第十八話 「夜馬車で来たあいつ。②」
ええ、すごい妙なヤツだったよアイツは。
ワシらトリレガの村からホドミンの街まで、馬車で荷を運ぶ隊商やってたんだ。
だが予想外に出発が遅れてセントミンバーの手前で、夜になっちまった。
そんでそこらで野宿しようって事に薪集めて火を焚いてたら現れたんだよ。
十二~十三くれぇの子供みたいのが!
最初こんなトコに人家なんて近くにねぇ筈だからさ。
幽霊かと思って護衛の連中含めて俺らぁ腰抜かしかけたぜぇ。
そんで話聞いてみたら、「金は払うからホドミンの街まで乗せていってくれ」とよ。
そりゃ俺達だって鬼畜じゃねぇし、子供……それも女らしいのをこんな寂しい場所へおっぽり出していくわきゃねぇ。
了承してやったんだが、そいつあきらかに子供で体付きから女らしいのに「私は女じゃない!これは大胸筋だ」とか言って必死で筋肉アピールしてるんだぜ?
笑っちゃったぜ。
おまえに成人していて元兵士だって言い張るんだぜ?
「身体がちっこいのはエルフの血をひいてるからだ」とか言って兵士だったときの、認識票見せてくるんだが、多分どっかで拾った他人のなんだろうな。
皆、ありゃあきらかに何か事情抱えてるんだなって察して、誰もそれ以上追求する奴ぁ居なかったんだ
そりゃ誰だって触れられたくない事の一つや二つはあるもんだからな。
だがよ
事情が変わったのは、朝になって街道を南に向ってる時だったかな?
森に入ってすぐの所に、腐った倒木が道を塞いでた。
そしたら護衛のリーダーが「これはおかしい、一旦止めろ」言うんで馬車をチョイ離れたところへ止めたんだ。
そしたら案の定、山賊の奴が出やがった。
人数は二十人程居たかな?
相手は弓持ってる奴もいたし、こちらで戦えるのは護衛の六人。
こりゃあ勝負にならねぇってなもんで、仕方なく連中に通行料代わりに荷物引き渡すしかねぇなって覚悟してたらよ、後ろの荷台から、そら、さっき言ってた途中拾った子供が、持ち物から樽が二つくっついたような形の杖出してきて、奴らに魔法をぶっ放したんだ!
そりゃみな驚いたぜ!?
なにせその杖からぶっとい雷が飛び出して賊共の殆どをふっ飛ばしちゃったんだからな!!
その時のすげぇ轟音で俺なんか暫く耳が聞こえなくなっちまった。
賊共に死んだ奴は居なかったが、雷に打たれた奴は皆やけどを負って気絶するか、魂抜かれたみてぇになっちまって、怖くなって逃げた奴以外は皆で縛り上げてとっ捕まえたってワケよ。
で、すげぇもん見せられたもんだから、皆でその子に問い詰めたら、「兵隊やってた時は魔法兵だった」言うんだな。
なんでも作戦の失敗で隊が丸ごとなくなっちまったとかで、再編成するのも大変だからと、隊が解散する事になって”クビ”になっちまったんだと。
それで街まで職探しやって来たというんだ。
オドロキだぞ!?
で、街へ付いたんだが捕まえた賊共の報奨金いらないから俺達で分けてくれ言うんだぜ。
そりゃこちらとしちゃ感謝感激よ。
で、今その金で飲んでるってワケよ!
イマドキ珍しいきっぷがいい嬢ちゃんだったぜガハハハハ!!
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
自分のコトを他人に話されてるのを聞くのは、なかなか気恥ずかしいモノがある。
そう、此処はホドミンの街の食堂兼酒場。
街に入ってギルドで冒険者登録も終わり、食事をしようと入った店で、よりによって街まで来るのに便乗させて貰った連中にでっくわすとはオドロキだった。
見つからないよう観葉植物の影に隠れ注文を頼んでると、連中の会話が丸聞こえになり羞恥プレイを強要されてる気分を味わっている。
そもそも、私が『思考巨人の拠点』たる洞窟を出て、わざわざ街まで出掛ける事になったのは、精霊達の労働争議が原因である。
新たに出来た私の『身体』を視た精霊達は、当初は大笑いし私をからかうネタにしてたのだが……
やがて「自分達も『肉の身体』が欲しい!」と言い出したのだ。
そこで『ソーフォニカ』から私に対する『お願い!』という名の命令が下されたのだ。
曰く、「エルフの死体を拾ってこい。」と。
よーするに精霊達は、私一人だけが新たな『肉体』を得たというのが不満らしく、自分達の『肉体』も、造れという事らしいのだが……。
現状、手元にある遺伝子……というか細胞は私とエルフさんの二人分しか無い。
これで皆の身体を造ったとしても、遺伝子が同じなんだから、気が付いたら周りは兄弟姉妹同じ顔とかいう気持ち悪い事態になりかねない。
ソーフォニカ本体で遺伝情報に多少の差は付けられるのだそうだが、それでも作れるバリエーションには限界もあるそうな。
そこで新たな遺伝情報源として、適当な『エルフの死体を拾ってこい』というのだ!
なぜエルフ限定なのかというと、精霊達から肉体を「出来るだけ早く欲しい」との要求もあった為である。
なんでも、今回の私の『身体』製造のおかげで、エルフベースのホムンクルスならば既にノウハウが蓄積された為に、早くに出来るようになったからだそうだ。
だったら私の身体を、早くに『男として』作り直して欲しいとこなのだが……
まぁ話はズレたが、だからといってそのへんの道端に、運良く「エルフさんの死体が捨てられてる。」なんて事はまず無いだろう。
だが、冒険者として活動しているエルフなら、危険な現場へ乗り込んで”死んでいる”事は充分ありえる。
となると、自分も冒険者になれば、同じような当クエストを受ければそういった場所で、”偶然にも”死んでるエルフを発見出来る”可能性”も有る。
というワケだ。
しかし正直、青木ヶ原樹海へ自殺者探しに入り込む迂闊な外人ウーチューバーを真似てるようで、私自身の士気はメッチャ落ちてる。
どうせ拾うのならば、生きてる美女のエルフさんを拾いたいのだが……
なんとか掛け合って細胞貰う事出来ないだろうか?
……いや、目的聞いたら絶対協力してくれない気がする。
一応今回にあたり、護身用としてそれなりに強力な装備を持ってきた。
その一つが、先程の酒場で私の活躍が話されていた時に出てきた、新・魔法の杖『雷鳴の杖』である。
これは、『オントスα』シリーズに使われてる『魔導タービン』を応用したもので使い方は
① 杖に付けられた輪っかが付けられたワイヤーを、指を入れて思いっきり引っ張る。
② ワイヤーを引っ張ると、巻き付かれていた内部のタービンが周り出し、周りの空気を吸い込み魔素を集め出す。
③ 集まった魔素を魔力源に、タービンに書かれた回転の魔法陣が作動し、回転速度を早めてさらに魔素を集め始める。
④ 集まった魔素が『雷の魔法』一回使用分集まると、チャージが終わった事を示すブザー音が鳴り、赤ランプが点灯する。
⑤ あとは目標に向けて引き金を引けば、雷が目標に向ってぶっ放される。
というワケである。
ただこれは、『細かい狙いを付けなくて相手を圧倒出来る』事をコンセプトとしており、それ故狙いをつけるとき、目標より若干上を狙うようにしないと、手前の地面に着弾(落雷?)してしまう。
あと、放たれる時の轟音や閃光は派手だが、実は殺傷力はそれ程でも無かったりする。
しょせん本物の雷と同じで、放たれる電気は直流なので物体の表面を流れる為、直撃しても運悪く死ぬ確率は十パーセント程度だろうか?
ただ喰らえばスタンガン食らったのと同じで、気絶するか暫くは動けなくなるだろう。
ただ……欠陥もあり、長い間タービンを回しっぱなしにしてると、チャージされる魔力が過大になりヘタすると爆発する。
実際、先程話されていた盗賊相手の時も、調子にのって逃亡しようとする賊に撃ちまくってるうちに、過充電(?)の警告音が鳴り響き、スイッチ切っても鳴り止まずそれどころか煙まで出始め、慌ててケーブルを引っこ抜いて止めるという事態にまでなってしまった。
最初の一発目を放つのにも時間かかるなど問題もあり過ぎな気もするが、威力がデカい兵器には『欠陥は付き物』であり『ロマン』でもあるので”当然”だろう。
実際この杖の威力、目撃したからこそ私のギルド登録の時、隊商の護衛として付いてた連中が「実力は問題ナシ!!」とギルドの受付に太鼓判押してくれたから、トラブル無く登録出来たのだ。
ただ……この手のファンタジーお約束の、『ギルドで登録の時、ガラの悪いのに絡まれる。』というテンプレが体験出来なかったのは、ほんのチョット残念であった。
せっかくそういった時の為の対策用の装備も、一ヶ月掛けて造ったというのに。
……残念ナリ。




