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第二話 「聖者が街で殺ってきた②」

 昔、神と会った事がある。


 荘厳な大理石の神殿の中で、光り輝く眩しい存在に、こう尋ねられた。


「汝、望みを語れ」


 それに対し、私はこう答えた。


「地位!金!名誉!」


「それだけか?」


「ついでに女!特に美女のハーレム!!」


 そんな暴虐無人な私にたいする、神の返事はどうだったのか……


 ()()()()、覚えていない。


 なにしろ、その返答を聞く前に私は夢から醒め、気が付けば布団の中だったのだから……。




 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇




「なるほど、それじゃお前は惜しいところで神様からの褒美とやらを貰い損ねたわけだなw」


 私が語る昔視た恥ずかしき夢の話を、後背にケラケラと笑いながら茶化す白衣の男。



 俺の上司兼雇い主の『須藤 嶺二(スドウ レイジ)』博士だ。



 昔は某大学で教鞭を取っていたらしいのだが、どうやら学内での派閥争いで敗れ?今はこんなわびしい寂れた私設研究所の所長をしているらしい?


 どうもときおり漏らすたわごとを総合してみると……


 『ロボット関連の研究をしてた教え子がベンチャー企業を立ち上げたおり、乞われて自らの研究内容を提供してやったら、その企業がアメリカの軍需に喰い込んだ。


 その事が「軍事関連の研究は許さん!」なる方針を持つ学長にバレて逆鱗に触れ、大学から『()()()()()』ということらしい。


 そして、学長にその件をタレ込んだのが、学内での彼の対立派閥だった某教授、つまり簡単に言えば「嵌められた!」ということらしい。


 その出来事のせいか、事あるごとに、「私はわたしを放逐した学会に復讐してやるっ!」などと、どっかのマッドサイエンティストさながら台詞が口癖な、まことに楽しいヒトである。(他人事と思えればな。)



 この研究所には、まともな人が(私以外)居つかない理由(ワケ)、その一のようだ。



 薄給とはいえ私のような浅学な輩が、ブラック企業とは真逆のこんな良環境に居つく事が出来たのは、そんな過去があったかららしい。


 そんな博士を、密かに心の中で、『ストレンジラブ博士』と愛称をつけ私は敬愛(?)していた。



 それなりに楽しい生活だったのだが、まさか異世界召喚されて頓挫する事になるとは……当時は夢にも思わなかったのだ……




 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇




 過去の事を夢うつつに思い出しながら気絶から醒めてみると、あたりには赤錆のような匂い、いわゆる血の匂いとやらが漂っている。


 周りには呻く怪我人達と、人型をしてるが、あきらかに人間とは違う化物達の死骸の数々。



「召喚された者達はひとり残さず収容せよ!」


 頭に血まみれの包帯を巻きながら、まだ動ける兵士達に指示しているのは最初に頭に矢が突き立った王様らしき人物だ。

 どうやら死ななかったようだ。


 どんな人物かは知らないが、取り敢えず悪運は強いらしい。

 禿げてるワケじゃないが血まみれで叫ぶ姿が落ち武者のようでチョット怖い。


 無残にもそこもかしこも破壊された神殿の中に、壊れた壁から馬車が運び入れられ、俺以外の召喚されたらしき人々や兵士達が乗せられて行く。


 何も判らず置いて行かれるのは嫌だと、慌てて環状列石の影から飛び出そうとした時。


 先に乗せられていたらしい、負傷した兵らしき人物が馬車から投げ落とされのを見て、その場に凍りついたように私は身も心も静止してしまった。


 投げ落とされた兵士を助けようと抱えた兵が、「まだ生きてるぞ!」と抗議の声を上げるが、投げた男からの返事は「うるせぇ!もう助かりゃしねぇよ!!」の声。


 そのやり取りを目撃した時、その場に名乗り出る勇気がしぼんだ。


 名乗り出た後の、自分の末路を見たような気分になったせいだ。


 馬車は国王や神官達、そして兵士達の生き残り、それになにより隠れていたオレを除く”召喚された人々”全員を乗せ、神殿を出て離れていく。


 跡に残されるは、人や化物の死体だけ……。


 『こんな場所に残っていても、いつまたこの化物の仲間達が、戻ってくるか判らない。』


 そんな焦りが、私の心と体を強引に突き動かし始める。


 まずそこらに転がっている死体の持ち物を調べ、使えそうなモノを集める。


 兵士達や化物の死体からコインらしきモノが入った革袋が幾つも出て来た。

 おそらくこの世界の貨幣だろう。

 人里へ出た後で必要になるかもしれない。


 羅生門の乞食な気分を味わいながらも、元の持ち主に手を併せながら掻き集める。


 他に干し肉や固いパンなどの保存食。


 そしてなによりもファンタジーらしい面白いモノを見つけてしまった。


 若干身分の高そうな格好をした兵士の遺体から地図入れのような鞄を見つけたのだが、中を開けて逆さにすると、どう見ても外観から入るサイズを超えてるモノがバサバサと落ちて出る。


 もしや?と思い、先程集めた保存食の類を入れたら目の前で小さくなりながら入っていく!?



 どうやらこれがファンタジーに出てくる定番アイテム、”魔法の鞄”らしい!



 さすがに”無限収納”とまではいかないようだが、鞄に入ったモノを見る限り、モノの大きさや重量を、ニ十分の一程度に小さくして入れられるようだ。

 勿論、鞄から出すと大きさも重量も元に戻る。


 さすが異世界!原理はどうなっているのかサッパリ判らないが、やっぱり凄い。


 もしかしたら、街に入る時に身分証のようなモノが必要になるかもしれない?


 そんな事を思い付き、それらしきモノも探したが、兵士達が首に掛けてる”認識票”のようなモノ以外見つからない。

 止む無く私と出来るだけ背格好が似ている兵士の遺体から『ソレ』を拝借する。


 認識票の文字を見てみると、ローマ字に似た文字が打刻されている。

  実際のアルファベッドに比べると、上に点があったりアンダーバーが付いてたりと、全く同じでは無いようだが、どうやら名前らしき欄の文字は『()()()()()()』と読めなくもない。



 よし、今日からオレは、元兵士の『スターリング(仮)』だ。



 元スターリングさんの遺体に手を併せながら、今日から成り代わる事を謝り、持っていた短剣や剣、そしてマントも譲り受ける。



 そしてその場を立ち去ろうとした時、偶然にも”あの”馬車から投げ落とされた兵士が目に付いた……。


 どうも、その兵は目に付く場所に怪我や血の痕が見られない。

 胸は上下しており、まだ息があるように見える。

 投げ出された時に脱げたらしい兜の下の顔は、端正な女性のようで髪は細絹のような色素の薄い金髪、そしてなにより耳の先端が尖っていた。


 まるで、伝説にある『()()()』のようだった!!


……て事は……!?


 あらためて周りに転がる化物の死体を見てみる。


 背の低く、緑の肌をした鼻が長い小人はゴブリン?

 灰色の巨人はトロール?いや本によっての解釈ではオークとも考えられる。

 緑や茶色の肌をした体格の大きいのはホブゴブリン?


「そんな……ゲームかネット小説じゃあるまいし……?」


 まだ息がある……というか一見無傷の”エルフ”らしき女性兵士を、見捨てていけるほど私は冷徹にはなりきれるものではない。

 けっしてスケベ心を出したワケでは無いという事をこの場を借りて言っておく。(私は誰に言ってるんだ?)


 遺棄された兵士用の装備品から、輜重兵が使っていたらしき背負子と縛帯を見付けた私は、重量物になりそうな鎧をエルフから引っ剥がした。

 そして体を背負子に括り付け、馬車が消え去った方向へ足を向ける。



 とりあえず人が居る場所へ辿り着ければなんとかなるだろう?



 ただそれだけを心の拠り所としながら、背中に背負ったエルフの重みに耐え、足を動かし始めたのだ。


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