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第三十四話 「鎖の国②」


 森の中をゆっくりとしたペースで私達は歩いていく。


 急いてもロクな事にはならない、むしろ罠とかあったら真っ向から突っ込むことになることが判っているからだ。

 周りの冒険者達はというと、やはり歩くペースはゆっくりだ。

 ベテランが多いせいか、それともむしろ活動期間が長くなれば、支払われる額は日給制という事なので、がっぽり稼ごうと考えているのか……どちらかは判らない。

 だが、こちらにとっても都合がいい。


 見知った顔もいるし、出来る限りは全員無事に連れ帰りたい。

 その事を考えれば、目が届く場所に居てもらった方が良いのだ。


 ギルド側も今までの行方不明者の多さから、冒険者達をあまり散開させたがらないようだ。

 強力な魔物が出たら、数の暴力で圧殺した方が良いとの判断なのだろう。

 その堅実さが今は有り難い。


 そんな風に、森の中を北に向って一キロ程歩いただろうか?


 集団の前方で偵察を請け負っていた猫獣人の冒険者が、妙なモノを見つけた事を知らせてきた。


 地面にたくさんの細い穴が開いて水が溜まっているのだ。

 まるで、なにかの集団がその場所を通った跡に見える。

 ただ、その一つ一つの形とサイズが明らかにおかしい。

 形自体は細長い四本指を持つ鳥の足型みたいに見えるのだが、サイズが一メートル近いのだ。


 そんな鳥が、存在するものなのだろうか?


 ギルド側責任者の『アルバ』さんが、一応学者でもある『リーテシア』を呼び出し、近づいてスケッチを始める。


「う~ん……これはヤバいかも。脚の形から獣脚類の類だと思うんだけど、深さから考えて体重は四~五トンはあるね」とリーテシアさん。


「『地竜』ですか?」


「その一種だね。

 それも足跡から数えて集団だね。

 数は二十頭以上いるかな?」


 『地竜』?

 元の世界でいったら地竜といえば、たしかミミズの腹の内容物を乾燥させた漢方薬なんだが……

 そんなわけは無いよなぁ……?

 一応リーテシアさんに聞いてみるとこにする。


「『地竜』ってどんなモノなんですか?」


「その名の通り、地を這う『竜』だよ。

 空は飛ばないけど、身体に鱗が生えてるのと羽毛が生えてるのと二種類ある。

 これは多分鱗が生えてる奴だね。」


 竜ってそんなものが、そこら中に闊歩してるのか!?


「脚の形から考えると『タルヴォス』って言われる種類だと思うけど……」


「……ちなみに聞くけど、それって危険な奴?」


「そりゃ物凄く危険な奴。

 肉食でこのサイズだと人なんて一齧かも……」


 えええええええ!!??


「こ、こんなデカいなら動き鈍いだろうから、何かあっても逃げられるよね……?」


 アルバさんとリーテシアが同時に頭を振った。


「そんなワケは無い。

 こいつらは元は鳥から進化した種だし、蜥蜴なんかと違い温血動物だよ?

 もし走られたら人間じゃ絶対逃げ切れない。」


 ががーん!!!!


……というか待て!

 たしかお前が何か何か言うと必ずといっていいほどバッドなフラグが……。


「地竜が出たぞぉおおおお!!」


 早速かよ!?


 周りの冒険者達が急造とはいえ、慌ててフォーメーションを組む。

 声がした方向から発見したと思われる冒険者が、慌てたように走ってくる。


 そしてその後ろから、全高三メートルを超す、巨大な『恐竜』じみたモノが走ってきた。


 なんだありゃ!?まさか『トルヴォサウルス』!?

 ジュラ紀後期に生息してた恐竜がこんなとこに!?

 此処はいつからジュラシックな公園になった!?


 反応した冒険者の中からエルフの弓士が、いち早く矢を射掛けるが全然効いていない!

 魔法を使える者が呪文を唱えようとするが、間に合いそうにない。


 こうなったら!!


 魔法の鞄から『疾風の杖(ゲイル・フェルラ)』を取り出した私は、大急ぎで起動させ恐竜じみた『バケモノ』の目を狙い、集中連射した。


 シュバ!シュババババ!


 大したダメージは与えられないようだが、目の近くに集中的に弾着するのを嫌がり、そいつの脚が止まった。

 そこへ、走り出したフロレンティナがジャンプ一閃、奴の頭部へ『雷鳴の斧(アクス・トナーンティ)』を右横から叩きつけた!


 一瞬ドカン!という音と共に閃光が走り、骨と肉片らしきものが飛び散るのが視えた。

 地竜はヘビー級ボクサーからのパンチを食らったように、横方向に身体をくの字に曲げて吹っ飛び倒れた。


 これは凄い……。


 フロレンティナが反応してくれなかったら危ないとこだったが、『オントスα(アルファ)』と『雷鳴の斧(アクス・トナーンティ)』の組み合わせは、これ以上に無い程に強力だ。

 一瞬とはいえ、発生した高圧のプラズマは見事、奴の肉どころか骨まで粉砕し、脳漿をぶちまけさせた。


 ただし、視てた皆はあまりの威力にドン引きしたようだ。


 皆の沈黙が痛い……。


「どーです!やりましたよ!スターリング様!!

 地竜最初の一匹目はこの『フロレンティナ』が召し捕ったりー!!!!」


 いや……お前興奮しすぎだから……

 あとここでのお前は元兵士で冒険者に転職した『()()()()()』だからな。

 偽名使ってるの忘れるんじゃない。


 あと()()()()()というのは、生きて捕縛した場合だからな?

 ()()とは違うんだからな。


「……と、取り敢えず一匹倒しましたけど……。」


 目が点になって静止状態になってるリーテシアとアルバさんを、正気に戻す為に話しかけたのだが……。


「え……えーと凄いよね。そこの花柄全身鎧さんは……。」


 アルバさんは驚きのあまり、ギルド員なのに幸い名前も忘れてくれてるようだ。


「ええ、冒険者になったばかりとはいえ、さすが元兵士だった『()()()()()』さんですね。」


「『()()()()()』?」


「はい。兵士時代、私の上司でしたよ。」


「……そ、そうなんだ……戦闘力だけなら第十種ランクにしとくのは惜しいくらいだね……。」


「そ、そうですね……」


「「ハハハハハッハハハ。」」


 乾いた笑いが、とってつけたような笑顔二人組から発せられた。


 すいません!大変非常識ですいません!


「『マリアネラ』?」


 今頃になってフロレンティナがボケる。


「いやだなぁ!貴方の名前でしょ!!『()()()()()』さん!!!!」


「ああ!そうだった!!

 地竜最初の一匹目はこの『マリアネラ』が召し捕ったりー!!!!」


 いや、だからそれはもういいって……

 あと召し捕ったのくだりがそのまんまだけど……


 一応、頭が再起動したらしいリーテシアが、倒れた地竜を調べに近寄っていく。


「うーん……これは凄いねぇ。どうやら雌の個体みたいだけど、卵産んだばかりで気がたってたのかなぁ?」


「卵?」


「さっき足跡からして、最低二十匹は居るって事は話したよね?

 て事は、ある程度の群れが住み着いてると考えられるワケで、この雌にも連れ合いが……」


 おい!

 ここでまたバッドなフラグを立てるんじゃない!!


 彼女が言い終わる前に、地竜がやって来た方向からさらなる群れが向って来るのが視えてしまった。

 皆の顔が引きつっているのが判る!




 あああああ!!今日はなんてバッドでファットな日なんだぁあああ!!??


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