第五十話 「復讐のメロドラマ①」
やっと落ち着いて美人のコンチェッタさんと話が出来ると喜んでいたというのに、その姪っ子リットルちゃんに引き摺られ、連れて行かれた先は、街中央の広場。
そこには、この街に向かう途中で第一種接近遭遇したUFO……(古い!)
などでは無く、飛行船が鎮座していた。
なにやら、その飛行船の周りには楽器のホルンを持った人物と、上半身裸のマッチョな人が数人、なにやらハァハァゼィゼイと息を荒げている。
あまり視たくはない、美しくない光景だ。
そしてその中心に、なにやら金ピカというか、銀色の甲冑に身を包み、背が高い如何にもイケメン集団が、一人の人物を護衛するかのように、並んでいた。
なにやら嫌な予感がしてならない……。
そしてその前には、自称『悪役令嬢』を名乗る、この辺りを預かる領主の令嬢『アルドンサ』さんが、彼らと対峙しているのだ。
これはマズイ現場に遭遇してしまったぁ!
速攻で逃げたいところだが、よりによってそこまで引き摺って来たリットルちゃんは、その場にいたアルドンサさんに大声で。
「スターリング様がいらっしゃいましたよー!!」
と大声で告げてくれるから、逃げる機会を無くしてしまった!?
アルドンサさんは私の方に振り向き。
「嗚呼!!スターリング様!
私の為に来て下さったのですね!?」
とか言い出すからワケが判らない。
いや、お前がリットルちゃんに引き摺らせて来させたんだろう!!
そしてアルドンサさんは再びイケメン達に顔を向けると。
「丁度私の婚約者も来たところです。
見ての通り、私には既に心に決めた人がおりますので、貴方からのプロポーズはお受け出来ません。
なんといっても、私と彼は既に深い仲にあるのですから。」
「「なんだってぇええええええ!!」」
思わずイケメン集団の中心にいる人物と声がハモってしまった。
「あ、あの、いったい何が?「もう、彼ったら私の事を二度に渡り、死の運命から救って下さったのですよ!
勿論、父上も彼の事を認めています。
ですからこの縁談、申し訳ありませんがお断りさせていただきますわ。」」
私に何も喋らせないよう、声を重ねて封殺してくる……
いったい何なのこの状況!?
どうやらイケメン集団の真ん中で護衛されてる背の高い金髪イケメンが、アルドンサさんに婚約だか結婚を迫っているというのは判った。
だがここでの私の立場は!?
「だ、だがその者は『女』ではないか!!
さすがに王国の法では女同士の結婚は認められていないぞ!!」
と私の胸を赤い顔で指差し言ってくる金髪イケメン。
またこのセリフを言わなければならないのか……。
「ご指摘ありがとう御座いますが、申し訳ありませんが私は男です。
あと言いたそうにしているので先に申しますが、この胸は大胸筋です。
鍛えてますから。」
周りからは気の所為か、「んなワケねぇだろ!!」と無言のツッコミが突き刺さっている気もするが、もうこれで押し通るしかない。
だって、心は男なんだもん!!
「そ、そんなバカな!?
こんな可愛い娘が、男でなんてある筈が無い!!」
なんか気の所為か、コチラを顔を逸しながらも横目で見てくるイケメンの顔が、真っ赤に染まって来てイヤな予感しまくりなんだが……。
「それに彼とは、今度通う事になる王立インスパイラル学園に、従者として共に通ってくれる予定となっております。
それも勿論、父上公認です!」
「「そ、そんなバカなぁあああ!!」」
またもイケメンと声がハモってしまった……。
その件は保留だと言っておいた筈なんだが……?
「彼ったら物凄く強くて、私の護衛にピッタリだと父も気に入って……」
ちょっと待て、私はお前の父君なんぞに、一度も会った事が無い件。
勝手にそんな事を決めていいのか!?
「決闘だぁあああああ!!」
「はいぃいいいい!?」
金髪イケメンが切れた。
「この女性……違った男がお前の言うようにそんなに強いなら、この決闘受けられる筈だ!!
どうだ!?」
「あの~私の意思……「勿論ですわ!でも大丈夫ですか?彼、地竜を単独で倒す程の人物ですよ?」」
またも私の言論は封殺された……。
それ以前に私はそれ程強くないんだが……。
そりゃいろいろチート武器持ってるけど、そんなもの使えば相手を肉片レベルで粉々にしてしまう。
「大丈夫だ!
それならばコチラも代表を立てる!
我が方の筆頭騎士の『ボリバル』が相手だ!!」
なにやら代表に立てられた騎士さんが、「えっ!俺ですか!?」みたいな顔をしてビックリしている。
如何にも実直という顔をしているが、上の人にムチャを押し付けられるタイプの顔だな。
チョット可哀想に思えてきた……
ちなみにボリバルという名前は、コチラの地方では『粉挽き器』の意味もあるので、名前の通り『身を粉に』働かせられてそうで、その事も含めて気の毒だ。
「その決闘チョット待った嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼!!」
甲冑……とういかオントス姿のフロレンティナさんが、意義を申し立ててきた!!
こんな時はフロレンティナさんが、女神に視える!!
「そちらだけ一方的に代役を立てるというのは卑怯千万!
よってコチラも代役を立てさせていただきます!!」
「「なにぃいいいいいいー!?」」
またも金髪イケメンと声がハモってしまった……
というか普通は此処で決闘を止めてくれるんじゃないの!?
「というワケで代役として私が決闘に応じます!!」
ちょっといきなり何言い出すの!?
というか精霊+オントスの組み合わせに人間が勝てるワケないじゃないの!
お前実は暴れたいだけだろ!?
「ほう~いい度胸だ、さぞかしの美丈夫なのだろう。
判ったその決闘承けたまわったぞ!!」
いや……決闘言ってきたのはアンタなんだけど……
いつからコチラが決闘仕掛けて来た事になったの!?
「それなら行きます!
『大地の怒り』!」
え?
相手の金髪イケメンが承知といった0.5秒後には、相手を中心に地面から大量の土の柱が突き出し、決闘相手どころか周りに居た騎士を含めて五メートルくらい吹っ飛ばした……。
勿論、巻き込まれた周りの人達の被害も甚大だ。
というかコレって不意打ちっていうのでは?
金髪イケメンも巻き込まれて吹っ飛ばされてるし……。
「ハッハッハッハッ!
たかが人間風情が!
他愛もない!!
この決闘、スターリング様親衛隊、一番隊長『フロレンティナ』が制したりぃいいいいい!!」
また調子にのっている……
それから今のお前の名前は『マリアネラ』だっつーの。
「『マリアネラ』……あのさ……?」
「え……マリアネラ?
嗚呼!!
そうだった、この決闘『マリアネラ』が制したりぃいいいいい!!」
またこのパターンか……
仮想世界では『おっとり系』の優しい『お姉さん』なのに、外へ出るとどうしてこう性格が豹変するのか……?
やっぱオントスって、精霊達にとってはヤバいクスリ代わりになるのかなぁ……?
「ひ、卑怯だぞ……!!」
「卑怯ではない!
ちゃんとそっちが了承してから襲いかかったでしょ?」
「それにしても無詠唱であんな強力な土魔法だなんて……」
そりゃ当たり前だ。
いちいち詠唱が必要になる人族の魔法とはモノが違う。
大地の精霊が直接地面動かしてるんだから、レベルが違うのだ。
「だいたい、そんな全身甲冑なんぞしてるから、騎士と間違えたのだ。
魔道士なら魔道士と最初から言え!
卑怯だぞ!!」
「あらそう?
それはごめんなさい。
それじゃ脱ぐからもう一度やる?」
そう言ってフロレンティナはオントスを『脱ぎ始めた』
「え?」
中から出てきたのはスレンダーな年若いエルフの美女だ。
周りで見ていた人達は皆、息をするのも忘れてビックリしている……。
「これで良いかしら?
それじゃ始めるわよ?」
「え?」
そう言ったとたん、彼女はやっとの思いで立ち上がったばかりの『ボリバル』さん(騎士、不幸体質持ち)に、目にも留まらぬ速さで近付きアッパーカットで吹っ飛ばした。
しかも……一発では無く、強化された私の目でやっと追える速度で九十九HITコンボで……
あれは卑怯だ……。
普通の人には単なるアッパーカットに視えるかもしれないが、実は最初に相手のエリを掴み、胸に肘打ちを食らわせ、そのままエリから手を離した腕で相手の喉を叩き、腕だけじゃなくその隙にヘッドバッドを胸に叩き込み、その他エトセトラエトセトラで……
最終的にはアッパーカットだけじゃなく、肩でショルダータックルを仕掛けて、反対側の腕で胃の辺りに肘打ちまで仕掛けてる……。
これは虐殺だろう……。
目の前で一瞬のうちにボロボロにされ、倒れた『ボリバル』さんの姿を見て、金髪イケメンは「ボリバルー!!」と悲痛な声で泣き出すし……これはいくらなんでもやりすぎだ……。
「『マリアネラ』……やりすぎ。
癒やしてやって……。」
と私もさすがに声を上げた。
「あはぁ?
やっぱし?
てへ。」
今更だが相手に癒やしの魔法を掛け始めた。
明らかにマッチポンプだが、何もしないよりはマシだろう。
一部にはフロレンティナに癒やされる姿を見て、「替わりたい」などとのたまう騎士まで出る始末。
おいおい、彼女に幻想持つのは良いが、そのボロボロになってる奴にとっての加害者でもある件。
しかしあらためてみて、実は彼女って存在自体がチートだな。
土魔法を使えば天変地異を起こせるレベルだし、格闘すればオントスが不必要レベル。
相手のしてた鎧なんか、胸甲なんかボコボコになっている。
これじゃ鎧の意味なんか無いだろ……。
それでいて癒やしの魔法も超一級!
ボコボコにされて顔の人相すら判らなくなった『ボリバル』さんの顔の腫れがあっという間にひいていった。
金髪イケメンは仲間達を集め、「コレで勝ったと思うなよ!!」と定番のセリフを言い放ち、飛行船に乗り込んだ。
やがて飛行船の中からホルンの音が響きだし、その音に合わせてゴンドラから突き出た胸ビレが、船の櫂のように動き出した。
そうか……
あのホルンは、あのヒレを動かす人々の為に、音頭をとるためのものだったのか!?
と、改めて船の周りに居た、ホルン奏者とマッチョの関係性に気付いて驚いた!
つまりあの飛行船は、半分人力で動いていたのである。
ガレー船真っ青だ。
ガレー船は漕ぎての奴隷は鎖で繋がれ、船が沈むときは皆、運命を強制的に共にさせられたと聞くが、こちらは鎖など無くても、落ちたら皆ペシャンコである。
果たしてどちらがマシなのか……?
やがて気嚢に充分な温かい空気が入ったのか、ゆっくりと上昇していく。
しかし……
今回の事態はなんだったのだろうか?
話がまったく私を置き去りにして、意味不明なんだが……?
取り敢えず、アルドンサさんに聞いてみる。
「で、今回の件……。
いったいどーなっているんですか?」
「いや~大した事じゃないのよ。
とうとう、あの王家の第二王子が私に婚約を求めて来たってワケ。」
え……?
「ちょっとまて……
それじゃそれってアンタが言うシナリオ通りになったって事じゃん!?
なんで断るの!!」
「……じ、事情が変わったからよ。」
「事情?」
「どうも王国も本格的に懐が厳しくなって来たらしいのよ。
それで多少は未だ金持ってそうな私のところへ、第二王子を降婿させその見返りに王国側へ資金援助させようって腹なのよ。」
なんだそりゃ?
というか、そんななりふり構ってられない程、国が傾いているって事か?
「そうなると没落対策として私が溜め込んだ、平民落ちの対策費用まで発見されて、取り上げられる可能性出てきたのよ。
そうなったら好きでもないあの『第二王子』と一緒に、没落して貧乏農場一直線よ!?」
貧乏農場って……人生ゲームかよ?
「あくまでも私は、悪役令嬢として学園から追放されて、平民落ちした後に成り上がる予定なのに、逆に今頃になって婚約を求めてきて……しかも王位継承権が無くなる降婿として!
それで、婚約破棄されずそのまま居座られたら、それこそ最悪の身の破滅だわ!?」
そんな状況だったのか……。
「でも良いのか?
親御さんの意見も聞かずに勝手に断っちゃって……
後から国の方から何か言ってくるんじゃないのか?」
「その件なら大丈夫。
私、前世の知識のお陰で、父からは神童って見られてたから、私のやることには無条件で賛同してくれるからね。
勿論今回の事も、我が家が存続するうえで大切な事だと予め説明してあるの。
場合によっては貴族じゃなくなる可能性も有ること説明してあるし、それに大事なのは家族の幸せでしょ?」
ごもっともだ。
「それに、私は既に『スターリング』という婚約者に、『傷物にされてる』と噂流してるからね。
さすがに王家も、傷物の元へ無理には第二王子を降婿なんてさせようとはしないでしょ?
世間体もあるし。」
「おい!?
それって私の立場は……?」
「いいじゃないそれくらい協力してよ?
同じ日本人なんだから。」
はぁ……なんつーこったい。
「だけど、貴族と平民じゃ結婚は無理なんじゃなかったのか?」
「別に無理じゃないわよ?
殆どの貴族は、自らの家の権力上げる為に家と家の結びつき強める為に、貴族同士の結婚に固執するだけで、平民が貴族に嫁ぐのは法律でも禁じられてないし……。」
「ちょっとまて?
それは貴族に嫁ぐ場合でしょ?
私は男であって嫁ぐ方では無いんだが……。」
「その点は大丈夫、婿養子もおんなじ扱いだから!」
「だからなぜ私が貴方の元へ婿になる前提で……「ええええええええええええ!」」
隣から悲鳴が聞こえた。
そしてその悲鳴の主は……
ミナゴロシ……ちがったミーナ・ゴローズ教の神官
『ベルナルダ』さんだった……。




