第三話 「聖者が街で殺ってきた③」
なんとか見付けた街道を、道に付けられた馬車の轍を頼りに、歩き続ける。
背中に背負った、エルフを括り付けた背負子が重いが気にしている場合じゃ無い。
途中、放棄されたとみられる馬車を見付けた。
神殿から逃げてきた兵士達の馬車では無かったが、周りには食い千切られた人間の遺体が散乱し地獄絵図と化していた。
馬車や被害者の姿格好から見て、商人とその護衛らしかったが、擱座した馬車の中には殆ど何も残っておらず、曳いていた馬も見当たらない。
あの、神殿を襲ったゴブリンやオーク達か?それとも盗賊か?どちらに襲われたのかは判らないが、少なくともここ一帯が、危険地帯である事は判る。
出来れば、日が落ちるまでに、人が居る村なり街なりに辿り着きたいが、そんな場所までどの程度の距離があるかも判らない。
歩きながら食べ飲み、必死で歩みを続けるしかない。
なにしろ、周りは人家も見当たらない森の中なのだ。
まわりからふいに飛び立つ野鳥の影に怯え、遠くに聞こえる狼の遠吠えに怯えた。
そして無情にも日があるうちに人家に辿り着く事も出来ず、夜の帳が下りてきた。
夜間に動くのは自殺行為と解っていたが、ここに残るのもやはり自殺行為だろう。
あの擱座した馬車を襲った相手が、知性有る相手だとすれば、例え火を焚いたとしても、役に立ちそうにない。
それどころか、却って呼び寄せる結果ともなり得る。
結局、歩き続けるしかない。
暗い木々が周りを覆いつくす道を、星の明かりを頼りに更に歩き続ける。
歩きながらこれまでの事を思い出していくと、思考が冷えたのが原因か、それまで気付かなかった事が、取り留めもなく頭の中に湧き出してくる。
よくこの手の『異世界召喚モノ』には定番となった『チート能力』とやらはどうなっているんだろう?
そういえば、あの国王らしい人物の言葉、日本語じゃなさそうだったのに、意味は理解出来たな?これがチート能力?いやそれだけじゃショボすぎだろう!
召喚前の『女神や神様に会う』なんてテンプレも無かったし……「ステータス!」と唱えれば自分の能力値が視えるなんてこともありゃしない。
あえて言えば……
背中に人一人背負った状態だというのに、未だに早足でちゃんと歩けている事は、はたしてチートなのか?
それとも、単なる火事場の馬鹿力?
後から考えれば、馬鹿らしい思考の羅列なのだろうが、こんな異常事態の連続の中、マトモな思考を取り戻してたら、おそらく歩き続けるなんて事は出来なかっただろう。
周囲が朝靄で明るくなる頃には、どうにか道は森を抜け田園風景へと続いていく。
耕された畑が続く先に、都市らしき壁と門が目に映った。
「助かった……。」
そう思った時が油断だったのかもしれない。
ガブリと足に何かが噛み付いて来た感触があった。
左足に目を凝らすと、いつからついて来ていたのか灰色狼の頭が足の脛に齧りついていた。
痛みのあまり、その場で私は絶叫して果てた。




