第五十九話 「裏切りな遊戯①」
《それは夢ですね。》
私の真剣な不安に対する質問を、ソーフォニカは一刀のもとに切り捨てた。
《たかだか、婚期を逸しかけてる神官一人の為に、ご主人様一人ワザワザ女神が神託を送ってくるとは思えません。》
「そ、そうか……
やっぱ夢なのか……。」
《神への陞神が五十年以下で行われた件については、私も永らく人間界での情報収集が出来なかった為、判りかねますがこちらでも調べてみましょう。
なにしろ、『ミーナ・ゴローズ教』自体が、新興宗教という事もあって、こちらでも情報不足なのです。
心配であれば、出来る限りミーナ・ゴローズ系の宗教施設とか、あえて近付かない方が良いでしょう。
ヘタに近付けばそこから、人属を守護する系列の神々に、こちらの情報が流れる可能性が高いです。
そうなれば、我々の存在を利用しようと、向こうからなんらかのアクションを起こしてくる可能性もでてきます。
それから、神殿を馬糞で汚した件については、私から後でデルフィナにお仕置きしておきますので、あまり余計な情報に囚われず、学園では伸び伸びやって楽しんで来て下さい。》
ソーフォニカの癒やしの言葉が有り難い……。
そうだよな。
いくらなんでも女神が信者でもない一介の私に、わざわざ神託を夢で送ってくるワケはないよなぁ。
それも、婚期逃しかけの神官一人の為に……
というかそんな事で神託送るなら、もっといい男の金持ちとか選んでやれよ!!
《取り敢えず、馬車の人選については私のミスでした。
オントス取り上げて馬車にでもしとけば少しは大人しくなるのではと考えたのですが……
一応学園内での護衛も含めて増援を送りますので、それまで我慢して下さい。》
いや……そもそも馬糞の回収機能はまだしも、それを武器として発射する余計な機能をソーフォニカが付けたから、あいつら暴走したんではないか?
《非殺傷武器としては良いアイデアだと思ったのですが……。
火薬も使わないですし、メタンと空気を点火プラグで発火させ、燃焼時の圧力だけで発射出来る、まことにエコな人道的兵器かと……》
「いや、人の心勝手に読んで返事するなよ……。
しかしどっから思い付いたんだ?
あんな兵器……。」
《アメリカではアイダホの農民が、自らの屁を使い発火させる事で、ジャガイモを弾丸として飛ばし、気に入らない車が通りかかると、撃ち込んで襲って来ると聞きましたが……》
いやどんだけ世紀末なんだよアイダホって!?(いや世紀末過ぎてるけど……。)
おまけに『屁を燃やして』の時点でツッコミどころ満載だし……(尻を火傷しないのか!?)
大方私自身が忘れてるくらい昔の、ヌーチューブかなんかの動画サイトに出てたネタなんだろうけど、まさかそんなものが、あんな危険で恐ろしい兵器に化けるとは……ガクブル……。
《弾丸に馬糞を使ったのはご主人さまのご先祖達が、日露戦争中に弾丸が無くなったらお互い馬糞や人糞を投げつけあったという記録を読んで参考にしたのですが。》
そういえばあったなぁ……そんな記録……
他にもロシア軍の堡塁近くで、人糞や馬糞を燃やしてムシロで扇いでその煙を送り込んだとか、それが歴史上初めての毒ガス攻撃にあたるとか……
嫌な意味での旧日本軍って『世界初の』事をやってのけてたんだっけな……。
というか、そんなロクでもない事をあんまり参考にしないで欲しい。
この世界でそんなものが流行ったらどーする!?
そんな事でこの世界での歴史上に残る人物になりたくないぞ!!
《それでは、新たな増援と向こうで役立ちそうな、新装備を送っておきますので。
これにて。》
ソーフォニカからの無線は切れた。
なんとなく、いろんな意味での気が重いのは何故だろう?
フロレンティナが、私のことを思い量って朝食を作りを買って出てくれたのが有り難い。
幸い出来た朝食の味も、マトモだったし……。
それが一番の不安だったので、助かった。
「いや~でも凄いですねぇ。
スターリング様とソーフォニカ様が共同開発したこの『白い粉』!
これを料理に掛けただけで、皆『おいしいおいしい』と喜んでくれるんですからねぇ。」
そこは『化学調味料』とか『うま味調味料』とか言え。
『白い粉』だけじゃあ、なんか私達が物凄く怪しいクスリかを皆にキメてるみたいでなんかイヤだぞ!!
しかし、調味料をコレだけに頼っているという時点で、チョットダメダメな気が……。
料理漫画のどっかの主人公だったら、怒り狂って無駄なウンチクを始めそうだ。
とりあえず朝食の終えた私達は再び出発する。
危険な未整備な細い道とかは今までの例もあるので、多少遠回りになるが避ける事にする。
安全策として街道を更に南下し、途中から東方向に進路を変え『ダブボア』という町に向かう事にした。
距離的に言えば、その『ダブボア』の町まで僅か六キロ程度に過ぎない。
だがその地は養豚業(正確には養猪?)が盛んんで、そこで食料を余分に購入したいとのアルドンサさんの希望もあり、そこで泊まる予定となったのだ。
なんでも、そこはでは『闘猪』という猪同士を戦わせる競技が行われていて、その勝敗によるトトカルチョも盛んだったとか。
勿論、試合後の猪の負傷や死亡も数しれず、そうやって負けた猪や傷の完治が難しい負傷が激しい猪は、その場で肉にして販売を続けているうちに、そのまま養豚業も盛んになったという……。
人間の業の深さって恐ろしい……。
因みにこの世界、猪が馬の代わりとして乗り物として活用されてる地方もあるそうな。
特にエルフ達は、馬よりも猪に乗っているケースが多いとの事で……
イメージ台無しである……。
彼らに言わせれば。
タンニンがきつくて渋い人が食べるには不向きな木の実でも、喜んで食べてくれるので、森に住む彼らにとっては簡単に集められるので飼料に困らない。
体重が重く力が強いので、荷車を牽かせるのにもうってつけ。
といった利点も多く、おまけに。
食料が不足した時の非常食にもなる。(特に後ろ足は生で食べられる程美味しいそうだが、草食のエルフのイメージが更に台無し!)
道に落ちている馬や動物の糞などを積極的に食べてくれるので、エコでいいとか……(また糞かよ!?)
ただし、うっかりそこらで花摘み(隠語)に踏ん張っていると、匂いを嗅ぎつけてお尻を舐めてきたりする事もあるので油断は出来ないらしい。(しかも綺麗に舐め取ってくれるとかで、新たな危険な感覚に目覚めてしまうエルフを多々あるとかないとか?)
そんなイヤな実情聞きたくなかったよ……
私の純真なファンタジーに対するイメージを帰して欲しのだが、この怒りのぶつけ先は何処にしたら良いのだろう?
取り敢えず豚肉(猪肉?)は食べたいとの希望者が多かったので、それだけを期待しながら私と愉快な仲間達は、更に街道を先へ進むのだった。
王都にはいつになったら着くんだろうなぁ……。




