京師榜前
とりあえず前振り部分だけ書いてみた。
頂光尼缶婆巫蠱の禁をおかせしため、銀20錠を捐じて首級を求む。
「20錠かぁ、自首したらくれないかしら」
人相、身の丈八尺四寸(170センチ)僧体ただし邪宗故断髪して剃髪せず、眼が近くメガネを用いる。背丈低く目小さく眉太く鼻低く口小さい。左目尻に黒子あり。紙巻きたばこを常用す。鼻の穴に指を突っ込んで目から出せる。鼻の頭を舐めれる。口の中に拳を入れて鼻でラッパを吹く。官に報ずるをためらうなかれ。京兆府尹(首都警察長官)
「何かムカつく書き方ねぇ、お尋ね者にこんな一発芸やらせるつもりかしら、頼まれたらやるけど」
榜の前でタバコを巻きマッチで気をつけた。
「真ん中とは言わないけど、20錠も出すんならこんな端っこに貼らなくてもいいじゃない」
タバコを口の端にぶら下げて手配書きの真ん中に移動する。
鎮国寺C禅院住持鎮元無常女犯の上女を連れて逐電金8両を捐じて身柄を求む。××戊戌生まれ(22歳)、身の丈9尺(180㎝)武僧を兼ねる。
「8両とは女犯にしては張り込んだわねぇ、それにしても濡れ衣着せるならもうちょっと考えればいいのに」
女犯の制裁は寺からの放逐であった、公的な制裁にしても僧籍の剥奪である。書類上の処理ですむ話で、賞金かけて探すことはない。首都警察はこの坊主だけでなくいっしょに逃げている女にも用がある、本当のことを言わずに駆け落ちにすれば余計な手間が省ける。
「さてどこに居るのかなぁ」
賞金首が賞金首を持っていっても罪が棒引きになる訳がない、別に用があるのだ。「接触してA王府に護送しろ」という指令を受けている。頂光尼缶婆○○阿闍梨××金剛、表向きは会幇Aの香主である、非公式の慈善団体の地方責任者が彼女の立場であり食い扶持である。いっしょに逃げてる女が会幇Aの関係者でそのつながりで缶婆に話が来た。今のところ会幇にはかかっていない、ということは鎮国寺のネットワークを頼りに潜伏しているのだろう、言うても坊主には坊主のネットワークがある、時間稼ぎには十分な力になる。とりあえず知っている末端に接触してみよう。