第十七話 「夜馬車で来たあいつ。①」
あれから約一年が経った。
そう私がこの世界へ召喚されてから、約一年だ。
私がソーフォニカと共同開発した、二足歩行ロボ……ゴーレム、『オントスα』シリーズは、あれから発展を遂げ、仮想空間内の街中でも珍しいものじゃ無くなっている。
この都市の住民は、あの『不細工な塊』に乗り憑いてスポーツなどをする事を、積極的に楽しんでいる。
個人レベルのカスタマイズも、色々されつつあるようだ。
仮想空間内だけではない。
パラメーターだけの存在ではなく、実体としての『オントス』シリーズも、『思考巨人』本体の拠点整備や作業用としても大量に作られ、あの巨大な脳の維持、及び増殖に伴う設備の増設の為、もはやなくてはならない存在と化していた。
それまでは、そういった作業を居候している『大地の精霊達』に頼み、岩と泥で作られたゴーレムで行ってきたそうだが、元来ゴーレムというのは、形状を維持するのにも動かす為に関節部分の変形にも魔力を消費するという、真に燃費の悪い代物だったらしい。
魔力源として、製作した時に使われる『魔石』と呼ばれる、魔物の体内で精製された石を使う事もあるが、基本的には取り憑いて動かす精霊達の体力(魔力?)勝負となる為、到底長時間稼働など、出来るものでは無かったのだ。
だが、この『オントス』シリーズは、最初から形状が出来ている為、維持に精霊達の魔力を必要とせず、それどころか周りの大気中から魔素を集めて利用するので、燃費という点で、大幅な向上を遂げたのだ。
またオントスシリーズも、従来の全高二メートル程度のものは『オントスα H型』へと発展し、派生型としてより小型の『オントスα GB型』という全高1.3メートル程度の物も開発されている。
これは、より小型化する事により、隠密性を高め狭い場所での運用も考えた新モデルである。
全高がゴブリンと同じサイズである事から、彼らの棲み家である洞窟などへの侵入など、意外と使い勝手の良いモデルとなった。
ただ……困った事は。
精霊達がときおり実体型のオントスを持ち出し、時には人家近くの森まで進出して、魔物を狩ったりゴブリンの拠点を潰したりと大暴れ。
目撃した冒険者に”新種の魔物”と間違われて襲われ、それを返り討ちにするという事態まで起きていた。
以降、冒険者ギルド(ファンタジーらしく、この世界にもあったらしい!)では、討伐対象として賞金まで掛けているという。
一部の跳ねっ返り精霊のしでかした事とはいえ、非常に困った事態になりつつあった。
ちなみに、その事態を引き起こした精霊の一人は、『デルフィナ』だったのでゲンコツ一発と、オントスの使用停止三ヶ月を言い渡したら、「せめて一ヶ月にしてぇええ!」と泣き喚き、他の精霊達の失笑をかっていた。
どんだけ『オントス』に執着するんだよ……それともヤバい依存症でも存在するのだろうか?となんだか心配になってきた。
そして、そんなちょっとした厄介事も抱えながらも、趣味にまみれた楽しい毎日をおくりながら、ついにその日がやって来た。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
そう、その日は異世界へ来た私にとって最大のハレの日。
つまり喜びの日となる筈だった。
しかし……
「……えーと、色々と言いたい事はあるんだけど……。」
色々と普段私に尽くしているソーフォニカに、あまり文句は言いたくは無いのだが、今回だけは抑える事が出来なかった。
目の前の、巨大なガラス瓶のような、ホムンクルス生成装置(人工子宮という名が付いてるが、なにやら背徳を感じる名称なので、あえて使わない!)の中に横たえられた、新しく作られた私の『身体』。
今、私が取り憑いてるオントスの外部視察カメラを通して視た姿は、私の理想としてた予定を、バラバラに打ち砕いだ。
「えーと、薄いとはいえ、気のせいか胸、あるんだけど……」
「ええ、見事な大胸筋ですね。」
………………。
「気のせいか下に男の大事なものが無いんだけど……」
「そんなモノは飾りです。エロい人には、それが判らないのです!」
いやそーゆー問題じゃ無いだろう!!というかその返しは一体ドコで憶えたんだ!?
「……どーゆー事か、説明して貰えるかな……?」
「……ええ、まぁ具体的に細かくいうとですが、エルフさんの細胞をiPS化して卵子造って、同じくご主人様の細胞から精子を造り、この人工子宮内で受精させたのですが……」
「……ホウホウ……。」
「人工子宮内のpH値ミスって酸性よりにしちゃった為、本来受精したら男になる筈の精子が全滅。」
おいおい……
「結果、受精して着床に成功したのが女になる精子でして……。」
つまりか!?そんな事で私の新しい身体が女になってしまったのか!!??
それじゃあもとのエルフさんの身体もらった場合と意味変わらないじゃないかい!!
「……それにたしか、こちらの『人間』は早熟だから十二~十三歳程度でも成人近くまで成長をすると聞いてのに……元の世界の十二歳程度の外見にしか見えないんだが……」
「ちょっとしたミスです。元にした貴方の遺伝子もエルフの方の遺伝子もともに、種族としては成長が遅いの忘れてました。」
そうか……つまり、成長が遅い種族同士の遺伝子掛け合わせりゃ、そりゃそうなるわな……
ってオイ!!
「……まぁせめてもの救いは……結構べっぴんさんな事だなぁ!まったく意味が無いけど!!」
「ええそれに関しては、まさかこちらもエルフの染色体の方が卵母細胞の減数分裂時、多く強く残る特質があるなんて、思いもしませんでした。」
………………………………。
「異世界人とエルフの間での受精卵が作られた場合の、貴重なサンプルです!。この結果は私も意外でワクワクしました。」
「えーと……つまりその……この身体は殆どエルフと……」
「はい!間違いなくエルフの特質を大きく受け継いでますね。というか殆ど変わりありません。」
ががーん!!
女でエルフ……いろいろと元の身体と違う要素てんこ盛りな件。
頭痛くなってきた……。
「つまり私は……生臭くてイヤな話だが、これから初潮が来たら毎月『月のもの』に苦しめられなきゃならないのか!?女性のように!?」
想像したら更に頭痛くなって来た……。
中学の頃クラスメートの女子達が、体育の時間ソレが原因で次から次へとドロップアウトしていったのを思い出してきた……。
「だ!大丈夫です!エルフの場合、生理が来るのは一年に一回程度です!!」
一年に一回程度なのか……その程度ならなんとか……
「そのかわり三ヶ月程続く事もありますけど……。」
ガガガガガガーン!!
「でも大丈夫でーす。エルフでこの年齢の身体でしたら、初潮がくるまであと百年くらいかかりますから……」
……百年後か……まぁそんなに期間あるんなら、ソレまでの間に覚悟決めるしかないのか……
ん?
百年後!?
「……えーとそれって今気がついたんだが……」
「はい?」
「百年後っつーたら、この身体の遺伝情報もらったエルフさんが女神になって天罰落としに来るでは……」
………………。
「「ハハハハハ。」」
もうイヤ!
この世界!!




