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えー、病院ってところはおっかないものでございましてねぇ。うちの実家には近くに病院があるんですが、これまたけったいにでっかい病院なんですわ。子供のころひょんなことでその病院に一か月お世話になったことがありまして、そん時なんかちょろっと部屋の外に出かけるとあまりの広さにすぐ迷子になりやがりまして……いや、別に大したことじゃあないんです。俺がまだ6つのころだったかな、馬鹿なもんで、夜寝るときに寝床に思いっきり飛び込んだもんでしてねぇ。へっどぼーど、っていうんですかね、そこに頭をしこたまぶつけちまって額がぱかっ、て開いちまったんですわ。いやそん時はもう親父もお袋も一緒に住んでたじっちゃんばっちゃんも目をひん剥いて家中大騒ぎで……ああいやいや、そんな俺の話は別にどうでもいいんでさぁ、はい。
えー話を戻しましょう、俺にはこう気の置けない友がおりまして、ってなんで意外な顔しやがるんだお前この野郎! 仲のいいやつの一人や二人くらいいるに決まってんだろバカヤロ! ……ってまあ、そんな話はさておき、これから俺が皆様にお話しするのはその友人がガキの頃に体験した話なんですね。まあ、俺が言伝で聞いた話なので本当かどうかは知ったこっちゃぁないんですがねぇ。俺も最初はあまりにも嘘くさい話で半信半疑だったもんなんですが……少なくともあいつがあの病院で数日の間行方をくらましていたことと、でたらめに嘘をつくようなやつじゃあないということは間違いがないんでさぁ。ん? いえいえ、俺が通ってたところとはまた違う病院でさぁ。って、その話はもういいじゃあねぇですか! 勘弁してくださいよ旦那ぁ。
おう、そこの坊主! おめぇ笑ってられんのも今のうちかもしんねぇぞ? そのうちガタガタ震えだして股からちろちろ漏らしても知んねぇかならぁ。俺の話は怖ぇぞぉ? だぁからべっとの話はどーでもいいんだっつの。
とまあ与太話はここまでにしておいて、そろそろぼちぼち語り始めましょうか。
怪談『キミはダレ?』
えー、これは俺が14歳の頃に友人から聞いたお話でございます――—―




