第四十九話 「或る夜食の出来事④」
ホドミンの街を目指し未だ朝露の残る街道を、坂本のQさんでは無いが上を向いて歩いていたら、頭の上にUFOが飛んでいた。
「ええ!!
あれ!?
あれは!?」
私が興奮のあまり指差し、お供のフロレンティナさんに伝えると、冷静に。
「あら?
珍しいですね。
こんなところへ飛行船が飛んでくるなんて。
王都からですかねぇ?」
飛行船?
フロレンティナさんの指摘を聴き、あらためてよく見直してみると。
どうやらその通りの飛行船らしい。
ただ、私が居た元の世界にあった飛行船が、殆どが葉巻型をしていたのと違い、どちらかと言えばパンケーキに近い形状をしていた。
気嚢と思わる部分は数箇所から、炎みたいのを吹き込んでいるのが視えるので、どうやらヘリウムや水素を使うガス式ではなく、熱気球の一種らしい。
おまけにゴンドラ部分から魚の胸ビレのようなものが突き出し、それがねじれるように上下しているところから、それが前進する力と揚力の一部を受け持っているようだ。
は~。
ファンタジーだな~。
と思わず感心してしまった。
気嚢に吊り下げられてるゴンドラの構造からみて、半硬式飛行船の一種らしいのだが、ちょっとこの世界の科学水準から考えると進みすぎている気がする。
そのことを踏まえ、フロレンティナさんに聞いてみると、なんでも王家が所有している過去の遺物だそうで、もし完全に壊れるような事があれば、二度と作れるものでは無いそうだ。
つまりオーパーツというヤツで、現在も王家の力を誇示する為に、コツコツと補修しながら使っているらしい。
ちょっと驚きだ。。
しかし正直、よくあんなモノに乗れるものである。
そんな謎なシロモノ、それに過去の遺物という時点で、それなりに経年劣化も進んでいるだろう。
私だったら怖くて乗れない。
ちゃんと人数分、非常用のパラシュートとか積んでいるんだろうか?
どうやらその船は、曲がりくねっている街道に沿ってではなく、真南へそのままホドミンの街へ向っているようにも視える。
面白いものを見させて貰ったと感動しながら、ノンビリと徒歩で二日程掛けて、ホドミンの街へ向かう事になったのだが……。
途中驚くべき事がもう一つ起きた。
道中、『フロレンティナ』さんが、「お腹が空いた!」「疲れた!」「暑い!」とか言い出し、なんとオントスを脱いでみせたのだ!!
えっ!?
そう、いつの間にかフロレンティナさんは、『生身の身体』を持っていたのだ!!
話を聞くと、ソーフォニカは私の警護をする予定の精霊で、冒険者証を持つものは、優先的に生身の身体を作る事に決めたらしい。
特にフロレンティナは、私が思考巨人の拠点に流れ着いた時に背中に抱えていたエルフの兵士、『マリアネラ』さんの身分証を使い、成り済ましている。
そこでソーフォニカは、マリアネラさんの細胞で造った卵子をベースに、化学的な刺激を与える事によりあたかも受精したように卵母細胞化させ、マリアネラさんの半クローン的なホムンクルスを造り上げたのだ。
そしてフロレンティナさんが、今現在その身体を、使っている。
これはかなりヤバい案件だ!
子供どころか当人のクローンとは……
女神になって戻ってきたら、天罰待ったなし!?
もしあの『霊界通信機』がホントにあの世に繋がっているなら、あれを使って通話器ごしに土下座して謝罪し、なんとか許しを乞いたいとこである。
ならば今まで着ていた外見である、『オントスα H型』は?
というと、これまたソーフォニカが改造したという、パワードスーツだという。
言われてみれば、腰回りとか私が造ったものよりも、形状が変わっている。
ただ、中に当人が入る事になった為、余剰スペースが無くなりその分、搭載していた魔導タービンの数が半減し、更にフライホイール蓄電システムもオミットされてしまっている。
ただ、フライホイールが無くとも、立って歩くときのバランスは、内部の人の感覚に依存出来るし、魔導タービンが減って出力が落ちても、精霊達自身の身体強化魔法も使える為、それ程不自由では無いそうな。
問題らしい問題といえば、やはり所詮は甲冑なので中が蒸すという事なので、そのへんは今度熱放出用のファンを取り付ける事を考えようと思っている。
そんなワケで、いつものように軽やかにピョンピョン飛び跳ねたりはあまりせず、三十分歩いては「疲れた!」と言ってはオントスを脱ぎ、いつの間にか気が付くとオヤツ代わりに干し肉を彼女は齧ってる。
精霊が肉体を持った場合の、予想外の弊害である。
おまけに夜になると、私が以前ハンモックを使っていた事を思い出し、「前と違ってオントス脱げば問題無いんだから、それで寝かせろ。」とか言い出した。
それでは「私が寝るところが無い」事を告げると、「二人分の体重くらいなら大丈夫」とか言い出して、強引に私のハンモックへ昇ってきた。
おいおい……「見張りとかは良いのか?」と聞いたが、「何か危険があれば、そこらを漂っている精霊が教えてくれるから無問題」とか言い出して、聞く耳を持たず、私は彼女に後ろから抱き留められる形で寝る事になった。
これはさすがにドキドキものである。
いくら、現在の身体は女のモノになっているからとはいえ、やはり前世から男だった時の記憶は誤魔化せない。
逃げようにも、寝ぼけた彼女の腕に、ガッチリとホールドされてしまっているので、気恥ずかしさも手伝って、まともに眠れそうにない。
後ろから女性特有の良い匂いもしてくるし、今この身体が女性である事が、こんなに怨めしいと思った事は無い!(オイオイ。)
そんな珍道中を続けながらも、相変わらずの定番のように現れた盗賊を、雷で痺れさせて放置したりしながら、ホドミンの街へやって来た。
門番さんは、オントスから頭を出した『フロレンティナ』さんの顔を見た時。
「前来た時より気のせいか顔が若くなってないかい!?」とややビックリしていた。
すいません、前見せた時のは人形(製作は私。)だったんです。
まことにすいません……。
門を抜けると、そのまんまコンチェッタさんの店へ向かう事にした。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
錬金屋にたどり着き、いつものごとく扉の呼び鈴を鳴らしたら、またもコンチェッタさんが顔を見せたと思ったら、即!扉を閉められた。
今度はどんな理由だろう……?
「コンチェッタさ~ん。
私です。
スターリングですよ。」
いつものように、再び扉が開いてコンチェッタさんが顔をみせてくれた。
「す、すいませんスターリングさん。
最近この周辺に『えぬえちけー』を名乗る男が、『じゅしんりょうを払え!』とか『てれびがなくてもけいたいもっていたら払わなきゃいけないんだぞ!』とかワケの判らない事を言って、金品をせびるという事例が続出しておりまして……。
てっきり……」
『えぬえちけー』に『じゅしんりょう』だって!?
そいつも元の世界から来た召喚者か?
それとも転生者か!?
……というか周りみれば『TV』が存在するような文明が、欠片すら無さそうな事に気付けよ!!
衛星どころかUHFアンテナ一つ立ってないだろ!!
まぁ……この家だけは、夜間になればラジオだけなら放送受信出来る設備はあるけどな。
名称は『霊界通信機』だけどな!!
「ソイツらは国民を洗脳しようと企む悪の組織です。
私が元居た国でも、彼らの手から皆を救おうと元老院に立ち上がる人がやっと出始めたところです。
彼らの言うことを信じちゃいけませんよ。
現れたらいつものように、『プッ』してあげればよいのです。
そうすればまた、何処かの誰かがまた身ぐるみ剥いでどこかへ捨ててきてくれますよ。」
なにしろ私は召喚される前は『エム国党』に一票入れてきたくらいだからな。
東京駅地下のショップで関連グッズで売って大儲けしておきながら、視聴してない人間からも金をせびるようなヤクザより酷い連中に、情けを掛ける程私は人が良く無いのだ!!
キル!!ケイオス!! キル!!エヌケチエー!!
「そ、そんな恐ろしい連中だったんですか……
わ、判りました。
今度連中と遭遇したら、迷わず『プッ』する事にします。
クスリの量は致死量ギリギリでいいのかな?
ブツブツブツ……」
うん、これで早晩『アク』は滅びる事になるだろう。
アクは速攻でスクい、良くイタめる事が大切だ。
料理の基本でもある!
「そう言えばスターリングさん、今回は何を?」
「あっ、そうでした。
話は逸れましたが実は相談にのって頂きたくて。」
「ええ、私程度で宜しければ。」
「じつはですね「大変大変たいへんたいだよー!!」」
ガラーンという店の扉を乱暴に開ける音と同時に、私の声に被せるように声を掛けてきたのは、店の主人の姪っ娘、猫獣人の『リットル』さんだ。
「どうしたの?何がおきたの?」
「それが……あー!!
肝心のスターリングさん来てるじゃない!?」
私の姿に気付くと、彼女はいきなり私の腕を掴み、「とにかく大変なんだよー!」と叫び、コンチェッタさんを後目に、そのまま引っ張って行こうとする。
当然の事ながらフロレンティナも、引き摺られる私にくっついて来る。
やれやれ……今度はどんな騒動が待っているのか?
運命の神(居ればだが)とやらは、どうやら私に平穏な生活とやらを、与えてくれないらしい。
賽銭ケチったのが悪かったかなぁ?




