いきなり排仏令
のんきに自分の手配所を見ているうちに、昔の子分が首都警察の手下に寝返っていた、缶婆はかまわず力業でごり押しする。
この作品はフィクションです実在の人物団体とは無関係です
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「偏れぇ〜偏れぇ〜」
缶婆が一服吸い終わると、小役人達がゾロゾロと芝居のかけ声を上げて近寄ってきた。榜は、お触れ書きも張り出す所だから、何かもってきたんだろう。こういう仰々しい儀式は暇つぶしになるから見物人が寄ってくる。缶婆は自分の立場も頓着しないで見物人のところまで下がった。
「そこな尼入道待てぇい」
お触れを貼りに来た小役人の先触れが缶婆を呼びつけた。ついでに賞金首を取るつもりだろうか。
「本日勅が発せられ、寺院を排し僧侶を還俗さしむると思し召しで有る。直ちに勅に従え」
「その勅令出したの誰よ皇帝も太子も一昨日死んだじゃない、大喪、人事以外の勅令は出せないはずよ」
「ええ黙れ、そもそも沙門はお上の支配を受けず、賦役にもつかず。布施と言い惑わして実入りを官に納めず……」
「ふわぁ〜」
聞きあきたセリフの棒読みに退屈してあくびが出た。しかし、事態は緊迫している、皇帝が死んで不在のときに廃仏令とは、思いっきり政治的にA王家をつぶしにかかってきている、しかも明らかな悪手である、思いも寄らない燃料投下で皇帝候補たちの内乱に発展しかねない。
「能書きはいいからかかってらっしゃいな、こっちは二十錠の賞金首よ」
そう言って構えを取る。人数のいる向こうは当然囲んでくるから、榜の前に位置を取って相手を自分の視界内にまとめる。しかし相手も騒がず棒を持った先駆けが二人がかり、残りは遠巻きに取り囲む、捕り物の基本だ。さらに缶婆も負けてはいない一人から棒を奪い取って大立ち回りを始めた。
「そこまで」
棒を取り上げて大立ち回りの真っ最中に誰かが声をかけた。すると小役人達は後ろに下がり、もっと大人数が槍を構えて押し囲んだ。
「久しいなぁ頂光尼」
榜の上に背の低い道士が立っている。とたんに缶婆はしらけて耳をほじった。
「網をはって見れば思わぬ獲物がかかった」
「あいも変わらず引きだけは強いわね朱八」
偉そうに出てきたが会帮Aの元子分の朱八だった。欲望に忠実なこの男は、何かやらかして逃亡、土産を持って帰参をくり返している。ここは攻めに出るべきだ、缶婆は軽功を使い榜の上に飛び上がり、朱八の腰を抱え上げると頭を下にしてぶら下げた。
「ほぉらほら状元に届かない眺めはどうよ?」
状元とは公務員採用試験のトップ合格者のこと、榜は合格者リストも張り出すがトップとそれ以下の掲示のやり方がちがう、缶婆はさかさづりにしてそれをからかっているのだが。一丈八尺もあるところで逆さづりにされた朱八はたまらない、下の兵隊たちも手を出しかねている。
「聞きたいことはたくさんあるの、一緒に来てもらうわよ」
「かまうな、五星黄幡陣でからめとれ」
「よけいなことすると……」
缶婆は朱八の右足首をつかむと右足一本でぶら下げた。むこうでも五人の道士が五本の幡をもってかけてくる。缶婆はかまわず朱八の靴と靴下を剥ぎ取って裸足にした。
「これで余計なことができなくなるわよ」
そういうなり足の指の間をなめ回した。
「ぎぃやー」