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第二十四話 「暴走儀礼」


 ホドミンの街の朝は早い。


 日の出の少し前、東の空が明るくなる頃から、刻を告げる鳥の如く、農家の方角から鳥のさえずりが聞こえはじめる。

 商店街の街路には背負子をせおう商人達が行き来を始め、農民と思しき人々は背中に籠、手には鍬といったスタイルで、街の外門へと向かい始める。


 半分醒めてない頭にもかかわらず、階下にある宿のカウンターに向かい、チェックアウトの旨を告げ、フロレンティナと私のコンビは街の外へと向かう。




 いろいろと理由はあるが、なんといっても未だに『エルフの死体』を拾えていないからだ。




 一角獣討伐に向った連中も未だ行方不明のようだし、名目上受けた依頼(クエスト)とはいえ、薬草採取の方もはかどってはいない。

 受けた依頼達成率が低いと、冒険者ランクを落とされることもあるし、それ以前に私は最低ランクなので、冒険者ギルドを除名される可能性もある。


 幸い、フロレンティナは『大地の精霊』なので、薬草の種類や生えてる場所についても詳しいので、それ程難しい事ではないだろう。


 しかし毎回この手の依頼を受けるのなら、いっそ何本か貴重な薬草を『思考巨人の拠点』に持ち帰り、『ソーフォニカ』に頼んで細胞からクローン培養。

 そのまま株を大量に増やして、拠点内で大量生産する事を考えた方が良いかもしれない。


 閉鎖された環境での人工栽培など、ソーフォニカには難しい事じゃないだろうし、なんといっても拠点内には、()()()植物栽培の専門家たる『大地の精霊』達がゴマンと居るのだ。


 定期的に同じ薬草採取の依頼受け続けてれば、やがては冒険者ランクも高まるだろうし、受けられる依頼の種類も増えるだろう。


 いや、その為にとはいえ毎回『拠点』に戻るのも面倒だし、いっそのこと近くの森の中に、コッソリと薬草畑を作るのも良いかもしれない。


 盗まれたり野生動物に荒らされるのを防ぐ為に、畑の周りには侵入を防ぐ高い塀をオントス使って建てさせて……




 そんな妄想を歩きながら続けてるうちに、ダンミアの村へ到着した。




 到着したとき村の外側にある空堀に、なにやら村人達が集まっているのが見えたので、野次馬よろしくそこへ割って入ると、掘りの中に奇妙なモノを見た。


「なんだこれ?」


 造った時は空堀だった筈の堀に、僅かながらも水が貯まり、そこにから四本の足らしきものが、空に向って突き立っていた。

 四足動物が「犬神家!」なギャグをかますとは思えないので、集まっている村人の中に村長の姿を見つけて、事情を聞いた。


「村長、アレはいったい?」


「ええ、アレがここら一帯を騒がしてくれた、憎き『一角獣(ユニコーン)』ですよ。」




 えええええ!?




 村の空堀で『犬神家!』しているアレが、あのユニコーン!?




 そこで聞かされた話は、チョット信じられないような、一角獣(ユニコーン)騒動の呆気なく間抜けな終焉だった。


 私らが、猫獣人の死体(?)抱えてホドミンの街へ向った頃、村には再びユニコーンが襲来。




 だが、村の周囲には頑丈な塀と、更に外側に空堀が増えていた。




 ユニコーンはそれを、助走つけて飛び越そうと走り出したのだが、それを見据えて設置されてた落とし穴に足を引っ掛けた。

 身体が落ちはしなかったが、その為バランスを崩したユニコーンは、空堀を飛び越すどころか頭から堀の中へ向って突入。


 堀の底に設置してあった上に向けた杭は、残念ながらユニコーンの身体を貫く事は叶わなかった。

 しかし、頭から堀の底へ突っ込んだユニコーンは、角が堀の底に深く突き刺さった状態となってしまった。


 間抜けなユニコーンは、暫くはそのまま頭を下にした姿勢で角を引き抜こうと、手足をバタつかせていたのだが引き抜く事は叶わず、そのうちとうとう頭に血が登りすぎたのか、段々と動きが鈍くなっていった。


 ちょうどそこへやって来たのが、森の奥に住んでいるというエルフの魔法使い。


 その魔法使いは水魔法を使い、ユニコーンの()()()が水没する深さまで、空堀に水を引き入れ窒息させて、止めをさしてくれたそうな。


 エルフの魔法使いは、「礼は要らない」とそのまま去ってしまったが、問題は空堀(もはや水堀?)に放置されたユニコーンの死体!

 角が深く刺さってしまっているせいもあるが、何より二トンもの体重では、村人総出でも引っ張り上げるのは難しい。


 それで途方にくれていたらしい。





 それは後々の事を考えると、村の存亡に関わるかもしれない。


 そのまんま放置すればやがては腐り、村人にとっては衛生上の問題を抱えたままとなるのだ。


 いっそ()()()()ならぬ、堀の中で解体して部位ごとに引き上げることを提案したが、「それは既に試したが、革が頑丈すぎて刃物が通らない」ので諦めたそうな。




「仕方ないなぁ……」




 正直これ以上は、私が手を貸す必要性も無いのだが、あの『()()()』を造ってしまったという負い目も無いわけでもない。




 しょうがないので、無線機使ってソーフォニカ呼び出し、事情を話してあの要塞造った連中を再び派遣してもらう事にした。




 その日の夕方には、『要塞村』には『のうきょう』を名乗る、全身鎧着た謎の土木集団が再び現れ、要塞造った資材の残りを使い、釣り合い錘付けたデリックを作りあげてくれた。


 それを使う事により、ユニコーンの死骸は無事引き上げられたのだ。


 ……まぁ引き上げ作業時に、ちょっとしたミスでユニコーンの角の先が折れてしまうというアクシデントもあったが、村人達は喜んでくれてお礼にと、折れた先の方を「売却すれば充分高く売れるから」と渡してくれた。


 ソーフォニカに成分分析して貰えば、他の安い材料で製造出来るようになるかもしれない。

 後々、それを売る事が出来るようになればウハウハだろう。


 将来ソレに私自身が、『()()()』になる可能性も、無きにしもあらず!なのだ。

 備えはしておいたほうがいい!!(力説!)


 オントス集団に貰ったユニコーンの角を持たせ、『拠点』に帰らせた後になって私は気付いた。




「……未だ薬草採取終わってない……。死体も見つけてない……。」




 そのまま、また薬草取らず帰ったのでは、般若の顔になったギルドの受付嬢がとても怖い。



 結果、私とフロレンティナの二人は、再び森に入り野宿する事を決めたのだった。


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