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第三十話 「貴族屋敷から来た少女⑥」


 『オントスβ(ベータ) AC型』での訓練は続いてるようだ。


 だが、やはり八本脚の仕様という点がネックになっているのか、スムーズにはいかないらしい。


 まぁこの仮想世界ではデータの形で『オントスβ(ベータ)』を訓練用に何台でも用意出来るし、実体として建造されてるのは二台にしか過ぎないのだ。

 現在訓練を受けてる中で、一番まともなの二人を『オントスβ(ベータ)』の正式操縦者にすればいい。


 まともに扱えるようになれば、戦闘用オプション付ければ今のところ、私達が保有する最強戦力になる筈なのだ。


 ただ問題は、隠密(ステルス)性などというものはつゆほども考えてないので、他の冒険者に見られたら確実に”脅威”とみなされるだろう。


 現地へ出発させる時は迷彩と、念入りな偽装は不可欠だ。


 他にも、『オントスα(アルファ) H型』の扱いに長けた六人の精霊を、私の親衛隊として追随させる事になるという。

 『フロレンティナ』に渡したのと同じ特殊な仕様で、内部に表情も動かせる精密な人形を内蔵しており、『デルフィナ』達がゴブリンの巣で見つけた遺体から回収した、冒険者の認識票を持たせて成りすます事で、街への侵入も視野に入れている。


 ちなみに「その六人に『デルフィナ』一派は混ざってないから安心して欲しい」とソーフォニカに言われたが、どんだけ信用ないのか……デルフィナ一派




 ちなみに『オントスβ(ベータ)』を操る二人については、当然ながら街に入る予定は無い。




 問題は私自身の装備だ。


 いくつかロマン武器は、仮想空間内で造り実験を繰り返したものがあるが、慎重な選択を迫られる。


 『雷鳴の杖』は、相手が集団で敵味方が入り乱れるような状況でなければ、強力な戦力ではあるのだが、準備するのに時間が掛かるうえ、チャージ時間というウィークポイントを抱えている。


 二番目に個人的に気に入ってるロマン武器と言えば、『竜の咆哮(ドラク・ルージェ)の杖』だ。

 これは構造も簡便で準備に時間も掛からない。

 『拠点』に大量に存在するマグネシウムの廃材を再利用した武器で、原理は鉄片とマグネシウムの欠片を、燃焼させながら前方に向けて、投射するというものだ。

 発射されるとまるで、”竜がブレスを放った”ように見えて派手なので、個人的には大好きなのだ。


 ただ問題は、今回の”依頼”で捜索が行われる森では、火事を起こす危険性が充分あり、とても使えそうにない。


 なにしろ今回は、周りに他の冒険者も居るのだ。

 巻き込むわけにもいかないだろう。

 射程があり過ぎるのも考えものだ。

 また効果が派手すぎるのも問題かもしれない。


 そこで、第三のロマン武器である、『疾風(ゲイル)の杖』を用意して持っていく事にした。


 これは射程こそ五十メートル程と短いが、ある程度の速射が効くものだ。

 原理は簡単で、『磁性流体』をコイルによる電磁加速と魔法陣の複合で加速し、ノズルから超音速で発射するというだけのものだ。

 一回に発射される磁性流体の量は1.5グラム程度だが、初速は八百メートルを超えエネルギーも五百ジュールを超える。

 この武器の良いところは、磁場で保持されてるだけの物体を弾丸としているので、撃たれた相手の傷を調べても何にやられたのかが判別しずらいという点だ。

 命中と同時に弾丸はコナゴナになってしまうので、痕が判りにくいのだ。

 それに距離が遠いと急速にエネルギーを失うので、流れ弾で相手の後ろにいる人を傷付ける可能性も低い。

 動力源は、相変わらずの魔導タービンだが、『雷鳴の杖』と違い最初の起動にワイヤーを引っ張る必要が無い。

 これは最初の起動だけ、マグネシウム空気電池でスターターモーターを回し、タービンを回す仕掛けへと進化したからだ。

 あとは弾倉代わりのタンクに入れられた磁性流体を、ピストンポンプで一発分づつ薬室にあたる部分に連続的に放り込めば、連射すら可能だ。


 白兵戦用の武器は、『雷鳴の斧(アクス・トナーンティ)


 これも形状は斧の形をしているが、魔導タービンを内蔵しており、起動してから使うと先端部分がモノに当たる一瞬だけ、高圧プラズマを発生させ相手を溶断するという強力武器だ。

 ちなみに起動させなくても、普通に斧としても使える。


 これらが今回のメインの武器になる予定だ。


 防御面に関しては胸甲や手甲、盾など、ふんだんに不燃マグネシウムを使った。

 多少厚みはあるが、軽量なのでなにより疲れにくい。


 ただこの世界、未だ青銅器文化に近いせいで、そのままの色では目立つこともあり、表面は鹿革で覆って隠す事にした。

 銀白色の装備などミスリル製と間違えられ、目立つ事により余計な詮索を生みかねない。


 地味でいいのだ地味で。


 しかし今更なのだが、コッチへ来る前に『コンチェッタ』さんに頼んで、『霊界通信機』でどんな危険が待ち受けているのか聞いておけばよかった。


 具体的な『脅威』の正体が判れば、こちらから用意していく物品も、絞り込みが楽だったという事に、いまさら気付いたのだ。


 初心者冒険者セットとして、ロープやトーチにランタンは勿論だろう。

 あと、変わったところでは味方に位置を知らせる為の発煙筒。

 食料と水は当然ながら一週間分以上持っていく。


 そして他にも”ロマン武器”でこそないが、”ロマン装備”と言えるものは、いくらか準備した。

 魔法の鞄の恩恵もあり持っていける分量に余裕があるから出来る事だ。

 それらは以前から仮想空間ではなく、実戦で利用してみたいと思っている試作品でもある。


 まるで遠足に行く前の子供のようだが、準備だけは万端にしておきたい。


 そんなふうに、準備や訓練を行っているうちに一週間が経ち、ホドミンの街へ出発する日がとうとう来てしまった。


 一緒に行く仲間のうち六人の親衛隊率いる隊長はなんと『フロレンティナ』に、『オントスβ(ベータ)』二機を率いる隊長は、不安が残るが『デルフィナ』になった。


 あと珍しい事だが、一緒にいく精霊達は殆どが『大地の精霊』なのだが、親衛隊の中に一人だけ、『風の精霊』が混じっていた。

 『ソコロ』さんという実直な人柄の精霊で、どうやら『フロレンティナ』のお目付け役としてソーフォニカに付けられたらしい。

 風の精霊らしく、周りの気配とかを察知するのが上手いというので、偵察にも役にたちそう?という理由もあったのかもしれない。


 そんな私達のパーティーは、『オントスβ(ベータ)』を乗り物代わりとしての背中に乗り、ホドミンの街へ向けて夜中のうちに出発した。


 ただでさえ粗忽者の『デルフィナ』の、未だ慣れない操作のせいで、みな乗り物酔いを起こしながらも、暗い森の中の街道をひたすら私達は南に向っていく。




 そのさきに、何が待ち構えているかをまったく知らないが、全員で当たればなんとかなるだろうと、楽観主義を信じて……ホントに大丈夫だよなぁ?

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