第六十五話 「黒猫に罠を張られた……①」
『山狩りですね。』
「山狩りしかありませんね。」
《山狩りしか無いでしょう。》
無線機を前に、オントスを駆って逃げ出したデルフィナ達への対応について、相談した結果の答えがコレである。
ソーフォニカとフロレンティナからの回答は解るが、何故か『霊界通信機』の中の人からも答えが応えってきたのはご愛嬌である。
どうも彼女はこちらの使用している周波数を把握しているせいか、興味のある話を傍受すると、積極的に話に介入して来るようになってしまった……。
取り敢えずその件は置いといて……
皆の意見は統一されたように同じで、全員を狩り出してソーフォニカの元へ送り返すというモノ。
問題は、あのデルフィナ達が簡単に捕まるかという点だ。
運良く取り憑いているオントスを破壊出来たとしても、そこは精霊。
オントスから抜け出し逃げるのも簡単だろうし、別のモノに取り憑いて、悪さをする可能性も否定できない。
……なにせデルフィナだから。
なまじっか肉体を持たない精霊であるがゆえに、厄介な相手である……。
その点も含めて「どうにか出来ないか?」と皆に相談したのだが、ソーフォニカから応援の人員を寄越してくれる事を約束して貰えた。
なんでも、精霊達を取り憑いてるモノから抜け出せなくさせる、封印のようなモノがあるとかで、それも送ってくれるそうだ。
やはり最初の人選から悪かったという事だろうか……。
元居たトリレガの村周辺のような、超が付く『ド田舎』と違い、王都のお膝元であるこの地で、騒ぎが起こったり妙な噂がたったりしたら、後々私達に面倒が降りかかるのは間違いない気がする。
今のうちキッチリと事を収めるべきだろう。
確実にデルフィナ達を抑えられるような連中を送ってくれるよう、ソーフォニカに頼み込んだので、あとは彼女らに期待しよう。
もう過剰戦力だろうがなかろうが関係無い。
平穏な学園生活を送りたいと願う私は、もう厄介事は懲り懲りなのだ。
ソーフォニカ達との話を終え、止む無く床へ着くが、なかなか寝付く事が出来なかった。
しかも、やっと寝付けたと思えたその晩、燃え落ちる街をバックに住民達が阿鼻叫喚状態で逃げ回る中、デルフィナ達がオントスで暴れ回り、皆を恐怖に落としいれているというトンデモな夢を視せられた……。
正夢にならないだろうか?
不安だ……。
どんよりとした気分の朝が来るも、デルフィナ達の件については応援が来るまで出来る事は何も無し。
アルドンサさんに頼まれた『水上競技部』への入部手続きの件も有る為、部屋で寝て過ごすわけにもいかない。
顔を洗って着替えを済ませ部屋の扉の前で声を掛けてきた第二王子を、首根っこ掴んで引き摺り寮から叩き出すといういつもの日課を終え、アルドンサさんの部屋へ向かい共に教職員室へ入部手続きへ向かう。
学園の始業まで日があり教師達も手持ち無沙汰でヒマだったのか?手続きはその場でアッサリ終えてくれた。
ただ……、手続きしてくれた職員ががこちらを気の毒そうな顔をしてポツリと一言……
「一応手続きはしとくけど、辞めたかったら即言うんだよ?」
なんかムッチャ気になるような反応をしてくれたー!
そんな事が言われたらかえって気になって仕方がないだろうが!?
アルドンサさん共に二人、思わず目が点になっちゃったよ!
いきなり初っ端からそんな調子なので、今日はおとなしく自分の部屋に籠り、オントス用の新装備などの設計を行う事にした。
ソーフォニカ謹製この世界唯一?のPCを立ち上げ、CADを使い妄想の具現化を始める。
幸い作ってみたいと思えるロマン装備の構想はいくらでもある。
オントス自体も、まだまだブラッシュアップの余地は多い。
そして何より、元の世界では作れなかったモノでも、この世界では魔法や錬金術といった要素と、強大な力を持つソーフォニカの計算能力により、実現の可能性があるのだ。
たとえば、『窒素』を 1,700 ℃、110万気圧で圧縮して『ポリ窒素』にすれば、従来プラスチック爆弾の主成分と言われる『トリメチレントリニトロアミン』の五倍以上のエネルギーを持つ爆薬が作れる。
だが、現代科学を持ってしても安定化した状態で取り扱うことができないため、実用化はされていない。
だが、この世界ならば魔法や錬金術を応用すれば、この力を利用した武器などの制作も可能ではないだろうか?
現状、オントス用装備の軽ロケット砲やバズーカ砲モドキは、魔石と魔法陣を利用した一発使い捨ての爆発魔法等を用い、モンロー/ノイマン効果を模している。
だがどうしても、本物の爆薬を使ったモノに比べれば威力が劣る。
もとよりこの世界で、火薬の利便性という情報を拡散させない事と弾頭自体の軽量化の為という、二つの目的を持って『魔石と魔法陣の組み合わせ』を利用しているからだ。
だが、元より現代科学でも製造が難しい『ポリ窒素』による爆薬ならば、前述した二つの要素に合致した兵器が作れるのではないだろうか?
結果的に、更なる重装甲を持つ相手でも撃破出来る武器が作れる可能性が……
他にも、爆発などを利用した火器を利用した兵器だけじゃなく、砲丸やハンマーのような重い質量を撃ち出せる武器も良いかもしれない。
有線式にして撃ち出した後は、ワイヤーを巻取り回収して連続使用出来るようにすれば、弾切れの心配も無くなる。
撃ち出す方法は、砲丸を突き飛ばす棒をソレノイド式アクチュエータにして、通電時にソレノイド内の心棒がはじき飛ばす仕組みにすれば、構造も単純化出来るし砲丸を収める薬室も砲身も要らない。
砲丸の質量が重いから初速も遅いし射程も長くは出来ないけど、重さゆえに有風時の影響も無いし当てやすい武器になるかも……
これなら、相手が盾で防御しようが盾ごと潰せるし……うん、これは良いアイデアだ!
そんな妄想をツラツラと書き連ねながら図面を引いていると、部屋の戸を叩くノックの音がした。
せっかく乗りに乗ってきたところを……誰だろう?と、やや不機嫌になりながら扉を開けると、寮の管理を任されている寮母さんが、立っていた。
「五人の若い女性がスターリング様を訪ねて階下へいらっしゃっていますが、如何いたしましょう?
どうやら種族はエルフのようでしたが。」
「エルフ?」
どうやら私への客らしい。
この学園に着いてから出来た知り合いに、エルフの知り合いなど居ない筈なのだが……
取り敢えず階下の食堂に待たせてあるというので、早速向かってみると……
そこには湯気の立つティーカップ片手に持つ、五人の美女エルフが私を待ち構えて居た!!




