第三十七話 「鎖の国⑤」
ちょっと怖い思いもしたが、結果オーライというべきか、ダンミアの村へ侵入して来た地竜は、殆どを倒す事が出来た。
村の入り口に設けられ、落とし穴にハマり藻掻いてた最後の二匹も、「私だけまだ地竜倒してない!殺らせろぉ!!」とデルフィナが言い出し、『オントスβ』搭載のアームパンチ機構で、頭を潰して終わりとなった。
グロい……。
まぁ私製PIAT対戦車榴弾で、一匹爆殺した私が言うことじゃないがな。
あと「やらせろぉ!!」って普通男が言うセリフだぞ?
意味は違うがな。
村の外で待機していた他の冒険者さん達と合流し、村中央に設けられたシェルターへ、中へ逃げ延びた人々を助けに向った。
シェルターは地竜が潰そうと何度か試みたらしく、壊そうとした形跡もあったが、さすが土精霊自慢の土木技術+土魔法の賜物で、崩される事もなく村の真ん中にシッカリと鎮座している。
内部と繋がる通風孔から、「村長さーん!無事ですかー!助けに来ましたよー!」と呼びかけた。
「本当かね?もう周りには地竜は居ないのかね?」と返事が戻ってきた。
声からして、間違いなく前に遭った村長の声だ。
どうやら無事だったようだ!
「地竜は全部退治しましたよー!だから外へ出て大丈夫ですー!」
私が声を掛けたとたん、シェルターの分厚い扉が開き、「うわー!」とばかりに、中から人々が顔を茹でダコにしながら飛び出してきた。
どうやら中はサウナ状態だったらしい。
飛び出してきた人は限界の一歩手前だったのか、そのまま地べたに仰向けになったり、「水……水……。」と水分を求めて井戸に向ったりと大変そうだ。
水筒や水袋持ってる冒険者達が介抱して廻ってる。
今度シェルター作るときは、排熱のこと考えたほうが良いかも知れない。
村長もさんも無事シェルターから出てきて私に声を掛けてきた。
「スターリングさーん!貴方のおかげです!貴方が『のうきょう』の人達を呼んで、村を要塞化してくれなかったら、今頃はみな地竜の餌食でしたよ!」
「いえいえ、私なんてたいした事してません。
それより皆さんがたが無事で何よりでしたよー。」
「「のうきょう?要塞化?」」とアルバさんや、シェルターの中から出てきたアルドンサさんが、疑問の声をあげている。
「本当に、あの『のうきょう』の人達のおかげだぁ!
彼らが居なかったらこの村は明日を迎える事が出来ませんでしたよ!」
村長の周りにいた村人達も、一斉に「『のうきょう』ばんざーい!」と褒め称えだした。
私の親衛隊の火炎放射器持った精霊が、何やらモジモジし始めてる。
あ、こいつここの工事に関わった精霊の一人だな。
バレバレだ……。
「スターリングさまぁあああああ!!」
シェルターから私に向って飛びついて来たのは、がめつい神官の『ベルナルダ』さんだった。
「私もうダメかと思いました!だから、もう神官やめて結婚します!!だから養って下さい!!」
なにやらトンデモない事を私に抱き着き言ってるんだが……
それ以前に私の意思は!?
「神官さん!なにトチ狂ってるんですか!?
そもそもミナゴロシ教の神官の貴方と、ニコラ・テスラ教の狂信者……違った熱心な信徒の私で結婚なんて、宗派の違いから不幸になる未来しか視えませんよ!!
それに貴方の唯一の萌え属性の『神官』捨ててどーするんですか!?」
「がーん!
私、属性それしか無いんだ……。
いや、そんな事関係ありません!それにこれは託宣なのです!!」
「……託宣?……。」
「外を地竜が彷徨う暗いシェルターの中、私は助かりたい一心で女神『ミーナ・ゴローズ』様に祈ったんです!」
「……はぁ?」
「そしたら祈りの中で、私の脳裏の中『ミーナ・ゴローズ』様は笑顔で応えてくれました。
『汝、このシェルターから出られたら、神官の職を辞して『スターリング』様と結婚し養って貰いなさい。』と!!」
「いやベルナルダさん……それあきらかに、恐怖の中での現実逃避だから……妄想だから。
それに割り箸効果……違った吊橋効果も混じってるから!!
神様が異教徒と『結婚しろ!』などと絶対勧めてきやしないから!!」
自分ではそんな事を言いながらも、いやもしかしたら女神も、この人の婚期を本気で心配して私に押し付けようとしてるんじゃないか?と不遜な事を考えたのは内緒だ。
「養ってぇ……養ってよぉ……ええええええええーん!びぇええええええええん!(涙)」
しまいには私に抱きついたまま鼻水擦り付けて泣き出すわ、周りは温かい目でこちらを注目しだすわ大変な事になった。
大迷惑だ……。
なにやら男性冒険者の中には「神官様が女にプロポーズしてる!」とか「長い禁欲生活の中でとうとう……」とか哀れみ声を上げてる奴もいるので、「私は男だぁ!」と発言を撤回させた。
「え?でも胸が……」
「これは大胸筋だ!」
もうこのやり取り何度繰り返させるんだ……?
ソーフォニカよ、早く私の新しい身体プリーズ!!(涙)
「しかし皆さんよく無事でしたねぇ?」とアルバさんが聞いている。
それに対して。
「この村は前回、一角獣に襲われたおり、『のうきょう』の方々が来て要塞化工事をして下さったのです。」
村長が説明してくれてる。
「……ほう?」
「そのおかげで地竜が襲来してきたときも、落とし穴や空堀で村へなかなか侵入出来ず、その間に皆シェルターへ逃げ込む事が出来たんです。」
「私達も村長さんからこちらへ逃げ込むよう言われて助かったんです。」とギルドの炊き出し部隊の皆さん。
「おかげでみんなの食事作ってた鍋を、放棄して逃げる羽目になりましたよ……トホホホ。」
その話しを聞いたとたん、冒険者達からも「そういえば俺達も食事出来てねぇぞ。」「お腹すいたー!」などの声も上がり始めた。
皆で炊き出しの鍋を用意されていた場所へ行ってみると、鍋はひっくり返され中身は地竜により食い散らされていた。
どうやら我らの食事は、村の中で転がってるどれかの地竜の胃袋の中だ。
絶望の声を上げる冒険者達。
そのうち食い物の恨みは恐ろしいというのか?
村に転がってる地竜の死骸を「これ食えるんじゃないのか?」と言い出す冒険者が出る始末。
そのうち数名が火炎放射器で焼き殺された地竜の鱗を剥がしだし、食べようとしだした。
オイオイ。
それ生ゴムとガソリンや、マグネシウム粉で焼いたから臭いと思うのだが……
そのうち私に「地竜の首切るのに使った道具出してくれ」との頼みがきて、親衛隊の手伝いでチェーンソーを使った、地竜の解体料理ショーが始まってしまった。
皮の表面は黒焦げだが、中心部の肉は蒸し焼き状態だったのか、たしかに美味しそうな匂いを漂わせている。
その肉に味見とかぶりついた冒険者から、「うんめぇえええええ!」との声が上がり、村人交えて地竜の焼き肉パーティが始まってしまった。
オイオイ、毒とか食中毒の心配しなくていいのか?
皆が喜んで食べ始めてしまったので、私も用心しながらも後ろ脚の肉を少量、失敬して食べてみたが、正直言えば脂身が少なく、鳥の胸肉に近い味がする……。
冒険者達にはごちそうのようだが、仮想世界で美食を楽しんでいる私達には、ロクに調味料もなく焼かれただけのこの肉には、正直「びみょ~。」というのが感想なのだが……。
猫獣人のリットルちゃんや、その叔母のコンチェッタさんまでもが、美味しそうにこの肉を頬張っているので、野暮は言わずにその場を離れた。
「私は七百五十七歳なんだぞ!年上なんだから敬って大きく切り分けろ!」と肉を切り分けてる冒険者へ文句つけてるチンチクリンが居たが、エルフはたしか草食系だと記憶してたので、やはりあれはドワーフの一種と認定する。
酒を見せたら喜んでとびつきそうだ。
ただ、ギルド側責任者のアルバさんは、肉以外の部分も興味ありそうで、地竜の身体から取り出された魔石を熱心に見ていた。
確かに地竜の魔石サイズは大きく、重量だけで三~四キロはありそうだった。
まぁ今回は捜索活動依頼で来ているので、討伐報酬が貰えるわけじゃないので、魔石については惜しい事をしたとも思える。
おそらく素材はギルドの総取りという事になるんだろう。
まぁ強硬に所有権主張して軋轢産んでも仕方ないし、こちらは本来、参加者であるリットルさん達以下の護衛が目的だ。
仕方ないと割り切るしかない。
アルバさんに今後の事を聞いてみたが、今のところは夜間移動するより村の方が安全なので、一晩村で過ごしてから街へ撤収する予定だとの事だ。
「遺骨一つ発見も回収も出来ず帰還なんて、ギルド長の怒る顔が怖いよ。」とのアルバさんのぼやきに、『行方不明者の捜索』という目標は未だ達せられていない事を思い出した。
『霊界通信機』から聞かされた話では、未だ生存しているとの事だが、そちらは皆を街へ返してから、再び取って返し、ソーフォニカの増援を待ってから調べる事になるだろう。
しかし今回の地竜騒動と、行方不明者の大量発生と、なんらかの関係が存在するのだろうか?
現状では情報が少な過ぎる。
夜がふけていく空を見上げながら、これ以上何事も起こらない事を私は祈ったが、祈る対象についての事は、この時点では忘却の彼方だった。
はやく朝が来て欲しい……。




