第四十一話 「鎖の国⑨」
ダンミアの村付近の森に、私達は集結した。
ソコロさん達偵察隊、そしてソーフォニカがよこした増援部隊、私達も含めて総勢四十八騎のオントスシリーズが、大集合したのだ。
更に生産が間に合ったのか?『オントスβ』が更に二機、増援部隊としてやって来ている。
他にも、現状の私専用機『オントスα OG型 試作機』も、持ってきて貰った。
人型唯一の重量級で、全高四メートル。
各種新型装備の試験台として使い込まれた機体だが、万が一を考え持ってきて貰ったのだ。
他のオントスが、精霊達が取り憑いて動かす事を前提にしているのに対し、この機体に関してだけは『操縦席』が組み込まれ、人が内部に乗り込んで操縦するのだ。
こちらへの輸送に関しては、デルフィナ達がゴブリンの巣を襲撃した時に救出された冒険者の一人、『フィデリア』さんの操縦で行われた。
彼女はゴブリンの巣に囚われていた中で、エルフでは唯一の生き残りで、我々に助けて貰った恩義もあり仲間に加わってくれたのだ。
特に今回の敵の中には、彼女と仲間にとっての敵であるゴブリンが含まれてるというので、復讐の念に燃えてる。
当初は復讐心に駆られて暴走するのでは?という懸念もあったが、重量級かつ複座でもあるOG型での参加が認められた。
つまりは私の相棒という事になる。
抑えられるのかな?……私。
しかし……
大中小合わせ四十八騎ものオントスが並んだ姿は壮観なのだが……
……何か違和感を感じる。
私が開発したオントスは当初、目としての役割を果たすカメラが二つ、装備されていた。
これは人間と同じで、二つの目から見る映像による立体感で、目標に対する測距的な機能を持たせる為であった。
ところが、実体として作られて、土木作業などに従事させてみると、現場の埃や砂塵でカメラのレンズが予想以上に汚れたり、傷つきやすいという欠点が指摘されたのだ。
そこで改良が加えられたオントスでは、カメラに洗浄液を噴射するノズルと、瞼にあたるシャッターが設けられ、更に埃の入ったレンズを洗浄中でも、周りを見る事が出来るよう、二つ分目の数が増やされた。
つまりは、四つの目を持つようになったのだ!
ところが!?
私の目の前に並んでるオントス達の中には、多数が1つ目に改造されていた……。
なんでだよ!?
しかも、その1つ目のに限って、派手な塗装や頭部に角が付けられてたりする……。
これってもしや!?
「なんかかなりの数のオントスが1つ目に改造されてるんですけど……。」
近くに居た、紅く塗装された1つ目のオントスを捕まえ、聞いてみた。
「はい。四つ目は作業用と考えれば確かに利点も多いのですが、カメラセンサーが小型になる為、暗い場所での集光度が落ちる分、視界が暗いとの指摘もありました。
また、測距はレーザー等の別センサーでやる為、もともと必要性が低いとの指摘もあり、思い切ってカメラセンサーの大型化に踏み切った結果、1つ目になったとの事です。
結果、集光度が高まった分、夜でも視界が明るくなり夜間行動がしやすくなるといった点や、高倍率で遠距離のモノが視る事が出来るようにり、監視能力も高まるという利点を生み、続々同じ改造機が増えているということです。」
「そうなのか……?」
「はい、そうです。」
「ジーク!!」
「オジン!!はっ!しまった!?」
やっぱりか……
こいつら、非道戦士ガンバルのオジン軍にハマりすぎだ……。
そりゃ確かに地球連合よりオジン軍の方がカッコいいキャラ多いのは認めるけど……。
というかそこまで理論武装してまで、コスプレ状態にするか?
「……ちなみに君の二つ名とかは……?」
「はい!
『紅い遊星のサラ』を名乗らせて貰っています。」
「……で、彼処にいる青くて鞭もった奴は……?」
「たしか『青き矮星のララ』殿だと思ったのですが……。」
「それで、あそこに並んでる黒い奴三人組は?」
「『黒い三千円』の『グラシア』、『マリサ』、『オルフェリア』だと思いますが……。」
あかん……完全に洗脳されてる……。
自分が播いた種だとはいえ、アレにハマってた自分の中学時代を思い起こさせるようだ……。
プラモ作りまくったもんなぁ……。
もういっそ開き直ってオントスにも開発ナンバーとか付けるか?
MS-006みたいに……
オントスだったらT・M・S-001とか?
「なんか皆の間で、ヒエラルキーみたいなのも存在するみたいに見えるんだけど……?」
「それはまぁ、古くから居た精霊達の間での言ったモノ勝ちというか……
皆で適当に『大尉』とか『少佐』とか呼び合ってますから……
あっ、因みに『デルフィナ』達は問答無用で、皆の満場一致で最底辺の『二等兵』に設定されてますから!」
あいつら二等兵扱いか……。
というか、いつの間に階級まで……?
しかも、それぞれのオントスに、肩とか盾に部隊名やエンブレムを勝手に入れてるし……
あ……メンテナンス・ハッチに『CAUTION』とか『DANGER』とか『注意書き』入れてる奴もいる!
コイツはディテールアップ派だな……。
「みんな派手な塗装しすぎです。」
『ソコロ』さんが忌々しげに顔をしかめながらやって来た。
そうだよなぁ?
みな悪ノリしすぎだよなぁ?
「オントスなんて、大量生産の消耗品なんだから、緑かカーキの一色で充分です!
それを派手派手しく塗りたくって、的になりたいのかと?
せいぜい、肩を赤く塗る程度にしとけばいいものを……。」
そうだった……。
ソコロさんは『装甲歩兵ボケナス』派だったっけ……。
あと、未だオントスは大量生産までいってないからな?
消耗品扱いにしないでチョットは大事に使ってくれ!!
「ところで、全部隊集合しました。
私達が偵察で得た情報を、皆で共有したいので、『情報共有システム』を使用したいのですが。」
「判った、さっそくやろう。」
『情報共有システム』とは、オントス同士でリンクする事により、他機の視ている映像や音声を視たりする事が出来るシステムである。
ただ問題は、データ量が大きいのと傍受されるのを防止する為、光ケーブルによる有線や、波長の短く出力が弱い電波を用いるので、届く距離が短いという欠点もある。
今回はそれを用い、偵察で得た情報や映像を皆に説明するのに使おうというのだ。
それぞれのオントスがケーブルを数珠繋ぎにしたり、受信用アンテナを伸ばしたりして、『ソコロ』さんのオントスから流れる説明を聞く事になった。
私自身も、急いでOG型のオントスの操縦席に、フィデリアさんと共に収まる。
モニターに映像が映り始めた。
どうやら逃げる地竜を、追い掛けてる時の映像のようだが、時折映像がクローズアップされる。
クローズアップされてる映像の中心には、地竜の背中に乗る黒いローブを着た人のようなものが映し出されている。
その人物に赤い矢印が付けられ、『ソコロ』さんによる説明が始まった。
《私達、偵察班は、地竜をワザと全滅させないよう、追い立て何処へ逃げるのか確かめようとしました。
そして途中。こんな映像が撮影されました。
視てのとおり、地竜の背中に乗る謎の人物です。
こうして視ると判りづらいですが、身体は小さく、後に判明するのですが、ゴブリンである事が判りました。》
ゴブリン?
ゴブリンが地竜を操っていたというのか?
《狼などを飼育しているゴブリンは、今までにも存在していましたが、地竜を操るゴブリンは、我々が初めて確認したと思われます。
取り敢えず《テイマー》と仮称する事とします。》
次に映し出された映像は、息も絶え絶えになっている地竜達と、それの前に居並ぶ異形達。
ゴブリンやホブゴブリン、オークやトロール達の姿が映し出された。
その中心部には、浅黒い肌をした耳が長く尖った男。
この男が、当初『ソコロ』さんにダークエルフと間違えられてた『魔族』なる種族の男なのだろう。
その男が、なにやら地竜の背中に乗っていたゴブリンを、叱責しているようだ。
《距離が遠いので音声は入りづらいですが、だいたいこのような事を言っています。
「何故もっと冒険者どもを捕虜にとることが出来なかったのだ?あれだけの数の地竜を与えたのに?」です。
つまり、この人物こそが、何らかの目的があって、冒険者達を多数捕虜にする事を目論んでいた事が推察されます。》
やがて映像では、その男がゴブリンを殴る蹴るの暴行を加えているのが視える。
《このように男は、このゴブリンを一方的に殴りつけています。
相手は反抗一つしませんし、周りにいる者たちも止める様子もありません。
これは、男が周りの集団に対して上位にあたる、強力な従属関係を構築している事が見受けられます。
つまり、この集団の中ではこの男が、リーダーの役割を果たしているという事です。》
そこへ、もう一体ゴブリンが走って来たのが視える。
ゴブリンは何か喚き立てていたが、それを聞いた男が再び怒り、今度はそのゴブリンを剣を抜いて斬り殺してしまった。
《この部分の映像ですが、後から来たゴブリンが、「自分が率いていた地竜が全滅してしまった」事を述べています。
それに対し男は「なぜあんな村一つ潰せない?相手はたかが村人と、貴族の娘一人だぞ?
護衛の数も我々の工作で少なくなった筈だ!?」と言っています。》
それに対してゴブリンは、「村の周囲の落とし穴に地竜どもが殆ど引っ掛かかり身動きできなくなったところへ、恐ろしい奴が来てあっという間に皆殺しにされた。」と言っています。
それを聞いて男が、「地竜に落とし穴避けさせる事すら出来ない無能なのか!!お前は!?」と逆上し、ゴブリンを切り捨てています。
これらの事から彼らの狙いは、あの地竜の集団を用い、今回の依頼を受けた冒険者達やダンミアの村の住民、そして貴族令嬢の『アルドンサ』を拉致するのが目的だったのではないかと推察されます。》
再び映像が流され、男がなにやら周りの者たちに喚き立て、その場を離れて行くのが写っている。
《男は、「これだけでは数が足らんが止む終えん、今回は撤収するぞ。
時間は掛かるが残りは商人でも襲って堅実にいく。」と去り際に言っています。
つまり彼らには明確な捕虜として必要な『人数』が存在する事が判ります。
いうなれば目標ですね。
また、先程の会話では彼らに貴族令嬢を攫う為、人族の中にも協力者が居ることを仄めかしています。》
映像は途切れた。
だが『ソコロ』さんの説明は続く。
《その後、彼らは少数づつに別れながらこの場から離れていきます。
行き先はそれぞれ違うらしく、またこれ以上の追跡はこの人数では難しいと判断。
撤収し、今に至るわけです。》
なるほど……
これは私達にとっては、価値の高い情報だ。
それに一部は、あの『霊界通信機』を介する謎の相手からもたらされた情報の確度を、補完してくれる重要な情報でもある。
アルドンサさんまで狙った理由までは判らないが、人族側にも、それに協力している者がいるというのも興味深い。
取り敢えずこれらの情報から考えれば、未だ連中はこの森に潜んで人間狩りを繰り返すつもりである筈だ。
ならば森の中に奴らの拠点が複数存在するという事!
私達は、その拠点を暴くべく、再編成を行い作戦を開始した。




