第十二話 「協力組織③」
世の中には間違いという奴はある。
人間だろうと神様だろうと、間違いというのは必ずありえるのだ。
『神は骰子を振らない』などという言葉は、量子力学という学問が発生した時点で、もはや死語となった。
そして私は、その間違いという奴で、色々と精神的に痛めつけられているワケだ。
決して悪意が介在したとは思いたくはないのだが……
永きにわたる放置プレイでこの世界唯一の世界最大級疑似生体コンピューターも、なんらかの変質をしたとしてもおかしくはないのかもしれない。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「それは無理で御座います。」
この手の異世界トリップ系小説主人公なら誰でも口にする願いをいきなり最初の一秒で否決されてしまった件。
「えーと……なんで……その、異世界で『冒険の旅に出たい』などというささやかな願いを否定されるのかなぁ?オイ。」
「その願いが『ささやか』と言えるかについては異論もありますが、先ずこれを見ていただきましょう。」
私の視界は目の前にある、僅かな光で照らされた水に浮かぶ巨大な脳の、一点にズームされていく。
まるでVR系のゲームを強制的にやらされてるような気分だが、ズームされた視界の中に、巨大脳から突き出ている二本の突起を見て、頭の奥から衝撃を受けた。
「……あれって人間の足に見えるんだけど……」
「はい、貴方様の足ですね。」
「『犬神家!』ってギャグじゃないよね?」
「私達がなぜそんな時代遅れのギャグをカマさなきゃならないんですか……?」
いや時代遅れって……お前ら異世界のコンピューターだよな……?
「もしやして私って取り込まれてる……?」
「はい。思いっきり取り込まれてますね。」
「……えーと……、説明して貰えるかなぁ?」
そこから説明された言葉は、結構ショッキングな事だった。
よーするに地下水道を意識無く流れていった私は、水道内の壁や岩に擦られ海まで流され海洋生物に齧られで、結構酷い状態だったらしい。
よく死ななかったものである。
運良く(?)この巨大脳味噌さんが、外部からミネラル分を採取する為作られた取水口に、私が引っ掛かったところを助けあげてくれたのだが、損傷が激しいので、生体コンピューター内に流れるナノマシンたっぷりの人工血液に漬け込むことにより、壊死した細胞の除去と失われた細胞の再生という救命措置が行われ、今の私は生かされてるというワケだ。
しかしいかんせん。
10代20代の身体と違い、クタビレかかっていた私のカラダは、完全修復を終えるには、少々時間とやらが掛かるらしい。
その年月はこの巨大脳さんの概算では約10年くらい!?
冒険する間も無く、年寄り一直線になりそうである。
「一応他に方法もあるにはありますが」
「却下!。」
なんとなく予想は出来た。
私が後生大事に抱え込んできた、今や『聖体』と化したエルフの女性兵士の身体を使う事だろう。
魔導の研鑽を積み上げてきた先人に、永きに渡り付き従ってきたこの巨大な脳なら、私の魂をそちらの身体へ移すなどという秘儀も、きっと習得済みだろう。
だが、当の持ち主の許可無く、この身体を使うのは、なんとなく気が引ける。
許可を得ようにも、当の本人の魂は神の元へ召されてる。
それに、一番大事な事だが、この身体は女性である。
今までウン十年オトコを続けてきた私だが、今更性転換してやっていける自信はマッタク無い!。
ましてや、『月のモノ』として知られる、女性にしか無い『生理』などという生体活動は、聞くところによると、それはそれは激しい、拷問のようなモノらしい。
そんなモノに毎月耐えられる自信は無いし、更に同性愛者でも無い私にオトコとの間に愛の行為をする気は無い。
まして、出産などという女性の人生最大と思えるイベントは、私に到底超えられるとは思えない。
素直に自前の身体が修復される10年とやらを待とうかな?という気持ちになっていた私に『悪魔のような囁き』を、巨大脳は囁いた。
「もう少し、時間を短くする方法もありますよ。」




