第三十八話 「鎖の国⑥」
朝が来た。
そして私は夢見が悪すぎた。
夢の中に、女神ミナゴロシ……違った女神『ミーナ・ゴローズ』様が現れ、『アレ』をなんとか娶ってやってくれと、土下座して頼まれた。
勿論、腐っても女神が一介の信者の為に、そんな事をするとは考えられないので、昼間のがめつい神官さんの戯言の影響で、そんな馬鹿げた夢を視たのだろう。
実際起きたら枕元で、「……スターリング様は『ベルナルダ』と結婚する。結婚する。結婚する。……」と呟き続ける神官さんの姿があった……。
洗脳かよ!?
せっかく昨夜は地竜討伐のご褒美として、夜の見張り番免除して貰ったというのに、寝る前より却って疲れたような気がする。
地竜にひっくり返され、踏まれて壊れてた炊き出し部隊の鍋は、錬金術師のコンチェッタさんの手により修復されたお陰か?朝食は地竜の肉のスープ。
因みに他の具は大蒜と玉葱のみ。
ちなみに大蒜は鱗茎だけじゃなく、芽まで使われていた。
非常に男らしい料理であった。
完全に切れてない具を器の中に見出しながら、大丈夫なのか?
ギルドの炊き出し部隊の皆さん!?
他人事ながら嫁にちゃんと行けるのかと、思わず本気で心配してしまった。
ギルド員は、受付業務もこなす関係で美人が多いと評判だが、騙されてくれる冒険者はどれだけいるのだろう?
二十代ギリギリベテラン受付嬢さんが、パセリ摘みに行って三箇所とも全滅したというのも、このあたりに原因あるんじゃないかとも思える。
若いうちは、冒険者達にチヤホヤされて大丈夫なんだろうが、そのうち二十代後半になったら焦りだし、やがてドロドロの愛憎劇展開するようになるんだろうな……。
そう考えると、人族の国力減らさない為、女神とかが必死で出会いや婚活勧めるのもアリなんじゃないかと思えてきた。
イヤ!イヤ!イヤ!
まだ私は神々のゲームの駒になる気はないよ!?
朝食の後は、街に向けての撤収の準備。
それぞれ皆、撤収の為の荷物の整理や、私とオントスβは、空堀に倒れてる地竜の死骸の引き上げ等に従事した。
そして帰路につく……。
重い荷物(主に地竜の死骸)を背負わされ、「重い~……バランスが……」とボヤきを続けるデルフィナを後目に、貴族令嬢のアルドンサさんに、道中いろいろと話しかけられた。
「スターリングさんってあの『のうきょう』とかいう人達について詳しいんだよねぇ?」
「詳しいという程ではありませんが、王都で軍務についてた頃に知った程度ですが。」
「なんとか渡りを付けられないかなぁ。うちの領地っていろいろあって大変なんだよね。」
「それは貴族同士のゴタゴタという奴ですか?そういった荒ごとでしたら、彼らは引き受けないと思いいますよ?」
「あー、そうかー残念……。」
なんかこの人、話し方が大分くだけて貴族とは思えないんだが……?
「……まぁいっか。
シナリオ進行上、こんなところでは未だ死んだりするワケないし……。」
シナリオ進行!?
「……まぁ言っても判らないと思うんだけどね、私、悪役令嬢だから、この国の第一王子と婚約したあと、やがて王子と恋仲になったヒロインにギャフンと言わされて、家もろとも没落する予定なんだよね。
だからソレまでは死ぬ可能性とかは無いし、今回の地竜騒動で助かったのもそれのお陰。」
「……え、えーと、そうなんですか?」
「そう、この世界はじつは乙女ゲーの世界なのよ。
まぁ言ってもしょうがないけど。」
はぁあああああ!?
何言ってるんだこの女は!?
いや、乙女ゲーの知識が有るって事は、もしかしてコイツ元の世界からの転生者!?
「……因みにお聞きしますが、この世界だという乙女ゲーのタイトルは何というのでしょう?」
「うん、私が生前良くやってたゲームでね、『栄光』って会社の『インスパイア帝国の野望 ~ドキ!男だらけの学園逆ハー生活 BLもあるよ~ 全世界版』っていうの。」
なんだよそのムチャクチャなタイトルは!?
戦略級シュミレーションなのか?
学園恋愛シュミレーションなのか?
ボーイズ・ラブ系ゲームなのか?
ハッキリしろ!!
「……えーと、そのゲームってどんな内容なのでしょうか?私そういった方面って詳しくないもので……」
「えーとねぇ、一応ゲームが貴族達の子女が集まる学園から、スタートが始まるの。
平民出身で貧乏男爵の養子になったヒロイン、『アルロラ』が遅刻!遅刻!と言いながら口にパン咥えて学園の門をくぐったところで、とある男の子にぶつかるところから始まるのよ。どしたの……?」
思わず頭抱えてしまった……
それベタ過ぎるだろ……
「く、口にパン咥えてって……なかなかベタですねぇ……。」
「そうでもないわよ?彼女なにしろパン一斤を咥えて飛び込んで来たっていうのが斬新で……」
ちょっとまて!
一斤サイズのパン咥えて走るってその娘どんだけ口がビッグマウスなんだ!?
比喩とかじゃなくて!?
「男の子にぶつかった理由ってのも、口に咥えたパンがデカ過ぎて前が見えなかったからと斬新設定で……」
いや、それって絶対斬新とかじゃなくて残念だろう!!
ちなみに読みが一字違うだけで意味は全然違うぞ!?
「で、ぶつかった男の子が、」
「……いや、そこまで来たら読めてきた。
この国の王子様なんだろう?」
「それが違うのよ、実は用務員さんだったのよ。」
ガーン!
というかそこまでベタな展開で来たらテンプレ外すなよ!?
「そ、そうなのか……その用務員さんってのが、実は攻略キャラの一人とかいう展開とか?」
「全然、それどころか実は御稚児趣味したタダの変態だったのよ。」
ガガーン!
というか主人公いきなり大ピンチじゃねぇか!?
「で、ぶつかったショックで口からパン一斤落とした主人公が、悲しみのあまり用務員からパン代を弁償しろと言い出すのよ。」
それ用務員さん悪くないんじゃ?
それどころかぶつかって因縁つけて金せびるって主人公どんなヤクザだよ!?
「そこへ仲介の為に、颯爽と王子様が薔薇咥えて現れ、『可哀想に、これでパンでもお食べ』と銀貨を一枚ヒロインに渡すのよ。」
渡すんかい!
しかも約十万から二十万円分の価値ある銀貨を!?
「それ以来、主人公の王子様を見る目が変わって、相応しくなろうと努力を始めるのよ。」
「王子を見る目って……それ金づるを見る目に変わったんじゃないか……?」
「そこで現れるのが『悪役令嬢』たる私、『アルドンサ』よ!」
「えーと……悪役令嬢って具体的にどんな事をやるんですか……?」
「それを話すには、まずこのゲームのシステムを説明しなきゃならないわね。」
「はぁ……。」
「このゲームでは主人公は攻略キャラの自分に対する好感度を上げていく事で攻略してくのよ。」
「はいはい、それで?」
「でもフラグ管理を間違えると、『悪役令嬢』たる私がしゃしゃり出て、ヒロインに対する好感度が一番高いキャラと二番目に高いキャラの間を取り持ってくっつけてしまうの。」
「は嗚呼!?」
「……で結果、主人公はもっとも親密になったキャラと二番目に親密になったキャラ二人、男同士のラブシーンを視せつけられ、ハンカチを噛み締め悔しい思いをして泣く事になるワケ!」
……このゲームすごいトンデモないゲームだ……。
それも、あと少しで攻略完了!といったところで相手を『男』に攫われるなんて……
しかも、よりによって二番目のキープ君に……そりゃ主人公血の涙流すだろう。
「あ、因みに好感度が一番高いのが男じゃなくて女でも発生するから。
そのイベント。」
親友にかっさらわれるNTRイベントもありなのかよ!?
「それから好感度は悪役令嬢自身にも設定されてるから、ヘタすると私直々による寝取られイベントも発生する事あるけどね。」
なに?そのイベント……!?
いや、悪役令嬢なんだからライバルとして、主人公の惚れた男をNTRするのは当たり前といえば当たり前か!?
「因みにこのエンドになると、血迷った主人公に殺されるけどね!私。アハハ!」
いや笑い事じゃないだろう。
そんな危険なエンドにならないよう避けろよ!?
「で、まぁこのゲームの始まりってのが、私が貴族の学園に通う事になる十五歳になる年だから、丁度来年ってワケなのよ。」
「そ、それはなかなか大変な事で……」
「そうなのよー。
だから私、学園生活で味方になってくれる従者として、貴方を雇って一緒に通おうと思ってたわけ。
貴方、年齢的には通ってもおかしくは無いでしょ?」
「いえいえ、私これでも年齢三十路超え……いや四十だったかな?、年齢数えるの忘れたからハッキリしないけど……貴方よりは年上なんですよ?」
「ええ!到底そうは見えないけど!?」
「いえ、私エルフの血が混じってるんで、成長遅いんですよ。(身体も一回交換してるからな!)」
「そ、そうだったんだ。
通りで落ち着いて見えると思った。
若くて美形だから、てっきり隠しキャラかと思ったのに……。」
いや、人を勝手に攻略キャラにしないで欲しい。
それに美形といったって、元の身体は別モンの中の下程度のブサメンだからな?
それに攻略キャラとか言われても、今の私の身体、現状は女だから攻略されてなんてやれないぞ?
それどころか、その王子とやらに狙われたりして……ありえそうで怖い!!
「……そういえば、予定では家ごと没落って言ってましたが、王族と一旦は婚約したのだから、婚約破棄にならないよう気を付けてればいいんではないでしょうか?」
「それが違うのよ……。」
「え?」
「たしかゲームでは、私と王子は五歳の頃に婚約してる筈なのに、未だ王子との間での婚約の話が来てないのよ!」
へ?
それって当人は乙女ゲーの世界に転生したと思いこんでただけで、最初っから実は違うのでは……?
「せっかく没落に備えてお小遣い貯め隠し財産作って、いざ平民落ちしたら商会立ち上げて大儲けしてやろうと企んでたのに……。
せっかくの計画がパーよ!?」
いままでわりと本気で真面目に聞いてたのに、その一言で後悔した。
今まで聞いていた時間返して欲しい。
わりとマジで。




