第三十九話 「鎖の国⑦」
……なんとかホドミンの街へ到着する事は出来た……。
貴族令嬢、『アルドンサ』さんに、ものすご~く疲れる話を聞かされながらだが……。
街の門番は、一応は仕事熱心らしく、地竜の死骸運んできた『オントスβ』を街に入れるのを嫌がった。
借り物のゴーレムである事を説明したが、向こうの言い分では魔獣にしか見えないという事で、デルフィナは帰して『ソコロ』さん達と合流して貰う事にした。
地竜の死骸はその場に置いて、あとで冒険者ギルドの方から荷車を持ってきて回収して貰う事になる。
デルフィナは、「あんなに活躍したのにー!うがぁああああ!!」と不満タラタラだったが、「此処でダダ捏ねると、『オントス運用免許』失効にするぞ……。」と脅し、なんとか引きとってもらった。
『オントス運用免許』とは?
『思考巨人の拠点』内部で運用するオントスの数が、急激に増えた事により事故も急増した為、急遽作った制度だ。
仮想空間でなら、事故を起こしても物理的な損害は発生しないが、実体として運用しているオントスに関してはそうはいかない。
まぁ何かあっても、乗り憑いてる精霊達に関しては、物理的な手段では死んだり怪我をしたりする心配は無いが、問題は物理的な損害である。
オントスの生産数自体には限りがあるし、未だ手加工手工業的な手段で生産されてるのだ。
オントス一体は血の一体である。(オイオイ。)
しかも次世代型オントスには、万が一の魔素が空気中に少ない場所での運用を考慮した、『液化メタン』や『液体アンモニア』をも非常用燃料として利用出来る、新型魔導タービンを導入する予定なのだ。
それらが運用始めた時、事故を起こされたら爆発の危険性もあり、本気でシャレにならない。
それに拠点の地下には長い時間を掛けて作った、貴重な『原器』などが存在し。
もしこれを失ったり、損なうような事態があれば、拠点の持つ高細精度加工技術が一気に失われる事態になりかねないのだ。
特に三面摺りを繰り返して作った『超高精度平面基準原器』は、持ち運んだだけで自重により歪が生じる程超繊細で、現在のところ替えが効かない。
もしこれが失われたら、生産管理任されてる精霊どころか、ソーフォニカ自身が発狂するかもしれない……。
勿論、私もである。
そういった事態を避ける為、仮想空間で使用するには必要無いが、現実の空間で実体型オントスを用いる場合のみ、各種類ごとのオントス毎に免許を交付する事にした。
勿論、交付には技能講習と検定が不可欠となっている。
ちなみに、現行では二体しかない『オントスβ』に関しては、免許保持者はデルフィナを含む六人しか居なかったりする。
重作業用という事もあるが『外見が不評』な事もあり、積極的にこの免許を取ろうとしてくれる精霊が少ないというのも、少ない理由の一つとなっている。
やっぱし次のはもっとカッコ良くしよう……。
やっぱ男らしく下半身は『無限軌道』なんか良いかもしれない。
なにしろオントスシリーズには、脚部等に水銀と窒素、そしてコイルばねを利用したサスペンションシステムが使用されている。
そもそもコレが利用されてる理由というのが、ゴムを利用したパッキンが長い事造れなかった為だ。
代わりにサスペンションの気密には磁性流体が採用されてる。
つまり、脚がたくさんあれば有るほど、製造に面倒な部品が増えるというものなのだ。
だったら、たんなる金属棒の捻じれを利用した、トーションバーサスペンションが利用出来る『無限軌道』の方が、製造上簡素になって良いかもしれない。
右腕には武器として『モーニングスター』、左腕には『円盾』を持たせて、無限軌道の音を地面に響かせてながら突撃する新型『オントス』!!
男らしくモノすごくカッコ良いかもしれない!?
接地面積あたりの面圧も低くなるから、更なる重装甲も可能に!?
こうなればもはや無敵であろう!
ウハハハハ!である。
後に、その設計思想を精霊達に完全否定されるのも知らず、迂闊にも妄想内で設計図面を引きながら歩いているうち、冒険者ギルドにたどり着いてしまった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
冒険者ギルドでは、今回の依頼に参加した人の名前が読み上げられ、報奨が与えられた。
ちなみに今回の依頼に関しては、金額はランクとかに依らず一律である。
二日間フルに働いて、報酬金貨二枚……
約二万~四万円くらいか?
これ時給換算でいくと、絶対安すぎる気がする……。
地竜を討伐した分、多少は色を付けてくれてもいい気がするんだが……
そんな事を思っていると、私以下親衛隊三人組だけギルド長自らの呼び出しがあり、「これは私達だけ特別ボーナスとか?」などと期待しながら別室へ案内され、喜び勇んでいたら……
ギルド長に開口一番!
「お前達は何者だ!?」
なる言葉を浴びせられた。
おいおい。
ここまで来て、失望させるなよ……。
「『スターリング』元、王立陸軍第三軍団第三大隊第五中隊所属、最終階級は一般兵。
『マリアネラ』やはり同じく、元王立陸軍第三軍団第三大隊第五中隊、最終階級は十人隊長!」
いきなり私とフロレンティナさんが詐称してる、経歴を読み上げられてしまった。
「他にも!
『エロイサ』ランク第八種冒険者、登録はコンウォール、ゴブリン討伐の依頼を受けその後一時行方不明となるも、依頼未達成で帰還、そして!
『グアダルペ』 ランク第七種冒険者、登録は同じくコンウォール、ゴブリン討伐の依頼を受けうんぬんのくだりはほぼ『エロイサ』と同じだな?」
残り二人の詐称経歴も読み上げられてしまった。
「今回の依頼の中で、君たち四人だけが、ほぼ独力で地竜を撃退している。
私が言いたいこと判るか?」
「「「「わっかりませ~ん!!」」」」
思わず声がハモってしまった。
何やらギルド長が青筋立てている……
「ならば言ってやろう!
『マリアネラ』!一撃で地竜を瞬殺する実力あるのに、なんで軍を首になるのだ!?
そんな事する奴ぁ普通いねえ!
『エロイサ』や『グアダルペ』に至っては、ゴブリンの群れ退治するのにも失敗する程度の実力だったのに、妙チクリンな武器を使い、地竜を群れで殲滅するってのはどういう事だ!?」
「さぁ?」
「なんでだろ?」
「なんの事かしら~?」
三人とも韜晦している……。
あれ?
「……あの~?
私だけなんで呼ばれたのか知らないですが……?
別段地竜を独力で倒したりしてないのですが……?」
私製PIATを使い、一匹爆殺したのは他に視られた奴が居ないので内緒だ。
「お前が一番『謎』なんだ!!」
「ええええええええ!?」
「お前が彼奴らの『飼い主』だろう!?」
『飼い主』だなんてそんな……
あくまでも『アレ』の飼い主は『ソーフォニカ』だぞ?
失礼な。
「……な、何を言ってるんですか?」
「他にも、お前は『のうきょう』なる謎の団体との繋がりも有るだろう!?
それも一人ひとりが独力で地竜を狩れる程の実力と、今まで視たこともない強力な重量級ゴーレム!!
だがそんな強力な戦力を有する『危険なギルド』など、私の知る限り王都には存在しない!!」
う~む……ここまで知られて突っ込まれてしまったか……。
止む終えまい、こうなったら得意の嘘八百で押し通すか……。
「確かに、私はあの『のうきょう』なる集団の事を知っています。」
「なら話せ、知っている事を一切合切話せ。」
「それは出来ませんよ。」
「何故だ!?」
「良いですか?
私も『マリアネラ』も、部隊が壊滅して現地解散になった時も、軍事機密に抵触する部分は黙秘する事を条件に多額の退職金貰って辞めてるんです。
そしてその「黙秘する」という部分の義務については、たとえ軍を辞めて民間人になった後もついてまわるんです。
それを無理に聞き出して、ある日いきなり王都に国王の名のもとに呼び出され、王都の門に吊るされたいんですか?
首から『売国奴』や『私は敗北主義者です。』の看板吊るされて?」
「それは脅しのつもりか!?」
「事実を淡々に申し上げてるだけです。」
「その話なら、あの『のうきょう』なる集団については、軍事機密という事になるが、どういう事だ!?」
「それ以上の事、私が教えられると思いますか?
まぁ独り言で良ければですが……
挙国一致体制って知ってますか?
ようするに『魔に属する軍団』との決戦の前に、国内でのゴタゴタ、例えば貴族同士での争いや不正、腐敗があるとヒジョーに困るんですよねぇ?
ある御方にとっては?」
「……そ、それは国王陛下?……いや宰相閣下!?」
「……国王陛下自らも戦闘で負傷なされてるくらいですし、どれだけ国がいろいろな方面に力をつぎ込んでるのか判りますぅ?」
「……国王陛下負傷の件も知ってるとは……
あれは国内でも限られた人しか知らない筈の情報なのに……
ま、まさか?
アルドンサ様の件でとうとうあの、謎の治安維持部隊が動いたという事なのか!?」
「……さぁ?なんの事ですかねぇ?
私はあくまでも、独り言をしゃべっただけですよ……?
それとも、知ってしまったらまずい事を、貴方は知っているんですか?」
部屋の中を暫く沈黙が支配した。
ギルド長の目が、私達全員に向けてチョコマカと動いている。
そう、何しろこの部屋には、私達全員という危険生物をギルド長自らが迎え入れてしまったのだ。
必死で逃げ場を探しているのがよく判る。
「ねぇ?ギルド長。
魔の軍団相手にしてる時、国内が内部分裂してたら困りますよねぇ?」
「……うむ、そうだな。」
「ギルド長の力なら、収める事も可能ですよねぇ?」
「絶対とはいかんが……、だが向こうも潰されるよりはマシだろう。
説得してみよう……。」
「それは良かった。
あと私達の事は、あくまでも『フツーの冒険者』ですので。
決して!
政治将校とかそういったものではありませんので、判りますぅ?」
「あい、判った。」
「それでは、私達はこのへんで失礼してもいいですかな?」
「……判った、好きにすればいい。」
私達は部屋を出ていった。
部屋の扉を後ろ手で閉めた瞬間に、思わず笑いが浮かんでしまった。
こっこんなハッタリが通用してしまうなんて!!
他のメンバーもルンルンである。
まぁこのハッタリがバレたとしても、私はひとっことも、『のうきょう』の正体がギルド長の想像するような、国王や宰相直属の『治安維持部隊』だとか言っていないし、あくまでも匂わせただけである。
それに向こうだって、だからといってバカ正直に国王や宰相に聞いて廻るなんてことは、出来やしないだろう。
都合が悪いことじゃなければ、口をつぐんでしまえば良いのだ。
『好奇心、猫を殺す』ぐらいの事は知っているだろう。
さて、思わぬ事でいい気分になった私達は、これからの行動を協議する為にも、街で適当な宿を探すことになった。
だってギルド会館じゃ、宿の壁うすいもんねぇ?
機密保持!機密保持!るんるん!!




