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第二十六話 「貴族屋敷から来た少女②」

 

 チュンチュンと餌を探して囀る小鳥の声と同様、相変わらずホドミンの街の朝は早い。


 宿の窓から見える下の景色は、働き始める人々の喧騒をふくんだもので、相変わらずの平和なものだ。





 宿を出る前ソーフォニカ相手に、「『()()()()()()()()』諦めて帰ってきていいかなぁ……?」などと愚痴でもこぼそうかと、いつもの鞄から無線機引き出し送信ボタンを押した。



「シーキューシーキュー チェックメイトキングツー こちらホワイトルック どうぞ。」


 《は~い! こちらソーフォニカ放送局、本日はいいお知らせがありま~す。》


 いきなりの明るい声が心に染み入る。


 いろいろツッコミドコロがあるけど、その件はもう忘れよう……。


 それより、良い()()()()というのは、ホントに『()()』お知らせなんだろうか?

 嘘だったら、()()()の場にて、一文字の違い分コンコンと小一時間程説教してやろうかと思う。



 《拠点の外で、『アオントスα GB型』使って暴れ回ってた『デルフィナ』達が数体のエルフの死体確保に成功したそうで~す。》





 なに!?よりによって、頭の中がアレの『デルフィナ』達が!?

 そんなバカな!!!!





 《なんでも人里近くまで進出して魔物狩りやってたら、ゴブリンの巣を見つけたので強襲、中から生きて虜囚となっていた人間の女性三名とエルフ女性一人を救出、更に十数人分の遺体を見つけたそうですが、うち三体分はエルフの遺体だったそうで~す。》




 がーん!!




 よりによってエルフの死体獲得競争に、あの『デルフィナ』にすら私は負けたのか!?

 あの『デルフィナ』にすら!?




 《『デルフィナ』達は、「これをネタに、ご主人様からご褒美として、オントス用の新装備をせしめる!」とか調子にのってますが、いかがいたしますぅ?》




 オオゥ マイ ゴッデスゥ!

 神はそこまで無情なのか!?

 かくなるうえは……




「ソーフォニカへ、『デルフィナ』達にはご褒美として後日になるが、新装備じゃなく『新型オントスを与えてやる。』とかいって機嫌をとっておくように。それから虜囚となっていた人々については大丈夫か?」


 《はい! 心身ともに衰弱が激しかったので、現在は拠点にあるホムンクルス製造用の人工子宮を、医療ポッド代わりにして治療中ですが、その後は如何いたしましょうか?》


 人工子宮を医療ポッド代わり?

 私の時は、ソーフォニカ本体の脳味噌から、足だけ突き出し『犬神家!』な状態だったが、進歩したんだな……。

 私の元の身体はもはや、ソーフォニカ本体の増設メモリ扱いにされているが、なんとなく扱いの差に含むところが無いでもない。




「その件については、私が戻るまで保留にしておいてくれ。」


 《了解しました~。ではそれまで私の仮想世界で、夢でも見ていて貰いま~す。》




 いきなり計四体分ものエルフの遺伝情報が手に入ってしまった……。


 任務としては、コレで放棄しても良くなったが……一体も確保出来なかった私の立場は!?


 これでは、せめて一体分くらいはエルフの死体か遺伝情報持ち帰らないと、恥ずかしくて帰るに帰れないし、私のプライドも許さない。


 どうしたものか……




「鬱だ……。」




 そう思いながら、階下の宿屋のカウンターで、身体を吹くお湯でももらおうかと部屋の扉を開けたら……。


「お待ちしておりました。スターリン様。」


 ……パタン!


 私は扉を締めた。

 扉の向こうに、昨日助けた貴族の娘の姿があった。




 まずったぁ!!




  というか私の事がバレてる!?


 取り敢えず、私とフロレンティナは二人、窓から飛び降りて外から宿屋のカウンターへ向かい、チェックアウトを済ませて逃げ出した!


 こんなところで貴族の娘との出会いフラグが立っているとは……


 テンプレ通りならそのまんま貴族の娘といい仲になり、やがては貴族デビュー、そして社交界の華となり……最後にはドロドロとした貴族同士の政争に巻き込まれる……と。(妄想)


 さすがにソレはマズ過ぎる!


 それに貴族になれば、やがては王族と顔を会わせる事になるかもしれない。

 そうなれば私の身元も詳しく調べられ、元兵士を装ってるところから嘘がバレ、召喚者である事が気付かれてしまう!!


 あの娘が部屋まで来た事から考えると、ギルドからも何らかの情報が流出した可能性が高いと思われる。

 こちらも情報収集の為、とりあえずギルドに向かった方が良いかも知れない。


 そう考えをまとめると、私とフロレンティナは、そのままギルドへ向けて走って逃げた。




 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇




 早朝の冒険者ギルドは、依頼掲示板が更新されてない為に、受付は未だガラガラ状態だった。


 情報を知ってそうな人物として、以前助言を求めたベテラン臭漂う二十代ギリギリな受付嬢さんのところへ足を運んだ。


「あら!スターリンさん、貴方また何かやったんですか!?」


 いや、ギルドなんだからいい加減人の名前まともに憶えろよ……しまいにはシベリア送りにするぞ。

 この世界、シベリアあるか判らんけど……


「私の名前は『スターリング』ですが……、それとまた『()()()()()』とは?」


「昨日ギルドに『()()()使()()()()』が来て、貴方の事について情報提供を求められたんですよ。

 ギルドとしての立場もありますから、止む無く差し障りのない程度で、お話せざるおえませんでしたが、一体何をやったんですか?」


 仕方なく私は、昨日街道で盗賊に襲われてる貴族の馬車を助けたが、面倒に巻き込まれるのはゴメンと、後のことは街の門番に任せて帰ってきた事を告げた。


 勿論、「命が惜しかったら、その場に平伏して金よこせ」と叫んだ事は内緒だ。


「……ああ、そういう事だったんですねぇ。」


「ええ、私も『お貴族様』と知り合うような厄介事は、出来るだけ避けたかったものでして。」


「でもいま名乗り出たら、それなりに謝礼が出たと思いますよ?勿体ないんでは?」


「その貰った謝礼目当てに、強盗に襲われるなんて可能性も無きにしもあらずですからね。

 それにその事件ってチョットきな臭いモノを感じたものですし……。」


「え?……きな臭いって?」


「盗賊側が、異常に強かったんですよ。当初顔も隠してましたし、貴族の護衛も圧倒されてました。

 あれ絶対ただの盗賊だけなんかじゃ無かったと思いますよ?半分くらいは雇われた本物かもしれませんが……」


「ああ、なるほどねぇ……貴族同士のゴタゴタとか、あるかもねぇ……。」


「そんなワケで、以降は出来るだけ『知らぬ存ぜぬ』で通してくだされば有り難いんですが……。

 今朝、泊まった宿の部屋扉開けたら、助けた貴族の娘が部屋の前に立ってたのを見た時は、心臓が口から飛び出して戻すのに苦労しましたよ!」


「それは心臓飲み込むの苦労したわねぇ」


 そうだよ!最初ストーカーかと思って怖かったわ!


「でもオカシイわねぇ?

ギルド会館に泊まってるなら話は別だけど、それ以外の宿だったらギルドでも居場所の情報なんて把握してないから、教えようにも無理な筈なんだけど……。

 ところでスターリンちゃん、今日は何か依頼を受けるの?」


「いえ、今日は調べたい事があるので休みにしようかと……」


「そういえば『リットルちゃん』、ほら、貴方が連れ帰ってくれた娘、お礼がしたいって探してたわよ。」


「……ああ、その事なら大した事してないからいいとでも言っておいてください。

それでは。」


 取り敢えずある程度の情報は仕入れた。

 どうもあの『お貴族様』は、ギルド以外のツテも使って私の事を嗅ぎ回ってるらしい。

 これから注意が必要かもしれない。


 ギルドでの用も終わったので、出口の扉へ向かおうとしたところ、目の前で元気よく扉が開いた。


 中に入ってきたのは先程の話題の主、猫獣人の冒険者の『リットル』さんだった。


 リットルさんは私を見つけると「探したニャ。」と言いつつ近付いて来る。


 この猫娘さん、よく見るとなかなか可愛い。

 元の世界だったら、女子大生くらいに見える。


 思わずお持ち帰りして、風呂に沈めてノミ取りシャンプーで丸洗い、「助けてニャ~」嫌がり泣き叫びながら爪を立てて抱きついてくる姿を見てみたくなる。

 勿論、最後はドライヤー掛けられながら転がされ、ノミ取り櫛とガムテで全身からノミを取られてしまったあげく、悲しく「私……汚されてしまったニャ……。」とレイプ目をして終わるのを希望する。


 ……う~む。

 我ながらなかなか歪んだ性癖だ。


 だが、そのモフ耳にたかって跳ねる()()の姿有る限り、この欲望は終わらないと思う。


「うニャ!?なんか気のせいか狙われているような気が……」


 なかなか勘も鋭いようだ。

 さすが猫獣人!

 うちの実家で飼ってた猫も、私が「風呂に入れるか?」と考えただけで、こちらを見て速攻で逃げたものだった。

 そのあたりの感覚の鋭さは、同じ()らしく、同じなのかもしれない。


「まぁいいニャ、今日はこの間助けてくれたお礼に奢るニャ!なにしろあのままあの場所で寝てたら、噂のユニコーンの餌になってたかも知れなかったニャ。」


 そう言えばこのひと、「ユニコーンが出た!」という危険注意報がギルドから出てたのに、平気で森に入ってキノコ採りしてたんだよな。

 大丈夫なのかこの人?

 奢ってくれるとか言ってたけど、酔わされて私にお持ち帰りされる可能性とか、まったく考えていないんだろうか?


 だとしたら危機意識薄すぎるぞ?


「大丈夫です。この娘、酔うと『()()』になりますから。」


 うわぁ!!


 いつものベテラン受付嬢がいつの間にか後から近付き、私の心の声に返事をしてみせた!

 心読めるんですか?やはりギリギリ二十代ベテランになると?


「いえ読めませんよ?でも貴方が大変失礼な事を考えてる事は判ります。(怒)」


 やっぱ読めるんじゃねーか!!

 その般若の顔が全てを物語っている。


「まぁそんな事はいいから飲みに行くニャ、そこの受付嬢は婚期の事で毎回からかわれるから、その方面の悪意に関しては敏いのニャ。」


「なるほど……婚期が遅れている事を気にしていると……パセリ摘みに行けばいいのでは……。」


「違うにゃ、正確には()()()()()()()()が、文法的には正しいニャ。

 あと結婚相談所は既に三つ掛け持ちして全滅してるニャ。」




「まだ逸しておらんわ!!」




 ブチ切れて頭から湯気出す受付嬢さんから、私達は逃げまわりしまいにはギルドから追い出された。

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