第三十三話 「鎖の国①」
結局、親衛隊やソーフォニカと無線を交えた会合では、さらなる増援戦力を送って貰う事で決着がついた。
ただし、出発までには間に合わないだろうという事で、合流は現地の森の中という事になるだろう。
親衛隊は、冒険者ギルドでの認識票を持っている者は私やリットルさん達と共に、不明者捜索依頼に応募して行動を共にする班と、現地で私達を『オントスβ』と共に支援する班、の二班に別れて行動する事になった。
問題になった事といえば、ゴブリンの巣から回収した認識票の持ち主が、ゴブリン退治の依頼を受けたまま行方不明となっていた事により、討伐依頼が未達成状態になっていた事くらいだ。
その分違約金の支払いが必要になったが、この程度は必要経費だと割り切った。
お金については無いワケではない。
召喚された時に周りの死体から集めといた分や、ソーフォニカの元のご主人が溜め込んでいた分が有る。
更には取り込んだ海水や海中の泥から回収した微小な金属をかき集め、もともと持っていた硬貨から型を作って鋳造した”ニセ金”(混合率は本物と同じ!)まであるのだ。
おかげで現状では、金に関しては苦労していない。
成り済ましについては、誰一人バレなかった。
元の持ち主が冒険者ギルドに登録した場所が、この街とは離れている為に当人の顔を知る者が居なかったおかげだ。
写真などという物が存在しないこの世界ならではの奇跡だ……(オイオイ)。
ついでに、私の親衛隊長を務めている『フロレンティナ』さんも冒険者ギルドに登録して貰った。
私達の護衛の班について貰う為だ。
支援部隊の班は、風の精霊の『ソコロ』さんに率いて貰う予定だ。
全ての準備を整え、あとは当日の出発を待つのみとなった。
そして……
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
当日となり、驚くべき事が四つも重なってしまった!!。
捜索依頼を受けた冒険者の集合場所に、集まった私達の目の前には、以前助けた貴族の娘が立っていた。
「今回の捜索に街の領主の代行として、令嬢の『アルドンサ』さんが同行して頂く事になりましたー!」
今回の捜索に同行するギルド側の責任者の女性職員、『アルバ』さんからの説明を受けた私は驚きのあまり、目が点になりかけた。
気のせいか向こうから私に対する熱い視線が注がれてる気もするが、無視……できるだろうか?
相手、貴族なのに……。
「あと街でやり手の錬金術師として名高い、『コンチェッタ』さんも、今回の捜索には参加してくれまーす!」
護衛対象が一人増えた……。
なんつー面倒な……
私の隣で『リットル』さんが朱い顔をして恥ずかしがってる。
わかるぞ、授業参観されてるようなものだしな。
「そして今回、森の隠者として名高いエルフの学者『リーテシア』さんが、参加の為に駆けつけてくれましたー!」
「七百五十六歳!!」
見覚えがあり過ぎるその人物を前に、思わず私は抑えきれず口に出してしまった!!
「なんだよ!そこの君ぃー!!バカにしてんの!?(怒!)」
指を突きつけられ怒られてしまった……。
相変わらずのドワーフにしか見えないチンチクリンだ。
あの時と姿が変わってるからバレないとは思うが、この偶然の出会いは凄すぎる!!
「……失礼、お気になさらず続けてください……。」
思わぬ失態で周りからの注目を浴びてしまった……この羞恥プレイは恥ずかし過ぎる!
ギルド職員さんもいきなりの事で、どうフォローすべきか判らずオロオロ状態だ。
「えー、『リーテシア』さんは、ご存知このあいだの『ダンミアの村』で起きた『一角獣』騒動で、見事魔法でトドメをさした人物です。
学者としての見識で、この行方不明者多発の原因を探っていただく為に、急遽来て頂く事になりました。」
あの時のユニコーン、溺れ死にさせたのお前かよ!!
思わず心の中でツッコミ入れてしまった。
そういえばあの時、村長が「森の奥に住んでる魔法使いのエルフ」とか言ってたけどお前だったんだな……。
……というか待て。
たしかお前が付いて来るとバッドなフラグが立ちまくる気がするんだが……
大丈夫なのか?
「そして、ミナゴロシ教……失礼、ミーナ・ゴローズ教会から派遣された神官『ベルナルダ』さんでーす!」
「がめつい神官さん!?」
「がめついは余計です!
というか、スターリングさんじゃありませんか、ニコラ・テスラ教徒の。」
思わずまた口に出してしまった。
というかあの神官さんって名前『ベルナルダ』さんっていうのか……。
今まで関わってきて初めて知ったぞ!
仕方なくニガ笑いしながら小さく手を振る。
しかしギルド職員さんも今、ミナゴロシ教って言いかけたな。
やっぱあの教会って邪教なんじゃないか……。
そして今度もやはり財布が軽くなるフラグが来たという事なんだろうか……?
というか今回、顔見知りばかりがここまで集まるなんて、なんてフラグだよ!
これであの二十代ギリギリベテラン受付嬢まで参加してたら、連載漫画なら打ち切り決定の最終回フラグだよ!
心配事が増えたせいで、心労で胃に穴があきそうです。
ソーフォニカに頼んで、私の新しい身体早く用意して貰おう……。
そんな私にとっての心労的なアクシデントがもあったものの、集団は『ダンミアの村』付近に向って無事出発できた。
『オントスβ』二体を含む『ソロコ』さん達支援部隊は、既に現地に向けて出発している。
普段は偽装して隠れていてもらい、私達が危機に陥ったら合流して貰う予定だ。
途中の道すがら貴族令嬢の『アルドンサ』さんに馬車上から声を掛けられまくった。
「一緒の馬車に乗りませんか」だの、「我が家に仕える気はないですか?」とか、「私じつは悪役令嬢だから仲良くしとくと後々お得よ」だとか……
馬車に乗る件はお断りしたし、どこかの家に仕える気もない事も伝えた、最後の悪役令嬢うんぬんは意味判らないので保留にした。
というか悪役令嬢って分野が違うだろぉお!分野が!!
神官の『ベルナルダ』さんは、この間私からあれだけ喜捨を取り上げたくせに、「神殿の中での私の扱いが悪い」だの、「金集めの成績がなまじっか良い分、周りからの妬みや嫉妬が酷い」だの、しまいには「神殿クビになったら結婚して私を養って!」だのダメ人間な事を言い出したので閉口する。
初めて会った頃は、美人で真面目で立派な人だと思ってたのに、この凋落っぷりはどうしたものなのか?
まぁ恩人である事には違いないので、ホントに神殿クビになったら、ソーフォニカに相談しよう。
でも結婚の件は勘弁な!
ドワーフにしか見えないチンチクリンのエルフ学者『リーテシア』は、「なんで私の年齢知ってるんだよ!」とか「現在は正確には七百五十七歳なんだぞ!」とか、「年上の私をちっとは敬え」とか煩く文句を言ってくるんで参った。
ギルド職員も当人がウザい事を知っているのか、私に助け舟を出してくれそうにない。
いっそこの件が終わったら、一応エルフには違いないので『拠点』に連れ去って遺伝情報源として利用してやろうか!などと不遜な事を考えたが、他の精霊達の満場一致で否決されそうなので止めた。
地下水道の件もあるのでそのうちヒーヒー言わしてやりたい。
ちなみに間違っても性的な意味では無いからな!(私は誰に言ってるんだ?)
そんなバカなやり取りをしているうちに、ダンミアの村へ着いてしまった。
ギルド側の支援部隊(ようするに冒険者への炊き出し部隊)と、貴族令嬢の『アルドンサ』さんは、ここに拠点を作って待つ方針で、私達はそのまま森の方へ向かう。
正直、『コンチェッタ』さんもここで待機して欲しかったのだが、付いて来ると言って聞かないので私達と班を組むことになった。
ここへ置いていかれるのは、あとは神官の『ベルナルダ』さんくらいで、ギルド側の責任者の女性『アルバ』さんは、一緒に森に入る事になるらしい。
本人も元冒険者で、第四級までいった人物というので、それなりに頼りにはなりそうだ。
森はこの間のような不気味な静けさこそ無いが、予め事前情報を『霊界通信機』から聴かせられてるせいか、妖気のようなものを放っているようにも視える。
そんな中へ入って行くのは正直つらいが、周りに居る人の目が多い分、ここで怖気づいた態度を見せるわけにもいかない。
私達は、森への第一歩を踏み出した。




