第五十一話 「復讐のメロドラマ②」
絹を裂くような悲鳴……
とは言い難いが、ドゥームメタルかデスメタルの如く、サイケデリックな悲鳴であった事には間違いない。
怨霊の如き、何か黒いものを纏わり付かせた神官さん、こと『ベルナルダ』さんが、ブツブツと何やら唱えながら、私達の近くにやって来た。
「……何故です……何故私とは結婚してくれなくて……そこの若くてピチピチの、おまけに権力もある貴族令嬢なら結婚を承諾してくれるんですか……ブツブツ……。」
なんか闇落ちしそうになってるー!!
「ご、沙蚕です!違った誤解ですよ神官さん!!
そもそも私、未だ結婚する気なんてサラサラありません!!」
「……そ、そうなんですか……?」
「そ、そうです!
同じアラサー……いやアラフォーだったかな?同士、養老院つくって同じ養老院入るのを目指しましょう!!」
「……そ、そうですね……こうなれば同じ養老院目指して……
って、わたしゃまだギリギリアラサーじゃないです!!」
違ってるのか……
相当焦ってるようだからてっきり……。
「だいたいアラサーとかアラフォーだなんて!
スターリング様どう見ても十二~十三歳ぐらいにしか見えないじゃないですか!?」
「それは以前に、『エルフの血を継いでいる』から仕方ないって言ってたでしょ?
このとおり、耳のサキッチョだけですけど、立派に尖ってますし……。」
「……ううう……なんて羨ましい……
最近は私、心労が多いせいかお化粧のノリも悪くて困っているというのに……」
神官さん、化粧してたんだ……。
神に仕える身って質素清廉潔白を旨としなきゃダメなんじゃないのか?
「信者を繋ぎ止めるっていろいろな努力が大変なんですよ~。
ウッウッウッ(涙)」
なんか話聞いてて痛ましくなってきた……。
「……と、とにかく私とアルドンサさんが結婚するなんて事は無くて「あら?結婚してくれるんじゃないんですか?」」
話をややこしくしないで欲しい……
「そもそも、アルドンサさんは、さっきの第二王子とかいう奴のプロポーズを承けたく無くて、私を利用しただけでしょ?」
「いや~半分本気も混じってたんだけどね?」
「余計に悪い!」
「そうだよね~。
なにしろ、スターリングさんの好みって『コンチェッタ』叔母さんだもんね~。」
ここで余計な茶々を入れないでくれリットルちゃん。
なんか今、二人の目が若干険しくなったぞ!!
「……あの年を取らないロリ年増の獣人錬金屋か……。」
「……今度私の精神的慰謝料含めて、お店に喜捨を要求しに行こうかしら……ブツブツ。」
マズイ、このままでは、タダでさえ多い彼女の店への嫌がらせが、更も増える事になる!!
当然ながらその分、あの『プッ』の被害者が……。
仕方ない……。
こうなれば、私が泥を被って話を収めるしかないのか……。
「いや、皆さん誤解なさっていますよ。
そもそも私、実は女性には興味ありませんし……
実は私……男が趣味なんですよ……。」
「「「「えええええええええええ!?」」」」
嗚呼、この場を誤魔化す為とはいえ、なんつー嘘を……
というか、そこで何故フロレンティナ……
お前までもが、なぜ黄色い悲鳴を上げてる?
「そ、そうだったんですかスターリング様!?
もしかして、あのさっき居た第二王子とかが好みだったとか!?」
お前が本気にしてどーするフロレンティナ……
腹芸というのが出来んのかお前は……?
「いや、私はああいう如何にも俺様イケメンって感じのはどうも……
どちらかと言えば渋いオジサマ系の方が……
何しろ私もオジン軍派だし好物の魚もおじさんだし……」
「判ってくれますか!?
スターリング様もオジン派だったんですね!!
私もノイエン・バッター様なんか大好きなんですよー」
お前もオジン派かよ!
こいつもそのうち、三年程地下に引き篭もったり、長距離砲戦用オントスを作れとか言い出したりしそうだな。
注意して見張っておかないと……
というかそういう意味じゃない!!
おまけに、他の二人は「誰だそれ?」って顔してるし!
本気にして他の精霊達にまで噂広めないように、あとで言って聞かせないと……。
「……とにかく、要件は済みましたよね!?
私は未だコンチェッタさんのとこへ相談があるんでコレで!!」
渋るフロレンティナを引っ張り、再びコンチェッタさんの錬金屋へ走って逃げた。
コンチェッタさんの店へ再びたどり着いた私は、正直精神的疲労でもうダウン寸前だ。
たどり着いた私達にお茶を勧めながら、私のただならぬ様子に。
「いったい何があったんですか?」
とコンチェッタさんは聞いて来た。
その問いに対して私は先程までの出来事を、出来るだけ正確に答えた。
あと、ついでにコンチェッタさんに迷惑が掛からぬよう、同性愛者を装った件も……。
「ええ!?
スターリング様、あの『男が好き』って件、嘘だったんですか!?
特に『オジサマが趣味』って件も!?」
フロレンティナは、何やら残念そうな顔をしてるし……
いったいお前は私に何を期待していたんだ?
「当たり前だろう……
というか、本来あの場で援護くらいして欲しかったのだが……
例えば『実は私が彼の婚約者です』と言い切るくらいな……」
「いや~無理ですよ。
そんな事言ったらあの神官から出てた黒い霧に侵食されちゃいますって。」
精霊すら怖がる神官さんから出てた黒いナニかって……
なんつーもの出すようになってきたんだ?
あの神官さん……。
「それに私とスターリング様って、結構顔が似てますからねぇ。
ソレ言っても、『嘘つけお前ら実は姉弟だろう』とか思われる程度で、最初っから信用されないと思いますよ?」
そうだった……
今の私とフロレンティナの身体は同じ遺伝情報を、半分以上共有してるしな。
遺伝的に言えば、フロレンティナは私の母親で、私はその息子って感じか?
「まぁその件は置いとこう。
それより相談なんですが、詳しい事は話せませんが、そのうち私達の仲間が百人程増える予定になっているんですよ。
そこで、それらを食わせる為に大規模な農場とか作りたいんですが、出来れば税金をあんまり取られたく無いんです。
なんか方法ありませんかねぇ?」
「なるほど、そうなんですか……。
魔の領域のど真ん中に作れば絶対税金取られないでしょうけど、それは非現実的ですものねぇ。
だからといって中間点辺りに作っちゃうと、王国側から王軍が駐屯する拠点として接収されかねないですし、運良く接収されずに済んでも税の免除が五年間ってとこが限界じゃないですか?
それでも、いずれはどっかの貴族が領主として派遣されてくるでしょうし、その領主も税の免除の約束なんて守ってくれるかどうか……。
どうしたものか……」
やはりコンチェッタさんでも難しい案件か……
「食料、特に米が手に入るなら輸入でも良いんですけど、貿易する場合向こうで換金するのに良いようなものとかがアレばいいんですが、何か心当たりはありませんか?」
「米ですか?
それ南方での穀物ですよね?
あちらのほうだと思いつくのは、織物くらいですかねぇ。
金や銀はむしろ向こうの方が特産ですし、正直ちょっと思いつかないですねぇ
暑い地方多いですから、毛皮とかも売れないですし……。」
やはり難しいか……
何かいい方法は無いものだろうか……?
どちらも難しいか?
と諦めかけたその時。
「「話は聞かせて貰ったわ!!」」
と店の扉を開き、よりによって、アルドンサさんとベルナルダさんの二人が駆け込んできた!!
お前ら絶対盗み聞きしてただろう?
扉のサッシュの形に、ふたりとも頬に赤く痕が残ってるんだが……




