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第五十二話 「復讐のメロドラマ③」


 『話は聞かせて貰ったわ!』とドヤ顔で店に飛び込んで来た二人組。


 アルドンサさんとベルナルダさんは、呼んでもいなにのに勝手に店へ上がり込み、私とフロレンティナに出されたお茶を、これまた勝手に飲み干した挙げ句。


「「ヌルいわよ!この程度で店やっていける自信あるの?」」とかいきなりコンチェッタさんの店をディスりだした。

 おいおい、お前らはどっかの姑のオカンか!?


「はぁ……すいません。」


 いや勝手に上がり込んで来たのはコイツらだから……

 コンチェッタさんは、まったくのノット・ギルティだから。


「で、話は聞かせて貰ったって、それって『人類は滅亡する!』とかいうネタじゃないよね?」


「古すぎるわよ!『()()()()()()』じゃあるまいし!

 そんな事じゃなく、農場作りたいとかいう件よ!」


「何か方法あるんですか?

 このあたり五公五民とか税率高いし、なんとかする方法探っているんですけど……。」


「そんなの簡単よ、私の領地で農園経営すればいいのよ?」


「アルドンサさんの領地で?」


「元々貴方も勘違いしてる部分があるわ。

 だいたい、ケインズとか現代の知識持った私のような人間が領地経営してるのよ?

 そんなバカな経済観念で政策組んでるワケないじゃない?」


 そういえばごもっともである。

 ならばなんで五公五民とか高率の税取ってるんだ?


「そこよそこ!

 よくネット小説なんかでも、単純に税金下げれば経済が上向くとかいって、そのての内政チートやろうとする人いるでしょ?

 でも実際この世界でそんな事やったらどうなると思う?」


「……まぁ周りの領主貴族からの反感かって、潰されるというオチ?」


「その通りよ。

 それにこの世界、王国にも召喚者が居るんだし、それ通じて国王や宰相なんかに、私みたいな存在がバレたらどーなると思う?」


「まぁ普通に考えたら、国に取り込まれ強制的に王族と結婚させられ、後宮に事実上の幽閉パターン?」


「そういう事よ。

 だから、そういった事がバレないように迂回チートをやってるってワケ。」


「迂回チート?」


「簡単よ。

 例えば秋に農村からは五公五民の税率掛けて、麦とかの換金作物を取るけど、それを一旦お金に変えたら、芋類とかの保存の効くものを海外や安い地方から大量に買い付ける。

 それで冬場になったら感謝祭とか税金還付とかいろいろ理由付けて、そういった保存の効く食料を各家庭全てに大量に分け与えるの。

 定期的に毎年必ずやれば、民衆もその時期はそれが貰えると判ってるから、冬場の食料の心配せずに財布の紐を緩めるでしょ?

 特にその時期、寒くなるんだから織物や毛皮、薪といったものが大量に売れる。

 結果的にいえば、お陰で風邪や栄養不良とかで倒れる人も減る。

 あと、年末に出来るだけまとめて理由つけて大規模公共事業よ?

 それやれば出稼ぎに来てる人々も、お金が入用な冬場にお金を貰うだけじゃなく、そのお金で土産とか買って携えて家に帰るでしょ。

 福祉政策も兼ねた典型的な経済を廻す方法よ。

 こういう風に政府支出乗数が高くなる分野に、コッソリと少しづつお金をまわしていったワケよ。

 それこそに目立たないよう、目立たないよう、少しづつ迂回した形で内政チートを組み込んで来たってワケ。」


 なるほど……そういうふうに用心深く目立たずを少しづつ続けて来たというワケか……。

 たしかに、医療、福祉、教育の三点セットは政府支出乗数が高いから上げると将来的に国のGDPが高くなるなんて研究結果が出てたなぁ……。

 日本じゃ頭に蜘蛛がこびり着いた古典マルクス経済支持者が大量に居て、そういった新しい経済学信用しない老害が経済界の重鎮やってるケースが多くて困った事になっていたんだが……


 そうか……そういった優秀な頭脳を持った若い奴ほど早死にして異世界に転生させられちゃうから、その分日本の先行きが悪くなってったんだな。


 まぁ主な原因は老害にあるんだけど、やっぱ異世界転生や召喚って害悪だわ。


 ファンタジー、許すまじ!


「これまでそうやって少しづつ領地を豊かにしてきたんだけど、どうも最近その手法が少しづつバレ始めてるらしいのよねぇ……。

 実際となりの領地貴族の手のものに襲われる事もあったし……

 それは貴方が未然に防いでくれたんだけどね。

 どう脅したのか判らないけど、それ以降手を出して来なくなったし……」


 まぁそのあたりは、ギルド長が()()()()()してくれて取り持ってくれたのもあるけどな。


「さっきの『第二王子』の件も、王国側も少しづつこの領地が普通じゃないって気が付いて来たからかもねぇ。

 ただ目立つ事はやってないから、大掛かりな事にはしないけど、あわよくば多少の金蔓になればってとこかなぁ……?」


 なるほど、それがさっきの騒動の原因か……。


「まぁ話はズレたんだけど実は私、実家の領地以外にも私自身の領地を持ってるのよ。」


「それは親から分け与えられたとか?」


「違うわよ。

 うちには過去に魔王討伐を果たして永代貴族となった、お祖母様が居るワケ。

 そのお祖母様から、未だ死んでないけど生前贈与の形で少しだけど領地を分け与えて貰ったわけ。

 しかもその領地に関しては、お祖母様の血をひく者が管理する限り、王国側に対しては永久に無税よ!」


 それは確かに凄い領地だ。

 魔王討伐というのがどれくらい凄いか判らないが、王国も太っ腹なトコロもあったようだ。


「だいたい、貴族から王国側へ支払う税っていろいろ有るけど、だいたい五公五民程度のところだったら、そのうちの半分は持っていかれるのが普通ってワケ。

 その事を考えれば小さな領地とはいえ、すっごく有り難いのよ。」


 なるほど、その領地に住むなら王国側に支払う税が無い分、半額になるワケかぁ……


「それなら結構魅力的な話だな。税額がいきなり半分なら耕地面積も減らせるし……」


「しかも、今ならお得なプライスダウン!

 スターリング様が私と一緒に三年間学校へ通ってくれるなら、税金タダにしてもいいわよ!」


「ええええええええ!?」


 それは有り難いが、なんか話が旨すぎる!

 どんな罠が仕掛けられているのか?


「まさかと思うけど、そのまんま私と結婚まで持ち込もうとか考えてないよね?」


「ギク!ギク!」


 いや口でワザワザ擬音言わなくてもいいから……。

 そんな事言ってると、隣に居る神官さんから精霊すら恐れる謎の黒いモノが出て辺りを侵食しそうだぞ。


「まぁそれは()()冗談なんだけど、それなりに理由もあるのよ。

 なにしろその土地って半分は『魔に属する軍団』の領地に接してる『()()()()()』ってワケ。

 でも、スターリングさんは、そんなの気にする必要も無い程の武力持ってるでしょ?

 ハッキリぶっちゃけて言えば、あの『農業協同組合』、略して『のうきょう』って組織、スターリングさんの私兵でしょ?」


 まぁそこまでバレてしまっているか……。

 まぁバレるのも当然とも言えるけど……。


「勿論私にも利があるわよ?

 貴方達のような武力集団が居るってだけで、あの辺り一帯の治安は向上するし、その分移住希望者も増えるってワケ。

 ましてやスターリング様の名前は盗賊達にも知れ渡っているからねぇ。

 そうなれば、貰ったは良いものの半分見捨てられた土地だったあの場所が、宝の場所に化けるってワケよ。

 どう?

 これでどちらにも利があるって判った?」


 たしかにそう考えれば、お互いWINWINの関係だ。

 利は申し分ない。


「ついでに開拓した分の土地の所有権も付けるわよ。

 これは美味しいんじゃないかしら?」


 それは美味しい。

 いくら開拓しても、取り上げられたら話にならないし、幾ら税が安くても土地の借用料が高ければ話にならない。


「ただ、勿論だけどこちらからも条件を付けるわよ。」


「で、どんな条件なの?」




「私がどんなピンチに陥っても、見捨てないで駆けつけてくれる事かなぁ。

 どうかしら?」





「……はぁ……?」


「今まで都合の良さそうなことばかり言って悪いけど、この世界って一寸先は闇みたいなもので、正直何が起きるかなんて判らないのよ。

 おまけに命の価値が安すぎる世界よ?

 そんな中で、こちらとしては一人くらい、絶対的な信用のおける味方が欲しいってことなのよ。

 せめて、ひとりくらいわね……。」




「……私がそんなに信用出来る人物に見えますか?

 私だったら、怪しんで絶対契約なんてしないと思いますよ……?」


「まぁ同じ故郷を持つ者同士として信用したいっていう、私自身の願望もあるのよね。

 その程度の動機だけど、どうかしら?

 契約に応じてくれないかしら?」




 なかなかこの女は卑怯だ。




 そんな事を言われてしまったら、一応多少は男としての矜持が残ってる私としては、手を取らずには居られないじゃないか。


「OK、判ったその話に乗ろう。

 細かい事は、今度詰めるとして……

 ところで、なんでベルナルダさんまでここに混じっているんですか?」


「酷い!スターリング様ここで私にそれを言いますか!?」


「それだけど、彼女にも学園に行く時、一緒に来てもらおうと思ってるのよ。」


「え?」


「いった先でどんな目に遭うか判らないからね。

 彼女なら神官だけあって『癒やし系の魔法』も使えるし、名目は私付きのメイドとしてでも来て貰うつもりよ。」


「え?

 一応彼女神官でしょ?

 いいんですか?」


「大丈夫、神殿から彼女を借り出す許可も取ったわ。

 それなりな喜捨を払ってね。」


 なるほど、地獄の沙汰も金次第か。

 今の彼女は神殿にとっての余剰人員だし、渡りに船ってワケだ。


「それに私も女神『ミーナ・ゴローズ』様の神託も承けています!

 『汝、スターリング様の元を離れるべからず。結婚の努力せよ!』と!」




 いや……それは明らかに貴方の願望だろう……。

 一介の女神様が、貴方個人の婚活に、ワザワザ神託を出すのは絶対ありえない件。


 取り敢えずその日は、彼女の屋敷へ招かれ、使わせてもらえる土地の場所の件や、従者として共に通う学園の件も含め、詳しい説明を受けた後、契約を交わして一旦拠点に戻る事になった。


 土地の説明を受けた時、予想外にこちらにとっては都合の良い場所だと判明したのだが……




 彼女からの『どんなピンチに陥っても、見捨てないで駆けつけてくれる』という契約に関してだけは!

 後々の私にとって、散々なトラブルの元になるとは、この時点でまったく気付かなかった。


 これまでと同じように……。

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