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「そんでよー、やっぱクラス補正をばれなきゃいいと思って隠し続ける運営はマジでゴミだと思うんだわ。なんで暗殺者と魔術師だけこんなバドステ食らわなきゃいけないんだっつうの。しかもそれを放置した挙句自分たちでネタにしだすとか性根が腐ってるとしかいいようがねーだろって話……」
「うん、それもう3回聞いた」
「あれ? そうだっけ」
「そうだよ」
「あ、そっかぁ」
散策し始めた最初は目を輝かせていたテツオは、病院内をほぼ一周し終えた今、完全にこの肝試しに飽きていました。病院内はほとんどのものが撤去されており、テツオが期待していたであろう「ひとりでに動く車椅子」や「カチャカチャと音がする手術器具」などのものは全くなく、あるのは受付にあったようなバラバラに飛び散る窓ガラスや固定された長椅子ぐらいしかなく、先程のような大きな音がするようなドキッとするような出来事もなくで、ただただ空っぽの部屋や廊下を渡り歩くだけだったのです。これが一人ならば怖かったであろうものの、一緒に巡っているのがやたらと自分がはまっているゲームの愚痴ばかりを話し続ける友人ともあればムードもへったくれもあったものではなく、気が付けばこの大きく複雑な構造をしている廃病院を一階、二階、三階、四階、屋上と廻った後、また四階、三階、二階と下りていました。
「あー、つまんねーの。もっとこう……コンジアム精神病院とかコリンウッド精神病院みてーな展開がありゃよかったのに」
「いやそれ僕たち死ぬよね」
そんなくだらない話をしながら、二階に降りてきたその時でした。
アアアアァァァァ……
という泣き声のようなものが奥の廊下から聞こえてきたのです。
「……ッ!? おい、なんだよ今の声」
「赤ん坊……?」
「おい、行ってみようぜ!」
「え、あ、ちょっと!」
僕が引き留めるよりも早く、テツオはその声がする方へと駆け出していきました。
「ああ、もう。ちょっと待ってってばぁ!」
はぐれるのを恐れた僕は仕方なくテツオの後を追いました。
幸いテツオはそう遠くへは行っておらず、すぐに追いつくことが出来ました。
「もう、置いていかないでよ! はぐれたらどうすんだよ!」
「しーーっ! すまん、悪かったって……」
僕が文句を言おうとするのを、テツオは焦ったように止めてきました。「なんだよ」と不平を言おうとしたその時でした。
目の前の部屋の奥から微かにアアアア、という泣き声が聞こえたのです。
「……!?」
「どうやら、ここがそうみたいだな」
その部屋は病室で、『四〇二号室』という札がかかっていました。
「……いくぞ」
「……うん」
テツオが恐る恐る入り口のドアを開けました——————
ミャアアァァァァ
「んだよ、ただの猫かよ」
そこにいたのは黒と白の縞々の猫でした。首輪が付いていなかったので野良猫だったと思います。ここは廃墟なので動物の一匹や二匹くらいはいてもおかしくはなかったでしょう。
「はー、つまんねーの。結局噂も嘘っぱちだったっつーことか」
「まあ、最後にちょっとドキドキした体験ができたからいいんじゃない?」
「ま、それもそうか! 心霊現象なんて本当に起こられても困るからな。んじゃもう帰ろうぜ、一周見回っちまったわけだし」
「そうだね」
そうして、僕たちはこの廃病院の肝試しをお開きにすることにしました。
「よーし、んじゃこんなとこもう撤収撤収!」
そう言って、テツオが僕よりも早く部屋から出ました。




