第二十一話 「失踪者は禿③」
「彼らが協力してくれるメンバーです。」
ダンミアの村入り口前に整列した十一体の『オントスα H型』を前に、村長以下集まった村人達は皆、顎が外れたかのような驚愕の表情だ。
「こっこっこっ、これは……!?」
村長がドモッた鶏のように、説明を求めて来るが当然だろう。
ここからは嘘八百な私の出番だ。
「彼らは王都に籍を置くギルド『農業共同組合』、略して『のうきょう』のメンバーです。偶然この近くを通りかかったそうなので、協力を要請したところ快諾してもらいました。」
「……の、のうきょう?」
「はい、農業に携わるもの同士で連帯し協力しあう事を目的とした、ぶっちゃけ『聞け万国の農奴者よ~ウラーと叫ぶ”緊急事態発生”』な『紅い鎌と槌』を旗印にした集団です。」
「……言ってる事がサッパリよく判らないが、取り敢えず凄いのか?」
「ええ、そりゃ王都どころか近隣諸国でも『脳狂』と言えば、近所の主婦達が顔をしかめて子供たちに『近寄っちゃいけません!』と叱りつけ扉を締められるくらいに、恐れられる公益事業法人です。」
「……それは安心していいのか心配するべきなのかどっちな集団なんだ!?」
「そんな事を議論してる場合じゃありません、取り敢えず今はお互い協力しあい、一角獣から村を守り、社会の虚偽を討ち階級戦に勝利するのが先決です。」
「……ところどころ意味不明で不穏な単語が混ざって騙されてる気がしないでもないが、とりあえず助けてくれる事には間違いは無いんだよな!?」
「ええ、当然です!彼らもああ見えて”社会の”害虫駆除の専門家ですから期待しましょう!」
「……いや、相手は”虫”じゃなく”魔獣”なんだが……、というか頭になにか余計な言葉が付いてなかったか!?」
「虫でも獣でも同じ農作物相手には害である事に違いありませんし、似たようなモノじゃないですか!
大丈夫ですよ。あと枕詞はつい勢いです。」
「……そんなものなのか?オイ!?」
うんうん、うまく言った。
とりあえずこういう時はいかにも意識高い系を装い、相手にはよく判らない単語を羅列、勢いで思考力を奪って畳み込み、煙に巻いて丸め込むのが一番だろう。(オレオレ詐欺の常套手段でもある。)
無線で『ソーフォニカ』に頼み込み、暇そうにしてる精霊達を応援に駆けつけさせたかいがあったというものだ。
とは言っても彼女らは別段、戦力増強の為きてもらったワケではない。
そもそも『オントスα H型』は、勢いで付けた”アームパンチ機構”以外、専用の標準戦闘装備など無い。
たしかに仮想空間内の街に篭もってた時は、いくつものロマン武器を研究開発し、パラメーターとしての実験を繰り返しはしてきた。
だが、実体としては、製作も整備もしてこなかった。
なにしろ、製作したとしても利用する可能性が殆ど無かったからである。
もともと『思考巨人』の拠点に引き篭もっているかぎり、戦闘する予定なんかないし拠点の維持や拡張、整備といった土木作業用としてのオントスの重要性は高まり、最優先量産品目となっていた。
拠点内の旋盤、ボール盤、フライス盤、圧延装置、プラズマ溶断器、アーク溶接機に至るまで、いつでも全てがフル稼働に近い状態なのだ。
そこへもってきて、私の趣味の『試作品』を、生産品目に付け加えるなど、生産管理を任されてる精霊に、ジト目で断られるだろう。
元来、趣味に生きるのが大好きの怠け者集団である精霊達が働いてくれるのも、『自分専用のオントスが貰える』というご褒美があるからである。
過剰に働かせたりすれば新たな労働争議に発展しかねない。
まぁ『デルフィナ』をはじめとする極一部の精霊達は、コッソリと自分のオントス専用に戦斧や槍を作り出し、拠点の外で暴れまわってるのも事実だが……
話はソレたが、そういった武器にかわり、オントス専用の『土木作業用オプション』については、本体に次いで、大量に生産された。
オントスの魔導タービンの動力を直結して使う削岩機、プレートコンパクター、水圧カッター、ハンドオーガー、ツルハシにシャベル、そしてねこ車に至るまで何でもござれである。
そういった装備を活用しない手は無い。
応援に来てもらった精霊達にはそれらの装備を使い、この辺境の開拓村の防備を徹底的に『固めて』もらう事にした。
先ず、村を囲む塀の外側に、幅深さともに五メートルという空堀をほり、出た土を利用し元あった塀を基礎に、厚い土壁を作った。
土壁を固めるのは、大地の精霊たる彼女らの得意な『土魔法』で行うので楽勝だ。
入り口の門に入って直ぐの場所には、やはり深い落とし穴を設置、門に向って真っ直ぐ突撃してきたりすると、引っ掛かる仕掛けにしてある。(その代わり住民も、門の中に入る時、稲妻型に作られた通路を通らないと、落っこちる事になる。)
他にも相手が助走をつけて、空堀を飛び越そうとするのを見越して、更に外側にいくつもの落とし穴を設置した。
それらは全部、底に先端が鋭く尖った杭を上に向けて大量に刺してあり、”落ちたら串刺し”とまで行かなかったとしても、深さがあるので足の一本も折ってくれるだろう。(願望)
村の真ん中には、万が一それらが突破された場合の退避場所として、シェルターも造ってある。
半地下に、半球系に土を固めて作られたそれは、壁の厚みだけで五メートルもあり、これだけあれば一角獣の突撃でも充分耐えるだろう。
入り口は人一人分と狭くしてあるので、一角獣が強引に入り込もうとしても、サイズ的に無理なようにしてる。
そんなふうに、自重を忘れて村の防備を固めていったら、次の日には村は要塞と化していた……。
外の塀の厚みも高さも五メートルはあり、コレではユニコーンの突撃に耐えるどころか、上には歩哨が立って歩き回れるレベルである。
軍隊の駐屯地と言われても、違和感が全く無い……。
一晩明けて生まれ変わった村の姿を見た住民は皆、なんとも言えない表情をしていた。
どうも予想の斜め上に(私にとっても?)行き過ぎたからだろうか?
土木工事を終え、去っていくオントス集団を見る村人達の目は、いろいろと複雑な心境を抱えているような色をしていた気もするが、現在の我々に出来る”協力”は、最大限おこなったつもりである。
倒せない相手なら、こちらに手を出せないようにしてしまえば良い。
『防御こそ最大の攻撃』である。
村の心配が無くなった私らは、これで安心して当初の目的である”エルフの死体拾い”に没頭出来るというワケである。
討伐に来たという連中が行方不明となり、既に一週間以上が過ぎているワケだが、もし発見できたら遺体が出来るだけ”新鮮”である事を祈るばかりだ。
あんまり腐敗が進んでいると遺伝情報を取り出せないワケでは無いが、回収していく時臭い思いをする事になる。
私としては、出来るだけそんな目にはあいたくないし、それ以前そんな死体を前に吐かないで済む自信は全く無い!!
いろいろな葛藤に悩みながらも、私と『フロレンティナ』は、ついに森へ入る事にした。




