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第六十話 「裏切りな遊戯②」


 目の前で今、私は信じられないモノを視ている。


 というか、これは私に対する罠だろうか!?


 先程、馬車の中で話題としていた、『猪に騎乗したエルフ』というのの実物が、私達の馬車の前を、先行するようにテクテクと歩いていたのだ。


 それも若くて美人な女性である……。


 ああ、アレが本物の猪に乗ったエルフか……

 髪の毛サラサラで頭小さくてモデル体型で美人さんなんだよなぁ……

 ちゃんと背中に弓持ってるし……

 でも、あんな美人でも、花摘みにいった時後ろから猪にイヤらしい部分を……


 いかんいかん!

 何を想像してるんだ!?


 どうも馬車の中でこの世界の色々な実情知らされてから、物事がマトモに見れなくなってきたぞ……。


「珍しいですねぇ

 あれはどうやらエルフの冒険者さんのようです。」


 この世界においては、私よりも先輩であるアルドンサさんが教えてくれた。


「やっぱこの世界エルフの冒険者居るんだなぁ。」


「そりゃ居ますよ。

 というかダンミアの森の捜索隊にも何人か加わってたでしょ?」


 言われてみればそうだった。

 でも、あの時は冒険者全体の数からしたら、やはりかなりの少数派だったようにみえる。


「エルフって視る事少ないけど、やっぱ森の奥とかに殆ど隠棲してるからとか?」


「そういうワケでも無いんですよ。

 まぁ我が王国は亜人とかに対する差別が酷いというのもありますが、末端であるウチみたいな弱小な領地はそんな事無いですけど……

 でも最大の要因は、彼らの本来の生息域が『魔に属する軍団』の領域を挟んで、更に北側にある為ではないかと……。」


「それじゃ、コチラまで渡ってくるのも大変じゃん。

 今街とかに居るエルフとかは、どうやって渡って来たんだろう?」


「少数は実力で魔の領域を突っ切って来たのも居ますけど、殆どは海から船でかと。

 あと他にも、ドワーフが掘った地下通路を渡ってという話も。」


 この世界、ドワーフ居るのか……

 そう言えばドワーフは未だ見たこと無いなぁ。


「ドワーフって本当に居るんだ……。」


「ウチのような弱小で辺境な領地にはいませんよ。

 彼らは概して秘密主義者で、ごく少数が王都に請われて住んで居ますけね。

 彼らの作る武器は高品質ですから。

 値段もの凄く高いですけど……。

 ウチの領地への誘致は、色々な面で難しいでしょうねぇ……。」


「良く有るファンタジーもので聞く、酒で釣るなんてのは出来ないの?」


「それを私がやらなかったと思います?」


 そう言えばそうだった。

 一応転生者(当人は乙女ゲーの世界へ来たと思い込んでる。)なんだった。

 それなりに、チートを試したりはしたんだろう。


「私の知識使って林檎酒をベースにした蒸留酒作って渡したりしたんですけどねぇ。

 残念ながら彼らは酒や食については保守的で受け入れられなかったんですよ。」


「なるほど……

 蒸留酒チートは駄目かぁ……

 というか良く蒸留酒作る設備有ったねぇ?」


「これでも私、前世では薬局に勤めていたんですよ。

 だから高価な化粧水の類とか、アレやコレすれば格安で作れちゃう事とか知ってたものですから。

 元々蒸留酒作る設備も、化粧水とか精油作る為に作った設備の転用です。」


「なるほど~

 というか化粧品や香油の類作れたんなら、それを王都に売る金儲けチートとか出来たんでは?」


「それやろうとしましたが、所詮発信元が田舎の私の領地ですから、ネームバリュー的に無理でした……。

 よく、そのたぐいで成り上がれるネット小説の主人公居ますけど、ああいったのはそれなりの発信力を持たせられる、余程良い地位に生まれたから出来るんでしょうね。

 だいたい、私達以外にもこの世界へ召喚されたり転生したりした人が居る筈なんですけど、そういったのが出回ってないのが良い証拠です。

 紙なんてこの世界、未だに羊皮紙ですよ!羊皮紙!!

 私はまだ貴族に生まれたからマシですけど、それでも創作活動になぞ高価で使えたものじゃありません!!」


 創作活動って……

 この人同人活動でもやってたのだろうか?

 まさか死亡原因も徹夜続きでの原稿描きに、コミケの熱気に当てられて熱射病でとか……?

 いかん、詮索するのはやめよう。


 しかし安い紙の量産については、私自身も欲しいし、ソーフォニカに相談してみようか?


 そんな雑談を、馬車の中でしながら外の典型的な田園風景眺めてたら、妙なものが目に写った。


 前進黒装束を纏った集団が、木々の間に手に得物を持ち、隠れていたのだ。

 通常の人ならば見付け難いかもしれないが、殆どエルフの遺伝子ベースのホムンクルス身体(ボディ)

の私には、視力なども強化されているので、発見は容易だった。


 はぁ、また襲撃かよ。

 今度の相手は何者だよ……?


「全車停止!!

 右翼の森に襲撃者らしきもの発見!

 総員戦闘用意!!」


 私の号令を受けて、全車両が停止し、一時的に護衛騎士達も馬車を遮蔽物として利用して、弓矢の攻撃に備える。

 これは予め私からの提案で決めたフォーメーションだ。

 護衛騎士にはむやみに突っ込む事はせず、最初の一撃目は馬車の防御力を信じて遮蔽物として利用し、状況を確認してから戦闘に入るようにと。

 一度土遁の術で、護衛騎士との間を分断された事があったので、その対策も兼ねている。

 馬車からは早速、腕が伸びてあの『マジカルサウンドシャワー』なる、いろんな意味で危険過ぎる武器が、森に対して指向されてく。


 まぁあの場所なら、建物があるわけでもないし、周りに対する迷惑にもならないだろう。

 森にとってはチョット土に肥料が多く混ざるだけだ。


 私達の前方に居た、猪に騎乗したエルフさんも、私の声を聞いて弓を森の方向へ構えている。


 そして、奴らは発見されたとみるや、弓矢や魔法を放ちながら、バカ正直に突撃してきた。


 今までに襲ってきた連中から情報仕入れてないのか……?

 そんな方法でうちら相手に出来るワケないだろう……。


 まぁ人数だけは今までより膨れ上がって、四十人に達するほど居そうだが、遠距離にいるうちに発見されてる時点で、お前たちに出来る事は無いのだよ……。


 ズドン!ズドン!ズドン!


 多少弧をえがく弾道で、ポテトならぬ馬糞が相変わらずの機関砲の如く連射され、相変わらず食らった相手は、臭い汚れに身を染めながら吹っ飛ばされている。

 当たりどころが悪かった奴は、直ぐその場で気絶してくれてるし、結構悪くない武器なのかもしれない。

 一応その馬糞による弾幕を、くぐり抜けてこようとする連中の迎撃の為に、いつもの『雷鳴の杖(トニータルァ)』を用意しておく。


 しかし、妙な事に気が付いた。


 連中、今回はご丁寧にも、突撃する班と後ろから弓矢や魔法で援護射撃する班に、別れていたのである。

 しかも、そういった遠距離から火力は、コチラには殆ど飛んでこず、何故か前方にいた猪に乗ったエルフさんの方へ向っていったのだ。


 ありゃ?

 こりゃあこちらの巻き添えを食らわせる事になっちゃいそうだな。

 悪い事をした。

 しょうがないので、コチラから声を掛ける事にした。


「そこのエルフさん!

 危ないからこちらの馬車の後ろに隠れなさい!!」


 私の声に気付いたエルフの冒険者さんは、猪を反してこちらへ向って来てくれた。


 さて、あとはこちらの独壇場である。


 私の得意な得物である『雷鳴の杖(トニータルァ)』を起動する紐を思いっきり引っ張ると、人数の多そうな場所から、片っ端から電撃の魔法を撃ち込んだ。

 今日は周辺からの魔素の集まり具合が良いのか、食らった連中はいつもより多く悲鳴をあげて吹っ飛んでいく。


 うん、今日も相変わらず良い吹っ飛び具合だね。

 私の『雷鳴の杖(トニータルァ)』も喜びのあまり、煙吹いてるよ。

 ん?

 煙!?


「スターリング様!!」


 フロレンティナが慌てたように急いで私の手から、煙を吹き始めた『雷鳴の杖』を取り上げると、遠投一閃、森の木々に隠れながらこちらへ向って弓矢や魔法を放っている連中の元へ投げつけた。


 地面に叩きつけられた『雷鳴の杖』はその場で閃光を放ち始めるとイキナリ……。




 ズドドドオオオオオオンン!!




 その場に空から巨大な雷の閃光が落ち、周りにプラズマの光を撒き散らしながら大爆発を起こした!!

 それは今までに見たことがない大爆発だった。

 あまりの爆風に、危うく箱馬車はひっくり返りかけ、爆風でそこらのものが大量に飛んできた。


 飛んできたものの中には、こちらへ向って突撃してきた連中の身体が丸ごとなんてのもあった。


 私自身は、フロレンティナが覆いかぶさり、私を飛ばされないようにかばってくれたので無事だった。


 『雷鳴の杖』が引き起こした巨大な雷と爆発は、落ちた場所に十メートル程のクレーターを開け、その周りの木々も黒焦げとなり、同心円状に倒れたりしていた。


 爆発場所が、もう少し近かったら私達も危なかっただろう。


 勿論、爆発場所にはもはや人体らしきもの一つ存在しない。

 皆、発生した高圧のプラズマで、一瞬のうちに焼けバラバラになったようだ……。


 私が起こした初の、『雷鳴の杖』による事故である。

 それも犠牲者多数。


 こちらの命を狙って来た相手とはいえ、その身すら残さない恐ろしい威力に、私達は絶句した。

 フロレンティナがいち早く気付いて、投げつけてくれなかったら、この爆発の威力は私達が受けるところだったのだ。


 取り敢えず私達は点呼をとり、護衛騎士達の間でも犠牲者がなかった事を確認してホッとした。

 やはり襲撃時に馬車を遮蔽物として隠れたのが、功を奏したのだ。


 お気に入りの武器であったが、『雷鳴の杖(トニータルァ)』よ、安らかに眠れ。

 お前と冒険した日々は忘れないぞ……。


 先程の馬車の影へ隠れるように言った、エルフの冒険者も無事だったようで、お礼を言ってきた。

 なぜだか、逆に向こうのほうが、「巻き込んでしまってごめんなさい。」と言ってきたが、明らかに巻き込んだのはこちらだろう。

 それとも向こうも、狙われるような理由でも、あったのだろうか?


 取り敢えずこちらは『ダブボア』の町へ向かう事を告げ、行き先が同じなら一緒に行く事を誘ったが、エルフさんは、その先にある『ドブウォー』の街で、人と会う約束をしているとの事で、別れる事になった。


 まぁ事故とはいえ、あんなものを見せられたので、一緒に居る事を怖くなったのかもしれない。



 そのまま私達は、『ダブボア』の町に入ったが、そこも今度は阿鼻叫喚と化していた。


 この旅はトラブルというのが尽きぬのだろうか?

 いい加減にしてほしい……。

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