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第二十話 「失踪者は禿②」

 

「は~い。待ったぁ?スターリンちゃあん。」


 現地に着いたらピンクの花柄した全高二メートルの厳つい塊が、気持ち悪い”しなをつくりながら”待っていた。




 確かに個人レベルのカスタムは、多少は許可した憶えがある。




 だが全身ピンクの花柄は止めて欲しかった。


 精悍さが魅力の『オントスα H型』が台無しである。

 おまけにその無骨な姿でオンナのように、しなをつくるのはもはや精神的暴力だと思う。

 それから追加して言うが私の名は『()()()()()()』である。

 けっして『モノども働け』な紅い独裁者とは違うし、どこかの狂ったパンクロックバンドでも無い。


「えーと……その塗装で来たのか……?」


「そうよ~。だってエースなひとは二つ名を持って、スペシャルな塗装するのが習わしでしょ?

『紅い思想家 ジミー・ライデン』とか『蒼き去勢 ランバ・ダム』とか?」


 いや、いつからお前エースになったんだよ?

 それ以前に花柄は無いだろ?花柄は……




 彼女はの名は『フロレンティナ』。


 『思考巨人』の元に居候する『大地の精霊』の一人だ。

 仮想空間内の海辺の街では、私の家のご近所さんであり趣味は園芸だったと記憶している。

 アバターは、ベージュに近い薄い色素の茶髪に碧の目で、おっとり系のお姉さんという感じだったのだが……


 どうやら最近、アニメ『非道戦士 ガンバル』に、いつの間にかどっぷり洗脳されてたようだ。


 非常に困ったものである。


 なぜ彼女が『ガンバル』を知っているかというと、どうやらソーフォニカが私の記憶から動画データを抽出し、精霊達にたいして流出したからだ。


 人間の記憶というのは、魂と脳の二つの領域に刻み込まれているが、実は詳細にデータとしては残ったままらしい。

 『忘れた』と本人は思っていても、人間が肉体に宿っている場合は、単にそのデータを何らかの理由で引き出せなくなっただけで、データ自体が無くなっているワケでは無いのだそうだ。

 ソーフォニカは、現在一体化している私の”元の身体”の方の『脳』から、有用なデータを取り出し利用してるそうだが、精霊達への娯楽として私の視た映画やドラマ、アニメから本や音楽まで放出しているようだ。


 まぁ著作権などの権利者が異世界まで追い掛けて来る可能性は無いが、元の世界でいったら立派に違法視聴な気がする。(脳内映像の場合、どうなるんだろう……?)


 まぁそんな事は些細な事だと割り切ろう。


 人選の時「『デルフィナ』以外なら誰でもいい。」と、ソーフォニカに丸投げした私が悪いのだ。


 とりあえず村へ情報を得に、二人で向った。




 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇




 村の惨状は予想以上だった。


 一応村は、典型的な危険地域の”開拓砦”といったふうで、畑の除けば居住地全体に太い丸太で作られた塀で囲まれていた。


 だが、その太さ二十~三十センチの丸太で作られている筈の塀が、ところどころで車が突っ込んで壊されたようなサイズの穴が開いている。

 壁が粉砕されたり、もはやバラバラとなった家屋も数軒。

 地面にいたっては、ところどころに赤黒いシミがあり、未だ完全に片付けられてない凄惨な現場の痕を、色濃く残している。

 悲しみの表情をうかべながらも片付けや壁の修理を行う村人達の姿をしりめに、村の警備と思しき男性に声を掛けた。


 私はギルドの認識票(ランクは第十種で一番下なのが悲しい)、フロレンティナは聖体として私が抱えてきたエルフさんの軍での認識票を見せ、怪しい者では無い事を説明し村長の元へ案内して欲しいと頼んだ。

 ちなみにエルフさんの認識票の名前は『()()()()()』さんで軍での階級は『十人隊長(コントゥベルニウム)』、つまり元の世界でいったら分隊長か小隊長にあたる人物だったらしい。(階級的には少尉か小隊付軍曹か曹長か?)

 だからここでは立派な『()()()』(少々ゴツいが)を着た、元兵士の『マリアネラ』さんになりきって貰う。

 フロレンティナさんのゴツい姿(当たり前だ、実体はオントスのH型だし)を怪しんだ門番さんには、オントスの頭部を上へ跳ね除けて『()()()』を見せ、中身がヒトである事を確認させた。


 そう、このオントスが特別仕様なのは、胸から上だけとはいえ中に精巧な人形を入れてあるからなのだ。

 顔の部分は表情筋も動かせる仕掛けになっており、いざとなればコレを見せて、また魔物と間違えられるような悲しい事件を未然に防ぐ事が出来るワケである。


 そのまま村長のもとへ連れてって貰い、村の状況と討伐に着た冒険者がどうなっているのか教えてもらうことにした。




 状況は結構深刻なようだ。




 村長さんの話では、事の起こりは二週間程前に遡る。


 村人で山菜採りの爺さまが、森の中で一角獣に遭遇したというのだ。


 幸いその時はお互い距離があったのと、ユニコーンを興奮させる要素である”()()”が近くに居なかった事とあいまって、爺さまは村へ逃げ帰る事が出来た。


 どうやらユニコーンは女性の発する『()()』に興奮して追っかけてくる習性があるらしい。


 村としては、とても危険な存在なので冒険者ギルドに人をやって討伐依頼を出し、以降村人は森に入らず出来るだけ村を離れないようにしていた。

 そして一週間と少し前、街から討伐依頼を受けて来たという六人+一人のグループが、村へ訪れてくれたそうな。

 ちにみに+一人というのは囮役の女性冒険者の事である。


 彼らはそのまま森に入っていったそうだが、そのまんまとんと行方不明に。

 それだけならいざしらず今日私達が訪れる数時間前に、原因は不明だが怒り狂ったユニコーンが村に対して突入。

 犠牲として、二人の死者と四人の重軽傷者を出してしまったという。


 犠牲となった死者二人は共に女性で、しかも一人は妊婦!


 しかも襲われた時、ユニコーンに噛まれて引き摺られていく時、「お願い!お腹の子だけは助けて!!」と泣き叫んでいたそうである。


 それを視て、村の勇気ある住民が数人挑んでいったがいずれも返り討ちに。

 重軽傷者四人というのは、その時出たという。


 結局その女性はユニコーンに腹まで噛み破られ、妊娠していた子と共に死亡。


 その後ユニコーンは犠牲者の肉で腹を満たせて満足したのか、再び森へ消えたという。




 聞いただけで寒気がするような話だった……。




 まるで元の世界の、北海道で起きた『三毛別羆事件』の再現だ。


 あの時は体重三百四十キロ、体長2.7メートルのエゾヒグマに、七人が殺され三人が重症を負ったのだ。

 それに対してこちらは体重だけで五倍以上、足の速さはそれ以上だ。


 敵うわけがない。


 しかも相手は人の味を憶えた始末に悪い相手だ。

 三毛別羆事件の時、ヒグマは数度にわたり、同じ村を襲っている。


 今回のユニコーンも、同じ行動を取る可能性は充分ある。




 考えただけでガクブルである。




 おまけに、白髪と疲労の色が目立つ村長に、「出来るものならなんとかしてくれぇ!!」と泣き付かれてしまった。

 今まで散々な目にあってきたのだ、感情を抑えきれなくなってしまったのだろう。

 抱きつかれるのは白髪のオッサンじゃなく美女にして欲しいとこだが、嗚咽を続ける村長の事を思うとされるがままになるという選択肢しかなかった。



 しかし!



 たとえ男気を振り絞り、ここに残ってユニコーン討伐をやるにしても、現在の私達には戦力が足りない。


 そんだけの体重と厚い革なら、私の『雷鳴の杖』も通用しない可能性もあるし、一騎だけ居る『オントスα』のH型だけでは対抗するのに心許ない。



 非常に悩ませる問題だが、私は『()()』を下した。


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