
振り向くと、雷のように黄色く透明な短髪が特徴的な優男が立っていた。
身長は高い。よく見ると筋肉はかなり引き締まっているが、遠目から見ると少し頼りなく感じてしまうほどにスレンダーだ。
ただし、だからと言ってこの男を『弱い』と感じる者はいないだろう。
この肌がひりつく感覚は、圧倒的な強者の成せる技――オーラというものだろうか。
明らかに只者ではないその声の主は――
「サ、サム・オースティン――!!」
「え、サ……? ジャック、この人のこと知ってるの?」
「馬鹿、知らねぇのかエリス! ――史上初の『世界洞』400m到達を果たしたSランクパーティ、『フルグライト』のリーダーだ!」




