第十三話 「協力組織④」
「もう少し、時間を短くする方法もありますよ。」
『悪魔のような甘美な囁き』を、巨大脳は囁いた。
「それは何!?」
「簡単な事です。『貴方の身体』を、一から作ればいいんです。」
!?
そう、このやり取りこそが、私の最初の間違いだった気付くのは、もう少し後の事だったのだ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「簡単に言えば、貴方が持ってきた聖体、『エルフの身体』を使うんです。」
「いや、それは却下だと……」
「もう少し落ち着いて最後まで聞いて下さい。別段あの『身体』に貴方の魂を移し替えるとか、そういう事ではありません。ほんの少し細胞をいただくんです。」
「細胞?」
「はい。あのエルフからいただいた細胞を初期化、つまり言うなれば一旦iPS化し卵子を作り上げます。」
「へ?」
「そこへ貴方の遺伝子を取り込み卵母細胞とし減数分裂させ、それを核として錬金術でホムンクスルを造り貴方の身体にするんです。」
ええええええ!?ちょっそれって……
「それって……あのエルフさんとの間で相手の了承なしで勝手に子作りするような……、というかまるで睡姦で相手孕ますような犯罪臭が……」
「大丈夫です。相手は既に天界へ召されてます。文句を言う相手はおりません。ただ……」
「……ただ?」
「このような形で神に召された魂というのは、今までの例からほぼ、輪廻から外れ女神として復活してます。」
「ちょっとまて、それってバレたら女神となったこのエルフさんから『天罰を受ける』というフラグでは……?」
「大丈夫です。今までの例では女神に転生するまで百年以上掛かるのが通例です。おそらく天罰からは逃れられますよ。」
「ハァー、そうかぁ。さすがに百年後じゃあ心配する必要ないよなぁ……ビックリしたぁ。」
「……ええ多分。」
多分?なんかそのつぶやき、不安なんだが……
「……しかしそれって最初っから子供つくるようなモノだろう?冒険が出来るような年齢の身体まで育てるのに楽勝で十年以上掛かるのでは……?」
「その点は大丈夫です。そもそも、元々の貴方の身体の修復に時間が掛かるのは、貴方の身体はこの世界の生物とは僅かですが相違が存在する為、ある程度の試行錯誤が必要だからです。」
!?
「具体的に言えば、貴方の身体の遺伝情報は、この世界の生物とは違いがあります。あえて言えば『人種』と呼ばれる種族に外見や能力は近いですが遺伝情報は全く違います。」
これは驚きの情報だ!!
「私達は、元々のこの世界に居る種族に関しては、遺伝子レベルで知り尽くしてるので急激に成長させたり代謝機能を弄ったりするのはワケありません。ましてホムンクルスなんて、自由に外見年齢や体格弄るのなぞ朝飯前です。」
さすが、異世界チートコンピューター、万能過ぎて後光まで指して見える!!
「大体、この世界で人種と呼ばれる種族が、冒険者としてデビューするのは十二~三歳と言われてます。その程度の年齢に身体を造るなら一年程度で作れます。」
「十二~三歳で冒険者にって、ちょっと幼すぎないか?そんな過酷なのかこの世界!?」
「いえ、もともと人種は早熟なのです。そちらの世界の子供より成長が若干早いと思っていただければ問題ありません。」
なるほど……単にこちらの子供と成長速度が違うだけなのか……
そういえば今まで見たことのあるコチラの住民は、ホリが深くて外見がいかにも外人っぽい連中ばっかだったな。
「というわけでどうでしょう?新しい身体を造り始めても宜しいでしょうか?」
「う~ん……」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
結果的に言えば、私は新しい身体を造る事を、了承してしまった。
具体的には『ナニが?』とは言えないが、なんとなくヤバい事を了承してしまった気もする。
だが、やはり使える身体が存在しなければ、この世界を知る為の冒険一つ出来やしないし、以前の多少は歳を重ねたクタビレた身体では、これからの生活キツイだろう。
若い身体から再び始められるというのなら、そちらの方がイイに決っている。
それでも、新しい身体が出来るまで、一年近く掛かるというので、その間をどう過ごす事になるのかと、多少不安に思っていたが、それは有り難い事に杞憂だった。
むしろここでの生活は『現実』以上に快適だったのだ。




