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第五十八話 「脅迫屋」


 前回の騒動で町中での泊まる場所を失った私達。


 宗教の町である『セント・オネット』にとって、正当防衛とはいえ神聖なる神殿に馬糞をぶちまけるという暴挙に及んだ事と、ならびに、馬も無しで無人で動く『恐怖の箱馬車持ち』という噂がたたり、受け入れ先を尽く失った為だ。


 事件を起こした当人(当精霊?)達はどこ吹く風だが、巻き込まれた方は溜まった者じゃない。


 せめてもの救い(?)は、あの騒動で捕まった三悪人+神殿騎士連中は、投獄される前の最初の苦力として、あの馬糞だらけになった神殿の掃除させられた事だ。

 そりゃあ神様の宿である神殿が馬糞まみれで放置されていたら、町全体に天罰が落ちかねないし。

 聖職者の身でありながら、とんでもない悪行を企んだ罪は重いのだ。


 心身共に清めるつもりで、その罪を償って貰いたい。(まぁおそらく官吏達や警備人が、あの場を片付けるの嫌がったからだろうけどな!)


 さて、私達としては、騒動を起こした手前、巡礼者の皆さん方からジロジロ見られるのも恥ずかしいとの、アルドンサさん&ベルナルダさん二人の希望により、街道を少し外れ町の東にある小さな森の中で野宿する事になった。


 箱馬車に乗れるアルドンサさん達とその従者や召使い(メイド)達に関しては、あの箱馬車の座席はリクライニング出来るので、多少狭いのを気にしなければ寝れない事もないだろう。


 エコノミー症候群が心配だが……。


 気の毒なのは、割を食った護衛騎士達。


 彼らは、乗ってきた馬達の懐に抱かれるようにして眠るそうな。


 愛馬共々慣れていれば、この寝方は温かいのだそうだ。


 ただ、馬が寝返りうつと、ミスると潰されるそうだが……。


 愛馬との信頼関係と、寝返りで潰される危険性を、両天秤にかけるという、非常にスリリングな寝方である。


 私はいつものごとく、適当に丈夫そうな木の幹を見付けて、ハンモックを吊り寝る事にする。


 因みにフロレンティナは、相変わらずの私と同じハッモックで寝るという。

 当人曰く、『護衛対象同じ場所で寝るのは当然』との事だが、絶対このハンモックが気に入ったからなのが、バレバレである。


 『船乗りになったら、毎日寝るのはハンモックでだぞ?』などと彼女に言ったら、『早く大航海時代を実現させましょう!』とか言い出しそうである。

 実情は腎臓を悪くしそうな塩漬けの豚肉に、蛆が湧いたビスケットによる毎日の食事生活、そしてバッターとか言われる櫂を使った尻叩きに蝉と呼ばれる船の柱によじ登りどれだけ耐えられるかという、理不尽な下士官による体罰の数々……というトンデモ生活なんだが。


 さすがにそんな『()()()()()』は実現させたくはないな。


 結局いつものように、彼女は私を抱き枕にしながらの睡眠と相成った。


 この寝方されると私の方がドキドキでなかなか眠れないんだが。

 六根清浄、六根清浄、六根猩々……


 根が小心な小悪党なせいか、なかなか八正道を往くことはかなわない私ではあるが、今日は珍しく早めに意識を失えた。


 そして、夢の中で女神ミーナ・ゴローズ様とご対面となる。


 今回の件で、さぞかしお怒りであろう彼女に、必死の想いで平伏して平謝りする。


「今回の件は、うちの狂犬、違った番犬がとんでもない粗相を致しまして、誠に申し訳なく思っております。

 なにとぞ平にご容赦を……」


「いえ、こちらこそ、我が教会の根腐れ坊主がご迷惑おかけしまして、おまけにその処分までして頂き、ありがとうございました。」


 女神様が平伏して謝ってくれている……。


 この方、人属(ヒューム)の守護女神の中では、わりとまともな人なのかもしれない。


「……で、つきましては、うちのベルナルダを引き取り……違った娶ってくれる件で……」


 前言撤回。

 単に厄介者を押し付けたかっただけのようだ。


「いや、それはおかしい。

 というか無理です。

 わたくし、これでも肉体は女なものでして。」


「その件に付きましては無問題です。

 そもそも彼女は両性愛者(バイ)ですから。」


 おい!!

 サラっと言ってるが神様がバイセクシュアル認めてよいのか!?

 『産めよ増やせよ』してないと、人属(ヒューム)の国力が落ちるんじゃないのか!?


「今更一人や二人の事で、そんな事気にしても仕方ないですし、一応我が教は『寛容』の心を教えとしているので。」


 心読めるんかい!?

 寛容しすぎで、あの腐敗にまみれた教区長兄弟みたいなの生んじゃ駄目だろう?


「ええ、その件については返す言葉もありません。

 あの二人、一応は妻子持ちの身ですし、改心してくれるのを期待していたのですが……。

 残念です。」


 あの二人妻子持ちだったんかい!?

 聖職者のくせに妻子持って良かったんかい?

 ここの教義って!?


「一応、人属(ヒューム)を守護する神々の方針が、『産めよ増やせよ』だったもので、聖職者であっても婚姻は認められてました。

 まぁ異種族との婚姻については、いい顔をしない神々が多い事は認めますが……。」


 なるほど~

 だからこの世界では、混血に対する差別意識が強いワケか。


「それにこの世界、男性の方が早死にする事も多いものですから。

 あの二人にしても、兄の方は妻子を含めて二十九人、弟の方も妻だけで五人も養ってましたから、その家族の事を考えると、天罰を落とすのも忍びないと……」


 妻子含めて二十九人と妻だけで五人だと!?


 それはいかん!!

 そんなハーレム持ち、速攻で処刑すべきである!!


「いや、それは貴方当人の単なる僻みでは……?」


 まぁそうとも言うが、(彼女すら)持たざる者は(ハーレム)を持つものに対して、僻みを持つ権利を与えられてるんだよ!!


「いや、それでいったら既に貴方様は、立派なハーレムを形成されているような……?」


 いや、殆ど人外なんですけど……。

 巨大脳味噌に陸海空三つ揃い踏みの精霊達相手に何をしろと?

 火の精霊には未だ会ったことは無いけど、愛が熱すぎて抱きついた途端に炭になりそうだぞ?


「でしたら、人間枠のベルナルダの一人くらい養ってあげても良さそうじゃないですか?

 独身で彼氏居ない歴×年齢で処女を拗らせてますけど、美人だし良物件だと思いますよ?」


 女神に酷い言われようだなベルナルダさん……。


 でも、そう言われると、決して悪い話では無いんだよな。

 少々愛が重くて、ヤンデレ入ってて、浮気するとナイスボートされる危険がある事を除けば……


 って致死性のデメリット多すぎじゃん!!


 危うく女神の甘言に引っ掛かるとこだった……

 危うし危うい……。


 なにやら女神様、「チッ、引っ掛からなかったか……」とか呟いてるし……。

 貴方も結構黒いのね……。


「黒いというのは聞き捨てならないですけど……

 少々神としての経験値が少ないだけです。

 何しろ前に死んでから未だ五十年経たないうちに、女神として陞神したのですから、結構大変なのですよ。」


 なんですとぉ?

 五十年経たないうちに?


「というわけで私の神殿、馬糞まみれにした事は許すから、ベルナルダの事はお願いね~。」


「ちょっちょっとまって!

 陞神に五十年経ってないって本当なの!?」


「さようなら~。」


「お~い!!」




 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇




「スターリング様!!

 どうなされたのです!?

 しっかりして下さい!!」


 目を開けると、私の頬を叩き続けるフロレンティナの姿が……


「ああ、よかった……。

 なにやらスターリング様、物凄いうなされ方をしていたので、まさか『夢魔(サキュバス)』にでも取り憑かれたのかと心配し……」


「いや……夢魔(サキュバス)なんかより、もっと怖いものに取り憑かれてたよ……。」


「そ、それは何ですか!?」


「今は言ってもしょうがない事だよ……。」


 そう、そうなのだ。

 女神からの天罰が、たかだか百年後と侮っていたこの私に、いきなり半分の五十年後という可能性を突きつけた新たな女神が現れたのである。


 つまり、私もフロレンティナも、五十年後の天罰を気にしなければならないのだ!


 残された時間で、なんとか女神の機嫌を取る方法を考えなければならない現実に、私はうちのめされる事となったのだ。




 嗚呼、いっそのことミーナ・ゴローズ教に改宗して、同じ女神同士という事でとりなして貰うのは無理だろうか?


 その事を考えたとたん途端、頭の中に『多分無理~。』という言葉が気のせいか浮かんだのだが、そんな事ないよね!?

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