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第十九話 「失踪者は禿①」


 ホドミンの街に着き冒険者ギルド直営のギルド会館(よーするに冒険者御用達の安宿兼食堂)に、宿を決めてから翌日。


 早速ギルドへ、こう書くとなにやら世間体が悪いが”エルフの死体拾い”の情報を集めにくりだした。


 だからといって受付嬢にいきなり、「野垂れ死にしたエルフの死体有りそうな場所知りませんか?」などと尋ねるようなバカなマネはしない。

 そんな事したら、翌日から”死体愛好者(ネクロフィリア)”として評判が立ち、周りから白い目で視られるようになり、しまいには住民から石まで投げられるようになるだろう。



 こう見えても”詐欺師”程ではないが、嘘八百は得意である。



 ギルドに着くと、冒険者登録した時の担当者は避け、出来るだけ温厚そうな受付嬢のカウンターに並んで話を繰り出した。



「強い魔物が出て怪我人が多く出るような、危険な地域っていうのはこのあたりにありますか?

 登録したばかりなんで薬草採取のクエスト受けようと思ってるんですけど、避けたほうが良い場所とか知らないんです。」



 温厚そうなベテラン臭漂う、ギリギリ二十代っぽい受付嬢は、この周辺地域の地図を出しながら親切に答えてくれた。



「そうよねぇ……

 最近だと、この街から西方向に向かう街道の先にあるダンミアという村があって、そこから北方向の森に、『一角獣(ユニコーン)』が出たそうなので、そこは絶対近づかない方がいいわよ。」


「一角獣ってそんな危険なの?処女にしか近づかないって聞いたけど」


「そんな話は聞いた事ないけど……。

 でも女性に向って襲ってくるのは本当よ。魔物の中でも四級危険生物に指定されてますから、見つけたら絶対近づいちゃいけません。

 急いで逃げてください。」


 受付嬢は魔物事典を取り出し一角獣の項目を見せてくれたが、そこに描いてある姿は、私が知るファンタジーに出てくるような絵姿とはあまりにも程遠かった。



 おまけに不細工過ぎた。



 ユニコーンといえば角が付いた白い馬というのが私の知るイメージだったが、この世界に居るユニコーンは、どうやら『河馬(カバ)』に角が生えた姿らしい。



 一見すると、二トン近い体重を持った鈍重そうな姿をしている。


 だが、本気になった時は馬の足の速さを超えるというヤバさで、実際に地元住民や冒険者の間で怪我人や死者が続出しているという。


「現在も四級冒険者のパーティーが一つ、討伐任務に行ってるけど未だ帰ってこないの。

 だから状況も今は判らないのよ。」


 ユニコーン恐ろしいぃいいい!!


 体重二トンっていったら普通乗用車より重量おもいだろ!?

 それで馬よりも速く突撃してくるんじゃ、そりゃ助かりようも無い!!


「そんな恐ろしい魔物相手でも、討伐に行くパーティー居るんですね……!?」


「ユニコーンの角は万能薬……主に禿(ハゲ)に効くと言われてる薬の材料になりますから、高く売れるんですよ。」


 ユニコーンの角は、ハゲに効く薬だったのか……って



 というかこの世界にはハゲに効く薬ってあったんかい!?

 元の世界ならノーベル賞貰えるレベルだぞ!!



「案外そのパーティーリーダーさんって、髪の毛が薄いとか?」


「いえ、薄いんじゃなくピッカピカですねぇ。」


 それでかよ!!


 しかし”禿(ハゲ)の為に命を掛ける”ってのは……なかなかの漢だな。

 案外すごい奴なのかもしれない。


「ユニコーン釣る囮に連れてった、女性の冒険者の事も心配で……」


 前言撤回。

 禿を治す為なら女性でも危険に晒すクズ野郎だった。


「エルフだから足が速いから大丈夫、とか言ってたんですけどねぇ……」





 なに!?


 エルフ!!??





「とにかく、革も厚くて剣や槍のとおりも悪い大変危険な魔物だから、間違ってもその周辺踏み込まないでね。」



 いきなりいい情報を手に入れてしまった!


 つまり今行けば、その周辺でエルフさんの死体が転がってる可能性が!



「判りました。そこを避けるようにしておきます。情報有難うございました。」


 私は早速、依頼ボードに貼り付けられた適当な薬草採取クエストを受け、街の西門からダンミアの村へ向けて出発した。

 たしかダンミアの村までは、街から四キロ程だった筈だ。

 街から出て門が見えなくなったあたりで、魔法の鞄から私自慢のチートツールの一つを取り出した。



「CQCQ チェックメイトキングツー こちらホワイトルック どうぞ?」


 《ダー エトゥ ペレダチュア ソーフォニカ(は~い! こちらソーフォニカ放送局です。)》


「……いや、対抗してわざわざロシア語で応えなくてもいいから……

 というか放送局って何よ!?」



 そう、無線機である。



 出力的には五ワット程度でAM変調、おまけに周波数の変更はわざわざ『水晶(クォーツ)』差し替えで行うゴツくて不便な代物である。


 開発したのはソーフォニカさんの前のご主人様だそうだ。


 なんでも、この世界は一応遠く離れた人とやり取りをする魔法もあるそうだが、その魔法を習得した人なら傍受し放題、即ち盗聴し放題なんだそうな。

 だが電波を使う無線機なら、この世界には他には未だ作られていない。

 だから傍受される心配もいらないというワケである。


 で、なぜ無線機を出したか?


 当然仲間を呼ぶ為である。


 そんな危険な魔物が居る場所へ、一人で行くなんて事が出来る程、私は自慢では無いが肝が座ってはいない。

 そこで支援をよこしてくれるよう頼んだのだ。

 予め支援役の精霊は『オントスα H型』の、この任務用専用の特別仕様機で、街周辺に元々潜んでる事になっていた。


 ソーフォニカに無線で、支援役の精霊とダンミアの村近くで合流したい旨を伝えると、無線機を仕舞い込み街道を西に向って歩きだした。



 ”死体拾い”などというチョット嫌な任務だが、仲間が操る”オントス”との初めての協調作業という事で、若干気分は高ぶっていたのだが、その気分がほんの一時間後、簡単にぶち壊されるとは……。



 この時点では、夢にも思ってはいなかったのだ。


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