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その後のことは、よく覚えてはいません。
気が付くと僕はあの廃病院ではなく、町で一番大きな病院のベッドの上にいました。
見舞いに来た父と母の話によると、あの日ドアが閉まった直後にテツオはすぐ僕のことを探そうとすぐドアを開けて部屋を調べたらしいのですが、そこには僕も猫もいなかったようなのです。
そのあと彼はすぐに病院の外に出て大人達に電話をかけました。そして、僕がいつまでも家に帰ってこないので警察に捜索願いを出したそうです。その後その廃病院の中を中心として数日にわたって捜査が行われたらしいのですが、ある日廃病院の裏の茂みで気を失っている僕を捜索隊の人が発見し、すぐに保護され病院へと搬送されたらしいです。
ここまで話した両親は、少しためらい、あることを僕に告げました。
曰く、発見されたとき、僕の体にはいくつもの血の付いた手形がべっとりとついていたとのことです。
その手形が、大きさから判断するに十二歳から十三歳くらいの子供の手だということも……。
見舞いを終えた両親が帰り、病室に一人残された僕は窓の外に目をやりました。
あの子が一体何なのかは、僕にはわかりません。でも、不思議なことにあれだけのことがあったのに、僕はあの子が恐ろしい存在というよりはどこか懐かしい、愛おしい存在であるかのように思えてしまうのです。
『つかまエた』
あの時あの子が囁いた言葉の意味は本当に言葉通りの意味なのでしょうか。それは、その時に僕をとらえたというよりは、もっとなんか持続的な意味を持っているかのような……。
ふと、そばにあったお見舞いの品である果物の籠の中に小さな紙片が挟まっていることに気が付きました。手に取り、それを広げてみると小さな文字で
『おどろかしちゃってごめんね』
と書かれていました。
ぐちゃぐちゃで、読みにくい子供が書いたその言葉に僕は思わずクスリと笑ってしまいました。
どこの世界に驚かせて謝る幽霊がいるというのか。
きっとあの子は、悪霊でも何でもないんだと思います。ただ、人を驚かせることが大好きで、すごく純粋な子供の霊……。
その後、退院した僕はまた再びテツオと共にくだらなくて楽しい日常を過ごし、大人になった今でも交友が続いています。時には喧嘩をしたりすることもありましたが、それでも結局は最後に仲直りをしてまた馬鹿をやれるような間柄なのです。
そして、今でも時折この中学二年の時に体験したこの出来事を思い返して二人で笑いあっています。その度にくすくすという笑い声が聞こえるような気がしますが、それはきっと気のせいなのでしょう。