第十六話 「協力組織⑦」
「では第一回、試製二足歩行型ロボ……いや、ゴーレム製作における反省会を開会いたします。」
「あの~……え~と……なんで私まで、ここに居る必要あるの?」
ソーフォニカが創った仮想空間の街に存在する、普段は彼女自身のプライベートハウスの一室に、私達三人(?)は集まった。
約一名、最初の被験者たる地の精霊の一人、『デルフィナ』が不満の意をあらわにしてるが、気にしてもしょうがないだろう。
「無視?無視なの!?ねぇ、これってイジメ!?イジメなの!?私の意思は?ねぇ!?」
彼女が私の裾を掴んで騒ぎ続けるが、この程度で中断したら話が進まなくなるので、脳内で無視を決め込む事にする。
「今回、実験機の急な停止について、原因はなにか掴めているでしょうか?ソーフォニカさん。」
「はい、原因は簡単に判明しました。原因は発電用に使われている魔導タービンの軸受の焼付です。」
なるほど……、厄介な点である。
元々魔導タービンは、回転時にタービン軸を軸受から空気圧で”浮いている”状態にすることで、保持している。
だが、実際に使用してみると、跳んだり走ったりするうちに、発生する『荷重』や『衝撃』で軸受に接触、結果熱が蓄積し続け焼き付いたという事らしい。
タービンからの電力供給が断たれても、暫くはキャパシタに蓄えられた電力、それが切れても背中に搭載されたフライホイール蓄電システムから電力は供給されるが、そのの回転力が落ちればジャイロ効果の恩恵も無くなる。
結果、制御が難しくなった機体はデルフィナの操縦ミスで転倒、その後、完全に電力がなくなりそのまんま擱座。
動けなくなり、現在に至る……と。
「なによ!?それじゃ私悪くないじゃない!それなのになんで私ここに居るの!?」
なかなか難し案件である。
軸受を、空気軸受から磁性流体やオイルフローティングに変えたとしても、熱問題を処理しない限り、同じ事の繰り返しになるような気がする……。
「一応対策はもう出来ています。魔導タービンの出力を僅かにロスする事になりますが、流入空気の一部をタービン軸受の冷却に使用、あと副次的な措置としてタービン軸に浮遊の魔法陣を描き、軸受との接触を避けるよう設定する事です。」
さすがソーフォニカさん対応が早い!異世界チートコンピューターは伊達ではないという事か?
「軸受と軸にネオジム磁石仕込んで極性反発も利用するというのはどうだ?」
「それも良いアイデアですが、軸受がキュリー温度(強磁性の性質が失われる温度)を超える可能性も無いとは言い切れない為、オミットしました。」
う~む……さすがに非道戦士ガンバルのようなマグネットコーティングは、現実では無理がありすぎるか。
”アニメと現実は違う”という事らしい。
それ以上に「非現実的な魔法あふれるファンタジーな世界でそれを言うな!」というツッコミは却下だ。(私は誰に言ってるんだ?)
とりあえず彼女の改良した点を魔導タービンに盛り込み、多少形状が変わったタービンを機体内に無理無く収められるよう、概念図を変更する。
多少は重心位置が変わる事になるが、その事による操縦性の悪化は実際に被験者に乗り憑いて試してもらった後に、検討する事になるだろう。
幸いな事に、機体内部の余剰空間はタップリある。
「ねぇ……それなら……。」
珍しく『第一被験者』(以降も継続予定)である『デルフィナ』さんが意見具申してきた。
「足を長くしてもうチョット、スマートにする事出来ないの?頭部の造作も面白みが無いっていうか……ブサイクだし……」
「却下。」
「ええ!?いきなりなんでよ!?」
「実は俺……」
「「ウンウン?(ごくり)」」
「……デブ専なんだ。」
その後、会議は紛糾した。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
結局、試製小型二足歩行ロボ……ゴーレムは更なる改良を受ける事になった。
と言ってもプロポーションはそれ程変わっていない。
大きく変わった事といえば、魔導タービンから発っする推力を制御出来るようにし、ジャンプ時に空中である程度の姿勢制御が出来るようになった事と、腰部に牽引用アンカーと射出機が付いた事。
その他は軽量化の為、機体形状を四角を基本にしたものから部分によっては多面体とし、いわゆる”肉抜き”をおこなった事。
開発者兼デザイナーの私としては、多少はカッコ良くしたつもりなのであるが、相変わらず被験者のデルフィナからは『ブサイクな塊』と表現されるので、開き直った私は開発名称を『オントスα』とした。
どーせ意味など判るまい。




