3
「おっじゃまっしまあああああす!」
「ちょっと……声が大きい、もうちょいボリューム下げてよ……」
「へへへ、わりいわりい」
気分が高揚しているテツオの叫び声が廊下の向こう側まで響き渡り、不気味なエコーと共に跳ね返る。僕にはそれが、化け物の笑い声のようにも聞こえました。
入口の受付にはほとんど何もなく、あるのは多数の長椅子と外されて壁に立てかけてある窓ガラスぐらいでした。
「んじゃあ、さっそく伝説の正体を探りに行ってみますかねぇ」
「うん。で、これからどうすんの?」
何気なく聞いてみたのですが、テツオは決まりが悪そうに押し黙ってしまいました。
「………」
「………」
「あー……」
「………」
「んーっと、うんまあ、あれだ。行こうか」
「考えてなかったの?」
「そうだよ(開き直り)」
「はー、つっかえ」
「まま、ええやん。手当たり次第に部屋に入ってみようぜ」
そういうと、テツオはズンズンと暗闇の方へと入り込んでいきました。
「おい、早く来いよ!」
「……はぁ」
こうして僕たちは、何とも締まらない空気で病院の廊下を進んでいくことにな———
ガシャン
「……ッ!?」
その音は後ろから聞こえてきました。慌てて後ろに振り向いてみると、先程の立てかけてあったガラスが割れていました。
なあんだ、ガラスが倒れただけか、と僕は胸をなでおろし、テツオがいる方向へと押しを向けました。
あの時の僕は気が付くべきだったのです。
普通立てかけてあったガラスが倒れて割れたのならば、破片は均等にバラバラになり、広範囲に飛び散るはず。
でも、そのガラスは破片が立てかけてあった場所にしかなく、しかもその大きさが大きなものから小さなものまでまちまちで、
————————まるで誰かに割られたかのような不自然な割られ方をしていたということに。




