第四十二話 「鎖の国⑩」
私達の活動は、ダンミアの村付近を通る街道から、商人の馬車を捕獲する事から始まった。
夜中に商人の馬車が通りかかる度、木の上からオントスαのGB型を突入させ、護衛もととも一気に無力化するというやり方だ。
今も私の目の前で、商人の馬車がオントスに突入され、停車している。
顔を隠して私と『フィデリア』さんも、停車した馬車に上がり込む。
「荷はお渡しします。
命ばかりはお助け……」
蒼い顔をした商人がブルブル震えながら答えている。
護衛は二人付いていたようだが、二人ともオントスに首筋に武器を突きつけられ、動けない状態にされてる。
「荷主の商人はお前だな?
この馬車に積んでる物資はいくら分の価値がある?」
「……は、はい。
ざっと銀貨で四枚と金貨で五枚くらいかと……」
「売ったらどれくらいの儲けになるんだ?」
「よ、四掛けとして……銀貨で六枚くらいの儲けになるかと……」
「ならとっとけ!
迷惑料だ。」
財布から銀貨を十二枚取り出し、荷主に握らせる。
「そのかわり、お前達にはチョットした協力をしてもらう。
なに、たいした事じゃない。
俺達と一緒にいつもどおり、街道を通って街へ向かうだけだ。
そこの護衛の皆さんも一緒にな。」
「どういう事?」
護衛に雇われてた女の軽戦士らしいのが聞いてくる。
もう一人の護衛は、やはり女の魔道士らしい。
「そして途中で何があっても、そこで視た事を誰にも話さないことだ。
そうすればお前達も、ギルドに付けば無事依頼達成となり金も貰える。
どうだ?
いい話しだろう?
もちろん、そこの商人もだぞ!」
「……判った……。」
よし、これで協力してくれる馬車は三台目っと。
こうやって私の誠意溢れる説得により、集まっていただいたそれぞれの馬車に、完全武装のオントスα H型を三騎づつ、馬車の中に隠すように入れさせて貰った。
重量オーバーとなる荷物は、後をコッソリ追随しているオントスβの後部に預け、後で返却する事を約束してある。
「護衛はワザと外から姿を見せて、警戒してるように見せかけろ。
いつも通りを装え。
そして何か襲ってきたら、声を上げて合図しろ。」
「襲ってくるって何が?
貴方達の仲間じゃないの?」
疑問に思った先程の護衛の魔術師が聞いてくる。
「俺達が?
そんなカワイイ相手じゃないぞ?
聞いているだろう?
最近この街道で行方不明者が続出しているのを。」
「それって貴方達の仕業じゃ……?」
「残念ながら、俺達は逆にそれを釣り出す役目でな。
それ以上の事は俺達には話せん。
街へ着いたら俺達の事は忘れることだ。
『俺達は存在しない。』
判ったか?」
「……。」
私とフィデリアの二人は、そのまんま御者席に陣取り前方を監視する。
運が良ければ(悪ければ?)三台もの馬車という獲物を、奴らは舌舐めずりをしながら襲おうとする筈だ。
因みに私達が乗ってる馬車には、他にも『アドラ』と『ロレンサ』、そして『カミラ』の三人の精霊のオントスが、荷台に隠れて乗り込んでいる。
「ねぇスタ……違った、書記長、お願いがあるんですが?」
後ろに隠れている『アドラ』が声を掛けてきた。
というか……とうとう私の役職が『書記長』にまで進化してしまったか。
まぁ名を隠す為だから仕方ないけど……。
「なんだ?
私で叶えれる程度ならいいけど?」
「今度私専用のオントスを作ってくださいよ。
名前も『リック・オントス』とか付けて。」
思わず私はぶっこけた。
というかそこまで洗脳されてるのか!?
「おいおい、名前に『リック』が付くのは宇宙用だぞ?
お前ら宇宙にまで進出でもする気なのか!?」
「知ってますよ!
宇宙って高さが地上から百キロ以上のとこでしょ?
そこまで進出する気なんて、さすがスタ……違った書記長様です!」
話を聞いた『カミラ』が私を称えてくれるが、そういった問題じゃないっつーに。
「だって『カミラ』ったら自分の機体にいろいろ改造しまくって、名前も勝手に『オントスα Mk-Ⅱ』なんて付けてるんですよ!」
え?
『オントスα Mk-Ⅱ』
私もまだ、そんな機体は造って無いんだが……?
あらためてよく見ると『カミラ』のオントスαは通常のオントスよりマッシブなシルエットに改造されてる?
頭部カメラセンサーも、四つ目でも一つ目でもなく二つ目だ……。
コイツはオジン軍派じゃなく、反地球連合派閥のウェーゴ派だったか!?
「それだったら私のMk-Ⅱにも空飛べるオプション付けて下さいよ!」
「おいおい、それは大気圏突入装備だろ!?
お前らの敵は、わざわざ大気圏の外から降下してくるのか!?
そこまでオントスの稼働領域広げてどーする!?」
頭が痛くなってきた……。
一緒に乗ってる商人や護衛達は、話についていけず目をパチクリさせてるし……。
こいつらはそのうち『変形して大気圏突入出来るようにしろ』とか言い出すんじゃなかろうか?
そもそも高度百キロ以上まで、オントスを打ち出すような方法、未だ考えてもいないんだが……。
……でも、オプション使ってオントスを空へ飛ばすというのは、良いアイデアかもしれない。
将来的にはワイバーンや竜といった、空を活動領域とする魔獣と戦う事は、無いとは言い切れないしな。
「前方!
道が塞がれてます!!」
目が良い、フィデリアさんがいち早く異常に気付き、警戒を呼びかけてくれる。
前方の道が倒された二本の巨木に塞がれ、進めなくなっていたのだ。
護衛の軽戦士と魔道士が、「いつのまにか周りを囲まれています!」と驚いている。
周りを視ると、大小の人型をした影が取り囲んでいる。
ゴブリンにホブゴブリン、オークにオーガにトロールといったところか?
魔道士らしい格好をしたゴブリンらしき姿も視える。
数は七~八十匹は居るだろう。
「そ、そんな……これじゃ勝ち目が……」
護衛の軽戦士さんが絶望の目をしてる。
捕まった後に女の身の上である自分が、どうなるか想像し恐怖しているのだろう。
しかし!
こっちにとっては見事罠に引っ掛かってくれた!!
「照明弾!!」
「はい!!」
私の声に応えてフィデリアさんが、照明弾発射機を上に構えて打ち上げる!!
ドン!
打ち上げられた火の玉は、そのまんまゆらりゆらりと揺れながら、辺りを強烈な光で照らしながら、ゆっくりと落ちてくる。
「いまだ!!
攻撃開始!!」
ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!
私の合図と共に、それぞれの馬車に隠れていたオントスが姿を現し、周りに集う魔物の姿に向けて撃ちまくる!
こちらを絶好の獲物と伺ってた魔物達は、近寄る間もなく『重機関銃』の火線による洗礼を受けた。
油断し身を晒していた魔物達は、バタバタと身体に穴をあけ倒れていく。
身体が岩のごとく頑丈なトロールが、強引に前進してこようとするが、プシャーという音とともに、二台目の馬車から飛んできた、銀色の塊が胸に突き刺さり爆発した。
トロールは下半身を残して、肉片を撒き散らし吹っ飛んだ!!
どうやら二台目の馬車に乗り込んでいた、紅いオントスを駆る精霊が、軽ロケット弾を放ったらしい。
たしか『紅い稲光』を自称する精霊『ハデ』さんのオントスだ。
彼女が使っている軽ロケットは、発射時の後方噴射で後ろに損害を与えないように、弾体は高圧の炭酸ガスと水による噴射で飛んでいく仕掛けになっている。
いうなればペットボトルロケットと一緒だ。
これならば、後方噴射を食らっても水なので濡れるだけですむ。
弾体の材質が薄肉のマグネシウム合金製で、弾頭の構造が以前造った私製PIAT対戦車榴弾と同じく、魔法陣と魔石の粉の組み合わせなので、その軽量さゆえに使える武器だ。
敵の後方に居た魔術師の格好をしたゴブリンが、魔法を使おうとするのか、杖を振り上げようとするが、その前に頭が無くなった。
どうやら馬車の後ろからコッソリ付いて来たオントスβの、後部に陣取っている連中からの、『レールガン』による狙撃らしい。
これも、ソーフォニカが用意した新型武器で、重量わずか一グラムしかない弾頭を極超音速で発射するというトンデモ武器だ。
これだけの高速で発射される武器となると、弾丸を回転させなくても充分な精度を発揮するし、命中すれば盾なんてあってないようなものだ。
たとえ盾で防御しても、超音速で貫通する弾体の前では液状化現象により、その衝撃波で榴弾を食らったようにバラバラになってしまう。
欠点といえば、弾丸を加速する為の銃身が長くて重い事。
一発撃つごとに、コンデンサーへ電力のチャージが必要になるうえ、銃身保護の為に導電性のリキャブレーション剤を、銃身内部へ吹き込まねばならない事。
その為に、次弾発射までのタイムラグが大きい事。
そして反動も、当然ながら大きい事だ。
それ故に、人間には扱えるものじゃなく、オントス専用装備となってしまっているうえ、その発射速度の遅さから一発必中を要求される。
だが運用は難しいが、遠距離で硬い目標に対して精密狙撃が可能な、唯一の武器となっている。
そういった強力な武装を誇る、我ら囮部隊の強火力で、魔物たちはあっという間に数を減らしていく。
その中で一体のゴブリンが、逃げ腰になり後ろへ向かおうとしている。
「ネルスポットガン!!
あの逃げようとしている奴へ!」
「了解!」
フィデリアさんが太い銃身をもつ銃のような武器を構え、私が指示した逃げようとしているゴブリンに向けた。
ドン!
野球ボール程の大きさの球体が発射され、逃げようとしたゴブリンの背中に命中し破裂する。
ゴブリンはその衝撃で前のめりに一旦倒れるも、直ぐ起き上がりそのまま逃げ出した。
一番後方のオントスβの背中から、小柄な影を持つGB型のオントスαが飛び出し、ゴブリンの後を追った。
そして数分もしないうちに、辺りに立っていられる魔物は一匹も居なくなった。
「よし、カウントをとれ。
あと奴らの中で、偉そうにみえるのが何か持っていたら、回収!
その後、逃げた奴を追跡してくれてるオントスを追う。」
あとの指示を周りに下し、善意の協力者達にお礼を言う。
「ここまで協力して頂き、ありがとうございました。
あとはそのまま、街へ逃げるなりなんなりして下さい。」
「一体あの数の魔物達はなんなんだ……?
それに、それを苦もなく倒すあんた達は……?」
「言ったでしょ?
私達は、存在しないって。
貴方達は、確かにここで魔物に襲われはしたが、あくまでも雇った護衛の冒険者が奮戦してくれて、なんとか命拾いをした。
そういう事にして下さい。
なんなら証拠として、そこらに転がってる魔物の死体から、魔石をいくらか回収していけばいいでしょう?
ほら、そこの護衛の冒険者さん達?
今が稼ぎどきだぞ?
討伐証明でも素材でも、今なら剥ぎ取り放題だ。」
言われて気が付いた護衛の冒険者達が、慌てて魔物達の解体をやっている。
「さて、私らも逃げた奴を追い掛けますか?」
なにしろ、逃げたゴブリンの背中にはベッチャリと特殊な塗料が、地面にタレて痕を残すくらいにこびりついてる。
フィデリアさんが『ネルスポットガン』で撃ち込んでくれた、特殊な弾丸のお陰だ。
この武器は、CO2ガスでボールサイズのゼラチン製カプセルを弾丸として打ち出すモノで、カプセルの中身は紫外線があたると発光する、特殊な塗料が詰まっている。
あとは紫外線ライトを照らしながら、光る痕跡をたどっていけばいいわけだ。
取り敢えず幸先はいい。
私達は、今度はオントスβを中心とした隊形をとり、地面や草に付着した塗料の痕跡を追い始める。
さて、奴らは私達を見事根拠地まで『案内』してくれるだろうか?
『奴らの根拠地』という宝探しが、今始まったのだ。




