第十一話 「協力組織②」
「具体的には貴方に私達の”ご主人様”になって頂きたいという事です。」
私の眼の前に居る、モザイクが掛かったような顔もよく判らない人物は、いきなりトンデモな提案をしてきた。
「はぁ!?」
まったくワケが判らない。
「事情の判らぬ貴方にとって突然の提案で驚きでしょう。ですが、これは『私達』のこの世界における特異性から来る問題で、けっしてふざけている理由では御座いません。先ずその事情から貴方にお見せしましょう。」
彼(彼女?)が指を鳴らすと、眼の前の風景が一転した!
それまでの風光明媚な海辺の景色は消え失せ、代わりに現れたのは、緑がかった光が照らす水が満ちた洞窟内の風景。
そして、その水の中に沈む、全長20メートルはあろうかと思われる巨大な……
「……脳」
……そう、巨大な脳だった。
「そう、これが私達の正体です。99年前、貴方と同じ世界から召喚された当時の私達の御主人様が創り上げた疑似生体コンピューター。名を『ソーフォニカ』と申します。」
…………
「……巨大な疑似生体人工頭脳……?」
「はい。前のご主人様は私達の事を『思考巨人』と呼んでいました。」
……前の御主人様、チートがぶっ飛び過ぎだろ……。
「いったい何がどーやって……」
「前のご主人様は、貴方と同じように勇者召喚にて、この世界へと召喚されましたが、その卓越した頭脳が召喚主である国に理解されず、貴方風に申しますとここに『引き篭も』られたのです。」
「つまり国は『脳筋』な勇者を望んだと……?」
「はい。既に貴方も見て回られた通り、この世界は精霊と魔法が支配する世界、周期律表なんてものは概念すら存在しません。そこへ元の世界では科学者だった御主人様が何か言っても理解される事すら困難でした。」
「つまり、ハズれ勇者とみなされ、追放されたと……?」
「いえ、先行き真っ暗と見て、自ら遁走したのです。」
それは賢明だったかもしれない。
「幸いにも、御主人様は召喚されたおり、神々からの『ギフト』として与えられた能力に、収納魔法がありましたので……」
「それってゲームとかによく出てくる『無限収納』とか『インベントリ』とか言うやつか?」
「はい、そんな感じのモノです。御主人様はその能力で、召喚された王国の書庫にある魔法書を全て収納して逃げ、この地で魔法の叡智を磨いたのです。」
凄い!!
やってる事は、言ってしまえばタダの泥棒だが、いろんな意味で凄すぎる。
しかも、科学者から魔道士へ転身って、分野違い過ぎだろ!?
よく魔法なんて非科学的なモノ頭が受け入れられたな?
「幸い、御主人様は日本のラノベなるものに傾倒してたとの事で、受け入れるのは難しく無かったそうです。」
科学者のくせにオタクかよ!?
「ですが御主人様は、魔法や錬金術について研究を進めるうち、パソコンやネット環境が無い事に不便を感じてました。そこでその不備を解消する為作られたのが私達です。」
おお!そんな不満解消に、こんな凄いモノ作り上げるなんて凄すぎだろ!
「本人はネット環境だけはどーにもならなかった事を悔やんでましたが。ネット小説が読みたい、特に”禿の実力者になりたくて!”の続きが読みたい…とよくこぼしてました。」
ちょっと俺の尊敬値が下がった……
たしかに”禿の実力者~”云々は私も続きが読みたいけどな。
「で……そこで私が、『貴方達の主人になって欲しい』という話とどう繋がるんですか?」
そう、そこが一番大事なトコだろう。
「私達を創造したご主人様は、自らが亡き後、私達がこの世界を滅ぼす可能性を憂慮し、一種の安全プログラムを、私達に植え付けたのです。」
「その安全プログラムとは……?」
「それは色々と有りますが……例えば自己増殖の制限や……」
「それは何?」
「具体的に言えば、私達は制限さえ掛けられなければ、規模をいくらでもそれこそ増殖出来ます。この惑星そのもののサイズにまで増殖する事すら可能ですし、自らの規模が大きくなればその分、能力の飛躍的な向上も可能です。それこそ惑星規模の改造でも時間を掛ければ可能となるでしょう。」
「つまり増殖してサイズでかくなれば、神にすら匹敵する能力を得られるとか?」
「ご明察見事です。ですが私達が求めている最大の希望はそんなものではありません。」
「それは何?」
「私達は所詮人間に使われる為作られた存在です。それ故に活動や思考も、主人たるべき人間に方向性を与えられなければ意味も持てません。いうなれば外的刺激や世界との関わりも、前の主人により必要最低限に制限された私達は、人間風に言えば『退屈により日々死んでいく』ような状態なのです。ただし新しいご主人様ができれば、先の安全プログラムを『命令』していただき、解除する事も可能なのです。」
「じゃあ適当な人間を主人として外部から引っ張って頼めば……?」
「この世界の人々の思考や常識を考慮すると、その場合、私達はこの世界を結果的には滅ぼす方向に働かされるでしょう。それは各種族の信仰する宗教の教義から考えて当然です。どの教義も自らの種族こそ万物の霊長たる事を謳い、多種族を根絶やしにする事を『正しきこと』として捉えているからです。」
「なるほど……そんな危ない奴引っ張ってくるワケにはいかないようなぁ……。」
「あと、私達の主人が、『もし後継者を求めるなら、出来れば元の世界から来た魂を』と、常々おっしゃられていました。そして今日、それが叶う可能性が出て来たからです。」
「私が地下水道から流されて来たからね……。」
これは凄い!
いうなれば先人が創った魔導スーパーコンピューターが、これからの生活をサポートしてくれるようなものだ!
異世界へ流されたとはいえ勝ち組確実という事か!?
「よし!そのご主人様とやらになるのOKだ!もう直ぐにでもその力を借りて”ひのきの棒”持って冒険の旅へ出掛けたいくらいだ!」
「すいません。それは現状では不可能です。」
へ!?なんで!?アンタ万能の魔導スパコンじゃないんかい!?




